読む本、読む本が「殺人事件がなければ始まらない」ようなジャンルだけになっていると、突然「誰も殺されない」本が読みたくなる。「ラブカは静かに弓を持つ」も本書を申し訳ないが「心の緊急避難本」になってくれた。感謝、感謝だ。

 

No.067 2023.6.4(日)

夢見る帝国図書館/中島京子/文藝春秋2019.5.15 第1刷 1850+10%

 図書館そのものの空間が好きだと言う方も多い。本屋さんにほとんど毎日通っても飽きないと言う方も。本は未知の世界への入口になり、そこから無限の可能性を持つに違いない魔法の扉なのだ。

 

 帝国図書館の成り立ちから、戦争を経て新しい価値観の国立図書館へ。そこで息をしていた書物の国の旅人を巡る物語。

 一人の数奇な運命を生きた女性。

 図書館とその女性の関わりは、図書館の本を書けと言われ続けた年若の友人は日々の仕事の忙しさにかまけてちるうちに、違う世界へと旅立った友の訃報を聞く。

 

 本書の主人公は図書館。帝国図書館が人格を持ったかのように数々の人生をながめていたのだった。

 

 ただ、何と言うかつまらなかった。いや、つまらないというのは語弊があるか。

 冒頭からずっとついてくる「違和感」が気になってしまう。正体不明の違和感。物語の主体が掴めない。いったいこの物語の行き着く先はどこなのか分からない。シークレット・トレインの乗客ならばそれなりの準備もあるし推理する楽しみもある。しかし、物語自体が持つ「どうしようもない不安定感」を読んでいる間中モチベーションとして持ち続ける事は無理かも知れない。

 

 確かに、帝国図書館の設立からその図書館が「上野」にあったことがきっかけになり、幼い日の記憶の中で生きている何年間かの不思議な体験の実態を探るのが目的なのだろうが。

 それにしても、最後まで落ち着かず読んだのは、不思議な体験でもあった。もしかするといつもならば途中で放り投げてもおかしくないのかも知れないが。……だんだん、何を言っているのか分からなくなって来た……。

 

—内容紹介を引く……

「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」

作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら……資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。

日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。

喜和子さんの「元愛人」だという怒りっぽくて涙もろい大学教授や、下宿人だった元藝大生、行きつけだった古本屋などと共に思い出を語り合い、喜和子さんが少女の頃に一度だけ読んで探していたという幻の絵本「としょかんのこじ」を探すうち、帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。

 知的好奇心とユーモアと、何より本への愛情にあふれる、すべての本好きに贈る物語!

 

 この作家さんはたぶんずっと以前に直木賞を受賞した「小さいおうち」を読んで以来と思う。純文学の人が直木賞というので興味があったと。経歴を読むと錚々たる賞を受賞している。が、どの賞も「いわゆる文学」を読まない人間とは接点がない賞でもあるのが残念だが。

 略歴を引く。

 中島京子(なかじまきょうこ)。1964年東京都生まれ。東京女子大学卒業。出版社勤務を経て、2003年『FUTON』で小説家デビュー。2010年『小さいおうち』で直木賞受賞。2014年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞受賞。2015年『かたづの!』で河合隼雄物語賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、柴田錬三郎賞を受賞。同年『長いお別れ』で中央公論文芸賞受賞。2016年、同作で日本医療小説大賞受賞。

 

 すごく雰囲気のある文体ですんなり入っていける。途中までものすごく快調に読み進み、章が代わり喜和子さんの死が伝えられてからは、また別の物語のように感じてしまったのは、こちらの読解力の無さが全て。始業し直してこい、と言われているように思えた……。

 ★★★★