きょうは、伊東潤。歴史作家であり時代小説の人気作家であり現代小説へのアプローチも強い。新しい時代の見方を示してくれる貴重な作家だ。

 

No.100 2021.8.12(木)

琉球警察/伊東潤/角川春樹事務所/2021.7.18 第1刷 1900+10%

 時代小説作家で評価が高い伊東潤が、時代と共に消えていく「戦後日本史」を描く怒涛の昭和の日本人を見据えたシリーズ的作品の最新刊。

 沖縄。敗戦後ブンどられた北方領土とは異なり戦勝国として占領された日本国の中で、アメリカ合衆国が差し迫った共産主義国との闘いの最前線、または防波堤として位置付け、基地の島にしてその占領を将来に渡り続ける意図を持って支配した沖縄。

 その長く苦しく悲しみに満ちた時代を一人の琉球警察公安担当の目を通して描く骨太の反骨物語。

 

 沖縄を人身御供に差し出すことで、日本はアメリカの庇護下に入り沖縄を除き平和と繁栄を享受してきた。日本で唯一の地上戦で悲惨な地獄絵となった沖縄。今もなお沖縄は戦後を引きずっている。

 主人公の叫び、琉球ではなく沖縄県。沖縄県なのだ。

 そして当時は歴然としていた本島と他島出身者の差別問題にも触れているのが、本書の特徴の一つであろうか。この事は全く知らずに読み、結構な衝撃があった。奄美出身の者は出世できない。そんな不文律があるとは思いもしなかったので。

 

 それはそれとして。

 「米軍が恐れた男」として知られる『人民党の瀬長亀次郎(せながかめじろう)』をなんとかして失脚させようとする任務の中で、疑問をもち次第に亀次郎に惹かれていく公安捜査官の姿を通じて、戦後のアメリカ合衆国とその占領地沖縄の矛盾と慟哭を鋭く描いている。

 

 個人的には、この公安捜査官に命運を握られてしまった人民党の島袋に非情な悲哀を感じてしまう。スパイに選ばれてしまった男の運命を思う時に、何故という叫びが聞こえてきそうだ。

 

—内容紹介を引く……

沖縄を取り戻せ!

すべてを奪われた戦後の沖縄。

その絶望の中でも前を向いていた男たちがいた。

 奄美郡島徳之島出身の東貞吉(ひがしさだよし)は、琉球警察名護警察署に配属になり、

米軍現金輸送車襲撃事件の主犯逮捕の手柄を立て、公安担当になる。

 沖縄刑務所暴動で脱獄した人民党の末端、島袋令秀(しまぶくろれいしゅう)に接近し、自分の作業員(スパイ)に育てることに……。

 令秀が人民党の瀬長亀次郎(せながかめじろう)に心酔していくなか、貞吉は公安としての職務を全うするために、敬愛する瀬長を裏切ることができるのか。矛盾と相克に満ちた沖縄で、主人公は自らの道を歩んでいく。一気読み必至のバイオレンス・ロマン……!!

 

 バイオレンス・ロマン……には少し違和感を覚えてしまう。けして本書はそんな惹句が似合う作品ではないと思うからだ。

 主人公たちは「沖縄を取り戻す」ただそれだけの当然の権利を取り返す為に自らを顧みず闘った男たちの姿なのだから。

 心を鷲掴みにされ猛烈に揺り動かされる。これは針の先の小さな光と希望に向かい突き進んだ男たちの慟哭の物語。黙って読むべし。傑作!!

 ★★★★★