No.026 2023.3.6(月)

黒石(ヘイシ)新宿鮫12/大沢在昌/光文社/2022.11.30 第1刷 1800+10%

 2012年の衝撃の「絆回廊 新宿鮫10」。鮫の一大転機から7年後の2019年「暗約領域 新宿鮫11」を経て、3年ぶりに復活した鮫島の前に現れた強敵は自らを「ヒーロー」と名乗る殺し屋だった。

 とはいえ、今回は少しばかり地の文の説明が多すぎて読んでいるうちに前後関係がアヤフヤ、ウヤムヤになるような印象で筋が遠くなってしまい冗漫さを覚えてしまう。これは説明が的を得ているのにあまりに複雑なのでこっちの脳みそがうまく付いて行く事が出来ずに脳内バグを発してしまうからだと気づく。

 もしかしたらいろんな説明文をバッサリ切ってしまい、端的に「鮫vs黒石」の対決として読んだら理解出来るかと一度試してみたら……スンナリ筋が入ってきた。内容が入ってきた。殺人者となった男が殺人者になった理由が曖昧なのは相変わらずなのだけど。多分、残留孤児問題に絡んで来るのだろうし、そっちの方の問題が一番の重大な背景だろうし、と煮え切らない。困ったことだ。

 この中国残留孤児問題は、大沢在昌の重大関心事のようでここのところずっとテーマとして掲げられているようだ。この問題を深く理解する意味でも説明が多くなるのは当然だろうけどこちらの理解力がいかんせん付いていけない、のだ。

 

 その大枠を乱暴に取っ払ってしまうと、鮫島の心境に大きな変化があることに愕然とする。

 新宿署生活安全課の課長だった桃井の殉職、恋人だった晶(しょう)との別離があり、まさに孤独なはぐれ鮫が後任課長と鑑識の薮、さらに「相棒」が……。

 新宿鮫が孤高の戦士から、新たな相棒を得て新境地の刑事物語へと変化するのか?

 常にハードボイルドな鮫が相棒を気遣う。これが衝撃でなくてなんであろうか。

 鮫は変わる。たぶん、大きく変わることをシリーズの大転換点と震えてしまうのだ。

 

 鮫島の他に主要人物を抜粋しておく……

 矢崎/公安部公安総務。前回登場。公安のスパイで頭部に重症を負いスパイであることが発覚し休職していた。

 阿坂/殉職した桃井前課長の後任の女性警部

 藪/新宿署鑑識。銃器犯罪のプロ。頑なに新宿を離れない。鮫島の理解者

 氏家(荒井)剛/中国残留孤児三世。『黒石』。ヒーローと自らを呼ぶ殺人鬼。双子の兄

 荒井憲一/徐福。八石の支配を狙う。謝法憲。双子の弟

 荒井真利華/前回の事件で射殺された荒井達の妹

 

—内容紹介を引く……

 リーダーを決めずに活動する地下ネットワーク「金石」の幹部、高川が警視庁公安に保護を求めてきた。正体不明の幹部“徐福”が、謎の殺人者“黒石”を使い、「金石」の支配を進めていると怯えていた。「金石」と闘ってきた新宿署生活安全課の刑事・鮫島は、公安の矢崎の依頼で高川と会う。その数日後に千葉県で“徐福”に反発した幹部と思しき、頭を潰された遺体が発見された。過去十年間の“黒石”と類似した手口の未解決殺人事件を検討した鮫島らは、知られざる大量殺人の可能性に戦慄した……。どこまでも不気味な異形の殺人者“黒石”と、反抗するものへの殺人指令を出し続ける“徐福”の秘匿されてきた犯罪と戦う鮫島。“新宿鮫”シリーズ最高の緊迫感で迫る最新第12作!

 

 このところどうも装飾過多で冗漫な作品と思ってしまう物語を目にするが、どうもこれは読み手のこちら側の問題であるらしいとようやく本書を二度、三度と読み返し気づく。脳の老化と決めつけたくないが、確実に……という事もあるかとふと空を見上げて泣いてみるのだ。

 

 それにしてもだ。この作家とは全くの同年生まれの同歳。片やバリバリの物語を紡ぎ出す大作家で、それに比べて自分は、などと情けなくなるのも事実だ。こうしちゃいられないんだけどなあ。

 

 大沢在昌(オオサワアリマサ)。1956年生まれ。愛知県名古屋市出身。慶應義塾大学中退。1979年、第1回小説推理新人賞を「感傷の街角」で受賞し、デビュー。1986年「深夜曲馬団」で日本冒険小説協会最優秀短編賞受賞。1991年『新宿鮫』で第12回吉川英治文学新人賞と第44回日本推理作家協会賞長編部門受賞。以後「新宿鮫」シリーズは『毒猿』『屍蘭』『無間人形』(1994年、第110回直木賞受賞作)『炎蛹』『氷舞』『風化水脈』『灰夜』『狼花』(2007年、日本冒険小説協会大賞)『絆回廊』(2012年、日本冒険小説協会大賞)と続き、作家生活40周年を迎えた2019年に『暗約領域 新宿鮫XI』を刊行しベストセラーとなる。他、受賞歴に2001年『心では重すぎる』で日本冒険小説協会大賞。2002年『闇先案内人』で日本冒険小説協会大賞を連続受賞。2004年『パンドラ・アイランド』で第17回柴田錬三郎賞を受賞。2010年、第14回日本ミステリー文学大賞受賞。2014年『海と月の迷路』で第48回吉川英治文学賞受賞。著書多数。

 

 まさに現役バリバリの作家の次作を早く読みたい。大沢在昌が元気なうちはボケていられない、などと妙に力が入ってしまうのだ。

 ★★★★★