第170回直木三十五賞受賞記念!!(笑)

万城目さん、直木賞受賞おめでとうございます。ついにホリモーが冠を得たので執着至極です。京都を舞台にこれだけ激しく切ない物語を紡ぐ万城目さんにはもっともっと京都を描いてほしい。もちろん、他の物語も。

 

No.128 2023.11.12(日)

八月の御所グラウンド/万城目学/文藝春秋/2023.8.10 第1刷 1600+10%

 久しぶりに本当に久しぶりに万城目ワールドに触れた。

 いやはやこれが万城目ワールドだよ、と感涙。まさしく「京都と万城目」が合体した独特の世界観が抜群に読み手に迫ってくるのは楽しい、嬉しい。

 

 収録は全国高校女子駅伝を舞台にした短編と、京都御所グラウンドと野球の奇妙な因果関係とお盆(!)の送り盆「大文字焼」に絡む幽玄とも言える物語。

 

 十二月の都大路上下ル/何と都大路を5人で襷を繋ぐ全国高校女子駅伝の前夜、1年生の「応援部隊の気持満点」で京都にやってきた「超絶方向音痴」の坂東、通称サカトゥーはコーチにアンカーで出場を言い渡される。そしてサカトゥーがアンカーで走っている最中に変なコスプレ連中が、いつものレースにあるように歩道を走っているのが見える。しかし、なんか変。チョンマゲ姿で数人が刀らしき棒を振り回してる変なコスプレ。そして駅伝が終わって翌日の京都お土産買いの最中に昨日走った他校のアンカーと出会い昨日「新撰組」は……。

 全くよくこんな面白くて微妙に周りをみてなんか騙されてる?と確認するような作品が浮かぶものだと、笑いながら泣きそうになる、絶品さ加減。

 

 八月の御所グラウンド/涙を堪える、といえばこの中編。高校生の頃からの友人多聞から真夏の京都に閉塞していた朽木。4回生なのにとうに卒業と就職活動を諦め、おまけに夏休みには彼女の実家のある四国は四万十川の観光を予定していたが、直前に彼女から「火がない」という理由で別れを切り出され中止。

 多聞は5回生でなんと就職も決まっているが、理学部なのに卒業に必要な教授の了解が「野球をしろ」という命題を課されてしまった。真夏の京都で野球?9人集まるのか?

 全く杞憂だった。なんとなく試合になると9人集まってしまう不思議さ。その中には、中国からの留学生で院生のシャオさん(全くの野球知らず)。御所グラウンドで自転車を止めて見ていて人数が足りず「入りませんか」とシャオさんが連れてきた工員風の青年“えーちゃん”。えーちゃんの後輩で大学三年生21歳だという遠藤と工場の後輩で19歳だという山下くんの3人もいた。

 

 この物語のアイディアのすごいところは、普通の状況なのによーく考えてみると「とんでもない」ことが平気で起こっている。なのに、当たり前で物語が進んでいく点だろうか。

 6チームの総当たり戦野球に優勝しないと卒業できない多聞。なぜ野球なのか理解できないまま巻き込まれても平気な朽木。野球を何も知らないのにメンバーのシャオさん。正体不明のえーちゃんと遠藤と山下。

 興味は野球の勝敗の行方から、ある時点で一気に違う世界に飛んでいく。彼ら3人はこの世のものではないかも知れない。シャオさんの朽木への言葉がもたす意味は……。

 戦争で野球をしたくてもできなかった彼ら3人は、五山送り火の最中に舞い戻ったのか。

 伝説のエース沢村賞の名を残す沢村栄治。えーちゃんの夢は野球をしたかったのだろうか……

 

—内容紹介を引く……

京都が生んだ、やさしい奇跡。

ホルモー・シリーズ以来16年ぶり。京都×青春感動作

女子全国高校駅伝……都大路にピンチランナーとして挑む、絶望的に方向音痴な女子高校生。

謎の草野球大会……借金のカタに、早朝の御所G(グラウンド)でたまひで杯に参加する羽目になった大学生。

京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとは……。

今度のマキメは、じんわり優しく、少し切ない人生の、愛しく、ほろ苦い味わいを綴る傑作2篇

目次 十二月の都大路上下ル/八月の御所グラウンド

 

 ラストが語られないのはある意味卑怯かも知れないが、これ以上のラストはないだろう。野球の勝敗、えーちゃんたちはグラウンドに戻ってくるのか。全ては五山送り火と共に静かに暮れていくのだ。

 戦争。今も相変わらず続く国と国との争いは人をモノとして扱い、命を消耗品として投げ出させる。犠牲になるのはいつも若者の将来。遠藤の過去を考えると、山下の将来性を思うと、そしてえーちゃんの悲しみを思うと胸が引き裂かれそうになる。時代はまた逆戻りなのか。万城目ワールド全開の傑作幽玄ワールド。

 ★★★★★