きょうもメインはこれ!!

グランプリ受賞作だが、それと知らず読んで喝采した!!

 

No.147 2021.11.24(日)

塞王の楯/今村翔吾/集英社/2021.10.30 第1刷 2000+10%

 分厚い。寝っ転がって読むには少し不都合な程重さもある。本文552頁。顔に落ちたら怪我するかも知れない鈍器本なのに、頁を捲る手を止められない。本を置くのはやむを得ない自然の欲求に追い詰められた時。ひたすら読む。天下に名を轟かせる「防御の盾としての石組集団・穴太衆飛田屋」頭の匡介と、何物をも貫く攻撃力でしょう「天下の矛を造り出す鉄砲鍜冶集団・国友衆」次期頭目・彦九郎が、「最強の楯」と、「至高の矛」の誇りをかけて闘う大津城の攻防を描く巨編。

 

 …これ以上の争いを無くしたい。その為には、誰にも破ることの出来ない石垣を積む…

 

 …これ以上の争いを無くしたい。その為には、究極の武器を造り出し、両方が手を出せない時代に…

 

 守る。攻める。

 この両方の相容れない条件を満たす事は可能なのか。

 

 今村翔吾が挑んだのは、まさに究極の選択。

 いわば「北風と太陽」の戦場版か。2人とも同じ目的なのに、その手段は正反対。2人が己の全てを出し挑む「もう一つの関ヶ原の闘い」。

 楯が守る意思を固めたのは、大津城主の京極高次と信長の妹、お市の娘で高次の正室の初の人柄と民を守るために籠城を選んだその矜持。

 矛が戦闘に掛かる意思を固めたのは、自らの銃が最強だと証明するため。

 

 この2人の攻めぎ合いをメインに、関わる各々の人々の生き様を鮮烈な、激しく青白い炎を上げると筆力で描き切った傑作。

 

 人の顔が見える文章には、心底感動してしまう。一人一人の各々の喜怒哀楽の感情の表情が目に浮かぶのだ。

 凄まじい筆力と言わざるを得ない。素晴らしい。感服。

 

—内容紹介を引く……

 どんな攻めをも、はね返す石垣。

 どんな守りをも、打ち破る鉄砲。

 「最強の楯」と「至高の矛」の対決を描く、究極の戦国小説!

 越前・一乗谷城は織田信長に落とされた。

 幼き匡介(きょうすけ)はその際に父母と妹を喪い、逃げる途中に石垣職人の源斎(げんさい)に助けられる。

 匡介は源斎を頭目とする穴太衆(あのうしゅう)(=石垣作りの職人集団)の飛田屋で育てられ、やがて後継者と目されるようになる。匡介は絶対に破られない「最強の楯」である石垣を作れば、戦を無くせると考えていた。両親や妹のような人をこれ以上出したくないと願い、石積みの技を磨き続ける……。ぶつかり合う、矛楯した想い。答えは戦火の果てに…。「最強の楯」と「至高の矛」の対決を描く、圧倒的戦国小説!

 

 フィクションとは分かっていても、ここに描かれている京極高次と信長の妹・お市の娘で高次の正室の初様は、実際に作家が現場に取材に行って観て来たのではないかと、思うほど素敵に洒落ていて心から好きになってしまったは、とても小説世界の事として切り離せないほど造形豊かなのかも知れない。大津城攻防戦は、〈矛と楯〉の戦いではあった。しかし、実際に戦っていたのは「恐怖心を押し殺してなんとかして民を助けようとした高次とお初だった」のでないだろうか。

 城に籠る三千人。押し寄せる攻城方一万五千人。圧倒的な武力の差。その上、石田三成の命を受け新式の銃を携え参戦した国友彦九郎。寄せ方は、さっさと大津城を攻略し西上する徳川家康を迎え撃つ三成の陣に馳せ参じたい。しかし、城を守る。民を守る。殿様と奥方を守る、その思いで一つになる石工集団穴太衆と頭の匡介がいた!!

 

 やはり、人が動いてこその小説なのだ。確信的に思う。傑作。

 ★★★★★∞