No.104 2015.7.3(金)
誓約/薬丸 岳/幻冬舍/2015.3.25 第1刷 1600円+8%イメージ 1
 すみませんが、こっちの方が直木賞候補に相応しいような(ブツブツ…)。
 それはおいといて。
 実は、本書は2度目の読了なのです。4月に一回読んで、ちょっと(いや、だいぶ?)気になるところがあって今回時間を置いてもう一度。
 疑問点の最たるところは、ラストの仕上げ方にあるのだけど、あまり断定しても変だしと思いつつ。
 時間の経過が少し疑問で引っかかった。それは「公訴時効」という刑法の規定がどうなのかというところ。つまり、この主人公の行為は「公文書偽造」だろうし、それで免許などを取得したら…。でも、その場合でも15年という長い時間が経過しているので、果たして「訴求」できるのかと。公訴時効って3年くらいだったような…。本筋に関係ないのかも知れないけど、この「なりすまし」が時効になっていたら、そもそも「この主人公が陷った状態」は無いわけで、などということで引っかかった。

 本書は、過去に罪を犯してさらにヤクザ者を傷つけ逃亡の果てに、他人の戸籍を買いなりすまして15年の時間を経た男が、来るはずのない“過去からの脅迫状”で窮地に陥る、とザラッと言えばのストーリー。
 他人の戸籍を買ったときの状態として、一人娘を無惨に殺害された死期の近い母親に「いつか娘をなぶり殺しにした二人の男が仮出所したときに、殺して欲しい」と条件付けされる。約束すれば「戸籍を買う費用と、顔に逃れようのない印を持つ男の整形費用も出す」というものだった。
 子どもの頃から顔に痣のあることでバカにされ虐められてきた高藤文也は、若くして犯罪の道に入り込み少年院にも送られた過去を持つ。ある日、ヤクザ者に拉致された文也は隠し持っていたナイフを振り回し、ヤクザ者たちにキズを負わせ逃亡する。
 しかし、意地に賭けて文也を捜すヤクザたちの包囲網は狭まってくる。そんな時、文也は一人の老婆に見間違うほど苦悩する女性に会う。夫を若くして亡くし、女手一つで一人娘を育てていた女性だった。その娘が二人組の男に陵辱されバラバラにされ殺害された。犯人たちは「一人しか殺していないので死刑はない」まま無期懲役で服役していた。
 母親は、死の病に取り付かれていて余命幾百もない。二人組が出所してきたら仇をうって欲しい。約束するなら、整形し他人になりすます戸籍の費用も出してやる。
 文也は悩んだものの「どうせ間もなく亡くなるんだし、知らなかったですませられる」のではないか、母親と“誓約”を交わす。
 そして、向井聡として15年。共同経営者の落合幸広に誘われたことがキッカケで始めたレストランも順調だった。何も知らない妻の香と娘の帆花と“幸せ”な家庭を築き、何不自由なく暮らしていた。「坂本伸子」という差出人の手紙を受け取るまでは。

 内容を引くと…
―一度罪を犯したら、人はやり直すことはできないのだろうか…。罪とは何か、償いとは何かを問いかける究極の長編ミステリー。
 捨てたはずの過去から届いた一通の手紙が、封印した私の記憶を甦らせる…。十五年前、アルバイト先の客だった落合に誘われ、レストランバーの共同経営者となった向井。信用できる相棒と築き上げた自分の城。愛する妻と娘との、つつましくも穏やかな生活。だが、一通の手紙が、かつて封印した記憶を甦らせようとしていた。「あの男たちは刑務所から出ています」。便箋には、それだけが書かれていた。―

 前半のアタフタ感と、後半の疾走感のギャップが非常にいいテンポで構成されている。ミステリーよりはサスペンスだろうと思う。確かにラストの“犯人との対決”は、ミステリー仕立ての「さあ、真相を話しますよ」ではあったが。
 近年、この手の主人公や登場人物の出現する薬丸作品の、本筋からはちょっと離れた“スピンオフ作品”のような感じだろうか。虐げられている者への愛は、やはり本書の一番よい場面で活かされているようだ。
 それにしても、この大どんでん返しの連続は、良くも悪くもビックリだった。
 ★★★★