No.095 2021.7.31(土)

雷神/道尾秀介/新潮社/2021.5.25 第1刷 1700+10%

 参りました。この人は、真の天才だと何度目かの確信で読み終えた。読後感の「凄い物語を読んだ」という虚脱感、いや脱力感と満足感は恐ろしい。満足感が来るのは大きく「フーッ」と息を吐いた頃か。全力疾走後のもう何もしたくない感でグッタリする。確かにミステリー小説なんだけど、読んでいる間はずっと「罪と罰」を思い浮かべ、迫り来る結末に耐えられるように体に力を入れてしまうので、疲労感も凄い。

 

 一ブロック毎に、いろいろな展開予想を読者は無意識にしている。この展開は最後はこうなるな、又はこうなったらいいかな、と。それは、本読みの宿命みたいなもので常に読書行為に重なっている。作家はこの読者の想いを受け止め、受け流し、弾き返す。フルパワーで。

 

 登場人物達の「割り振られた役柄」を想像するのも、連熟した本読み達の得意技で下手な配役だと大ブーイングの嵐が巻き起こる。一人たりとも、とりあえず台詞を言わせる為だけに出されたキャストに、世馴れた本読みは鋭くアンテナを閉ざす。

 本書は、全く隙のない計算し尽くされた傑作だ。反論の余地もなくただただ物語を紡ぎだした作家にひれ伏すのだ。

 恐るべし、道尾秀介!!

 

—内容紹介を引く……

 埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。すべては、19歳の一人娘・夕見を守るために…。なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。村の伝統祭“神鳴講”が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇…。ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れる。

 どんでん返しの先に待つ衝撃のラスト……。道尾ミステリ史上、最強の破壊力!

 ある一本の電話が引き金となり、故郷へ赴くこととなった幸人。しかし、それは新たな悲劇の幕開けに過ぎなかった……。村の祭が行われたあの日。一筋の雷撃がもたらした、惨劇の真相と手紙の謎。父が遺した写真。そして、再び殺意の渦中へ身を置く幸人たちを待ち受ける未来とは、一体。著者の新たな到達点にして会心の一撃。

 

 直木賞作家の実力を改めて知る。2011年『月と蟹』で第144回直木賞受賞してからの一連の作品群は、天才の名を体現しているようだ。目を離せない実力者だ。

 ★★★★★