No.075 2023.6.24(土)
能面検事の死闘/中山七里/光文社/2023.5.30 第1刷 1600+10%


 今のシリーズは漠然とだが今野敏の「隠蔽捜査シリーズ」と非常に同じ匂いがしている。“能面検事・不破”と“正論の男・竜崎”。
 かなりこじつけだろうと思う。それでも、真実に向かって忖度なく突き進む姿は、どうしても重なってしまうのだ。気のせいだろうか。

 今回の事件は南海電鉄岸和田駅前で起こった〈無差別殺人事件〉。被害者は7人もの一般の人々で、時間が少しでも前か後ろにズレていれば被害に遭う事もなかった人たち。最年少の小学生から病院にいく途中の老婦人まで。それまで犯人の笹清とはなんの接点もないただ単にその時間に居てはいけない場所に居合わせてしまった人たちだった。

 大阪府警に前回多大な〈被害〉を与えることになった検事・不破。
 どういう事態にも動じず表情を変えずただ「法に則り検事としての務めを果たす。秋霜烈日の誓いを果たす為」の不動の捜査検事。
 不破の担当で事務官の惣領美春もまた大阪を揺るがす〈無差別殺人事件〉の捜査に踏み出すことになる。副検事への道として不破に師事していくのだ。

 事件は完全に「立証され送検されて裁判で死刑判決」への道筋がはっきりした事件のはずだった。
 しかし、加害者笹清がバブル経済崩壊後の失われた世代「ロスジェネ」であり、世間への鬱憤ばらしの反抗が社会への問題提起ととられるようになり、そして笹清に同調するかのように爆弾テロが、それも検察への爆弾テロという形で勃発する……。

 この物語は、久しぶりに一気に読む。題材もそうなのだが事件に対する不破の揺るぎない捜査検事としての姿勢、視点が非常に練られて描かれるのだ。大騒ぎになって社会問題にまで発展しそうな世論に流される事務官の惣領を尻目に、最初から爆弾犯人の姿を捉えているのか。

 このところ中山作品は、ざっくり言ってしまうと「ワンアイディア」で最後にどんでん返し、のパターンだったと思う。しかし、今回は最後の最後まで本来の作家の目的を隠し切り、読者に想像もさせなかった。そういう意味では本当に〈どんでん返しの帝王の面目躍如〉だろうか。このラストにグッと来てしまい、全てをひっくり返すパワーに平伏するのだ。

—内容紹介を引く……
 “どんでん返しの帝王”が描く大人気検察ミステリー、待望の第3弾! 南海電鉄岸和田駅にて、無差別殺人事件が発生。7名を殺害した笹清政市(32)は、自らを失うもののなにもない“無敵の人”と称する。ネット上で笹清をロスジェネ世代の被害者だと擁護する声があがるなか、大阪地検で郵送物が爆発、6名が重軽傷を負った。被疑者“ロスト・ルサンチマン”は笹清の釈放を求める犯行声明を出す。事件を担当する大阪地検の不破俊太郎一級検事は、調査中に次の爆発に巻き込まれ……連続爆破事件は止められるのか?“ロスト・ルサンチマン”の真の目的は何なのか?

 久々に読むようなギリギリの犯人探し、謎解きを読んだ。やはり中山七里はこうでなくては、と。
 ★★★★1/2