No.071 2021.6.8(火)

ピットフォール/堂場瞬一/講談社文庫/2021.5.14 第1刷 880+10%

 随所にローレンス・ブロックへの深い尊敬を込めた「旧きよきハードボイルド」の傑作。

 1959年。世界を巻き込んだ第二次世界大戦から14年。アメリカはチャック・ベリーが火を点けエルヴィス・プレスリーが大量の誘爆材を投下したロックンロール時代も、エルヴィスが兵役で西ドイツへ。次のロックスターの台頭が進むニューヨーク。

 元NYPD刑事から組織に合わず私立探偵になったジョー・スナイダー。ヤンキースの試合に現れなかった探偵仲間で、元ボクシングチャンピオンのウィリーが気になっていた。そこへ、カンザスからニューヨークへ役者を夢見てやって来た妹シャーロットが行方不明になったので探してほしいと言う姉エマが待っていた。

 都会の闇にぽっかりと口を開けて獲物を待つ「ピットフォール」落とし穴…。折しもニューヨークは一年ほど前から正体不明の連続殺人犯イーストリバー・キラーが跋扈していた。

 ウィリーの死体発見、シャーロットの殺害。探偵の誇りとウィリーとの友情、生きて発見出来なかったシャーロットへの悔恨がジョーを駆り立てる。そして、たどり着いたのは、ジョーが「沈黙の誓い」をしなければならない真実の重みだった。

 ハードボイルドの王道を描く懐かしくも切なく、更に一人称「俺」で語られる全てが胸に迫る。

 日系人2世刑事のリキ・タケダ(34歳)がアクセントを出し、深みを与えている。この2人の絡みは面白い。

 

—内容紹介を引く……

 消えた女。友の死。

 華やかな成功の陰で、暗い《落とし穴》(ピットフォール)が口を開ける街、大都会ニューヨーク。

 二つの謎を追う探偵を待ち受けるのは……。 1959年、ニューヨーク。元刑事で探偵のジョーは、役者志望の女性の行方を捜してほしいと依頼を受ける。その矢先、衝撃的な知らせが。黒人の探偵仲間ウィリーが殺されたというのだ。残忍な手口は、女性ばかりを狙う連続殺人事件と同じだった…。ハードボイルドの美学が詰まった傑作!〈文庫オリジナル〉解説:林家正蔵(落語家)……

 

 林家正蔵の解説もイカれてる(笑)。完全にハードボイルドに耽溺している「ハードボイルド・ジャンキー」の文章が、実に心地よく感じられたらもう完璧な……。

 何度も言うが、ハードボイルドは「痩せ我慢」と読むのが正しい。大した報酬ではない。栄誉がある訳でもない。ただ単に「自分の美学」に基づいて行動するのだ。それが真相を明らかにするための「行動規範」。ただ一つの。

 堂場ハードボイルドの傑作。到達点とは言わない。通過点だ!!

 ★★★★★