No.027 2023.3.10(金)

覇王の轍/相場英雄/小学館/2023.2.6 第1刷 1900+10%

 いや慌てた。樫山順子再登場で新たなウィメンズ・ポリス・ストーリーの爆発なのだ。断っておくが別に性別がどうのこうのの話ではない。今は断っても○○ヘイトだと突っ込んでくるので油断が出来ないので。

 警察を舞台にし女性を主人公に据えるといろんな意味で妙な発言が飛び出して来る傾向がある。何だろうこれ。男が主人公だと「なんで男が主人公なんだよ!」というクレームは無い(と思う)。それが、ひとたび女性のそれもハイパワーでエレガントな警官が女性であると……。なんなんだ本当に。

 

 と愚痴は止そう体に悪い。

 

 キャリア警察官僚で前作「アンダークラス」で衝撃的な登場を飾った樫山が、今度は【魔窟】北海道鉄道産業へ切り込んでいく。キャリアのスタンスが刑事のスタンスか。揺れ動く乙女心(などと書くと「不謹慎」だとクレームが付きそうだ)いやキャリア心で北海道警捜査二課課長に異動。

 標的は北海道から新宿へ飛行機で飛びホスト遊びする道立病院の女性管理職が、業者からリベートを受け豪遊している情報を掴んだ警視庁捜査二課理事官小堀との合同が始まる。

 

 孤立無縁の闘いは、ふとしたきっかけだった。

 一人の反骨の新聞記者が接触してきたのだ。木下と名乗るかつて道警の裏金事件を暴いたブンヤの生き残りだった。

 

 一人の国交省の技官稲垣の転落死。下戸の技官が何故ススキノの風俗ビルから転落して「事故死」しなければならないのか。

 警視庁捜査一課の管理官から北海道警の捜査二課へ。突然の辞令の影に隠されたのは、内閣官房副長官松田の警察庁OBの強い意図が…。

 

贈 収賄事件の裏にあったのは事故死とされた電気技師で旭川のサッカークラブ指導者だった倉田の死と国交省技官の死。

 事故死と発表した道警の隠蔽疑惑。整備新幹線を巡る利権構造。

 樫山の動きは常にモレていた。それは年の若い相棒と思っていた伊藤巡査長が実は公安部の警部補で、副長官の耳となっていたのだった。

 

 ラストのどんでん返しで溜飲を下げるが、この公安部の警部補は許せない。こういうナメクジみたいな警官の風上にも置けない存在は。

 

 色々な意味で、樫山順子の次回作を期待する。次はどこへ飛んでいくのか。そこでも「気になることはとことん解明」するのか。楽しみだ。

 

—内容紹介を引く……

鉄路の下に巨悪は眠る。

警察キャリアの樫山順子は、北海道警捜査二課長に突如、着任することになった。歓楽街ススキノで起きた国交省技官の転落事故と道内の病院を舞台とした贈収賄事件を並行して捜査するなか、「独立王国」とも称される道警の慣習に戸惑う。両事件の背景に、この国の鉄道行政の闇が広がっていることも知り……

大ベストセラー『震える牛』で食品偽装を、NHKでドラマ化の『ガラパゴス』で非正規労働の闇を暴いた筆者が、ついに鉄道行政のタブーに踏み込んだ!

 

貴方に追体験してほしい。

彼女が組織で生き延びるための苦悩、真実を貫くためのあがきを。……村木厚子さん(元厚生労働事務次官)

 

「日本列島改造論」から半世紀、新幹線神話の虚と実……。

目次/プロローグ、第一章 軌道、第二章 歓呼、第三章 保安、第四章  検知、終章 置石、エピローグ

 

 そういえば、少し前も「JR北海道」の不祥事が報道されていたが、こういう体質なのかと驚く内容も含まれる。労使の対立構造がここの場合はいまだに「昭和の残滓」を引きずっていると……。それがいいのか悪いのか全くどうこうではないのだが、物事の本質が労使の対立にあればそう簡単に解決しないんだろうなという印象が残った。

 鉄道は輸送の根元、という時代はもう歴史になっているのだろうか。でも、中で働いている人を無視しての工程管理など言語道断だろう。鉄道と働く人。実に不思議な構造かも知れないのだ。

 ★★★★★