No.121 2008.10.17(金)

ラッシュライフ/伊坂幸太郎/新潮社/2002.7.30 第1刷 1700円+5%

 困ったことに、途中まで訳が分からないままに読んでいたのだ。まったくどうかしてる。

 こんな「タイプ」の作品に出会ったのは、実に実に久しぶりの事。「族長の秋」以来の衝撃、かも知れないと思いつつ読むのを止められないので、〈恐ろしい〉小説だ、と断言していいかな。

 最後の最後にようやく、「ああ、時系列のトリックだ」と気づくほどの“大馬鹿者”だから、読むのは大変だ。とにかくここまで来て「アッと驚く」ときたからには、どうしようもない。

 構造的には、叙述トリックの範疇になるか。この手の作品には、とっても「凝った」事もあったが、しばらく読んでいなかった。それは、どうしても「トリックを探す」為に読んでいることになり、本筋が見あたらない事になる。

 忘れてしまったので、先に進む。

 表紙カバーの「エッシャー」の絵がすべてを表している、と言った点も最後の最後で気が付くという寸法だろう。悔しさと諦め、深い感動、は無いか。

 狂言回しは、泥棒商売の“黒澤”。少し精神に変調をきたしている“河原崎”。リストラされ無職の男“豊田”、不倫関係の清算に画策する女“京子”の四人。

 その間に複雑な人間関係と時系列の変化球があり、いろいろとやってくれる。

 それにしても、「高橋」と言う役名は何を繋いでいるのか。

 この伏線に気づくまで、しばらく呆然としてしまった。

 「高橋」は、神なのかも知れないと言うトリックスターの役目を持ち、物語を複雑にしているように見え、実は「高橋」こそすべてのキーマンになっていることに気づく。

 この物語の真の姿は、文字通り“騙し絵”の世界。真実の物語は、それぞれの人間は、すべてそれぞれの“豊潤な人生”を送っているのだ、と。

 もうひとつ。豊田と行動を共にする「野良犬」は、“オーデュポンの祈り”の〈カカシ〉だった。

 これも、衝撃。

 

—内容紹介を引く……

 解体された神様、鉢合わせの泥棒、歩き出した轢死体、拳銃を拾った失業者、拝金主義の富豪……。バラバラに進む五つのピースが、最後の一瞬で一枚の騙し絵に組み上がる。ミステリを読む快感と醍醐味がここに!新潮ミステリー倶楽部賞受賞第一作。

 

 しかし、仙台駅の白人女性のスケッチブックが、「世界の始まり」だったのか。う〜む。もの凄いぞ、この作家は。