No.072 2021.6.10(木)

SIS丹沢湖駐在武田晴虎/鳴神響一/ハルキ文庫/2021.5.18 第1刷 740+10%

 駐在所の警察官は、たいてい「お巡りさん」と呼ばれる。交番もそうだ。これは日本の独特の警察制度が地域密着型になっている事が大きい。

 駐在さんが所属するのは「地域課」で、一日24時間の三交代勤務がローテーションなのだが、交番と違い駐在員は基本的に公務員勤務時間の週休2日で朝8時30分から夕方5時15分。それ以降は本庁へ転送電話となる。これは同じ日勤の筈の刑事課が、事件があれば解決まで休日や勤務時間そっちのけとは大きく異なる部分だ。そのため、近頃の警官志望者には「制服組志望」が多くなっている。不規則な勤務時間の刑事より【お巡りさん】を志望するのだ。

 

 本書の主人公は元々刑事課の特殊班の班長だった男。しかし仕事中の部下の受傷事故により駐在員に異動願いを出し、丹沢湖駐在になった。個人的にも最愛の妻を亡くし傷心の時期でもあった事も異動の理由にあるようだ。

 その異動先の丹沢湖の温泉街で、何者かが女性を拉致する事件が発生する。数ヶ月前に起きた事件に端を発した誘拐らしい。

 駐在の武田晴虎は、事件そのものに疑問を持ち一人で動き出す。

 物語には特別目新しいものはみられず、主人公が並みいる捜査陣を尻目に、事件を解決に導くといういわゆるヒーロー物語二度となっている。目新しいのは、特殊捜査班から駐在にというパターンか。実はこの制服ヒーローパターンは、案外多くの作家にいろいろな作品がある。佐々木譲の「制服捜査」や笹本稜平のズバリ「駐在刑事」等の優れた作品群と対比した場合、残念ながら深みが追い付いていない。事件と事象が噛み合わない恐怖感があるのだ。

 面白いしすらすら読めるからなんとなくすぐに読み終えてしまうけど、それとは違うような感じもあるのだ。

 じっくり読むとあまりにも単純なような気がしてならない。ストーリーが複雑になればなるほど作家の力量が試されるのは事実だが、何も「ユリシーズ」のようなものを誰もが書く必要もない。言いたいのは、最後の一捻りが読者に拍手喝采で迎えられるようなスカッと爽やかな清涼感のある物語を望んでいるだけなのだ。この人はそれが出来ると確信しているからこそ、敢えて言い放つ。

 

……パターンに囚われるな。全ては自分が書いた物語が新しいパターンになるのだ……

 

—内容紹介を引く……

 神奈川県警捜査一課特殊神奈川県警捜査一課特殊捜査係、通称SISの元第四班長だった武田晴虎がこの四月より赴任するのは、松田警察署地域課丹沢湖駐在所。

 過去の人質立てこもり事件の際に部下を負傷させてしまい、また伴侶を失っていた晴虎は、その地での再起を誓っていた。

長閑な温泉街で持ち込まれる、微笑ましい相談。しかし、まさかの誘拐事件が発生し?

 過去を乗り越え、再び闘う己を取り戻すことはできるのか。警察小説の新ヒーロー、誕生

 

 2023年10月現在、本書のシリーズ化はなっていない。このあと「SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎2 聖域」。「SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎3 創生」で止まっている。全3作で終わりなのだろうか。とても続きが読みたいと思うのだが。

 ★★★★1/2