現代の作家で最もストーリーにヒラメキを感じる人。最近はこのシリーズしか読んでいないので非常に心苦しいが……。
No.104 2023.9.26(火)
神の呪われた子 池袋ウエストゲートパーク19/石田衣良/文藝春秋/2023.9.10 第1刷 1700+10%
池袋のガキの王様タカシ。
若者たちのトラブルに立ち向かうトラブルシューターのマコト。
池袋の街を舞台に様々なトラブルに陥った若者たちの問題を解決する物語は、いわば現代版の必殺仕事人であり、最後はハッピーエンドにしてしまう水戸黄門的なハッキリした『勧善懲悪』ストーリー。
このシリーズも19作目となり、パターンは完璧に決まっていて読者は冒頭で苦境に陥るものたちを、マコトの機転とタカシの率いるGボーイズ(ほとんどタカシの独壇場なのだが)が実力行動隊として突入していく。
何よりも読者がこうして欲しいと言うストーリーにまるで沿うように解決する。
どこをどうみてもこれは黄金パターンだ。決して期待を裏切ることなく最後は満足して、ああ良かったよ、となるのだから。
とは言え、マンネリ感はある。タイムテーブルに沿って全て動いていくのは安心ではあるが新鮮味は失われる。その意味で、タカシが一発食らうシーンは斬新となるか。
表題作の『神の呪われた子』は、今の時流に乗った宗教二世問題を扱っていて、非常に濃い内容になっている。子供たちの未来を親権問題も絡み、マコトとタカシはどう解決していくのか。現実もこれ程ガッチリ叩けるのならば、とても良いのだが。
—内容紹介を引く……
女子高生のルカは、父親が亡くなり、新興宗教「天国の木」に走った母親に養育放棄されている宗教2世だ。マコトや自身も宗教2世だった子ども食堂の主催者・アズはルカに親身に接するが、彼女が教祖の目に留まり、花嫁候補に選ばれてしまう。さらに、教団には教祖直属で荒事を請け負う部署があり、マコトたちに悪質な嫌がらせを仕掛けてくる。マコトとタカシは、Gボーイズを動員し、ルカを救い教団をたたく計画を練るが……。
表題作のほか、投機目的で高騰するビンテージ・ウイスキーを狙うバイヤー、過激な推し活をする〈私生(サセン)〉、闇バイトの連続強盗団が登場。難破船さながらの日本で起きている事件を鮮やかに切り取る全4編。
収録は、行きつけの大塚のバーでマコトが驚きのウヰスキーを「年の離れた友達」のバーテンに見せられ……大塚ウヰスキーバブル
アイドルグループの個人情報がソッコー漏れてしまう。相談されたマコトはタカシと札付きのファンと会う……〈私生(サセン)〉流出
同じ池袋の工業高校の仲間が経営している古着屋のバイトが後期高齢者を狙った強盗事件の関係者だった……フェイスタトゥーの男
土砂降りの中で池袋西口で“布教活動”をする新興宗教の母と高校生の娘。池袋の子ども食堂の運営者。宗教二世の子供達と下劣な
教主。マコトとタカシはGボーイズを伴い教団の施設に乗り込んでいく。池袋の子供たちの守り神を助けるために。タカシの“暖かい雰囲気”が……神の呪われた子
それにしても。小路幸也「東京バンドワゴン」シリーズといい、本シリーズといい長く続くシリーズものの絶対条件は「ハッピーエンド」と「勧善懲悪」に尽きるか。昭和の空気を纏った現代の仕事人とホームドラマ。いつまで続くか楽しみではある。
★★★★1/2