No.073 2013.6.7(金)
切り裂きジャックの告白/中山七里/角川書店 2013.4.30 第1刷 1600+5%

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う~ん。どういっていいのかよく判断出来ない作品って、あるんだな。が、最初の読後感だった。
面白い。一気に読める。でも、読んでいて「ああ、これ誰に感情移入すればいいんだ?」と、ずっと感じていた。つまり、登場人物と一緒になって“作品の中で動けない”。
優れた小説は、他人の目で作中人物たちの人生を“傍観”するのではなく、“一緒になって人生を生きる”ことのできるものだ、と考えている。それが、うまく作用しないと少々疲れてしまうのだ。
主人公の刑事に? いや、犯人に?これは無理か。となると、いったい誰の視点でこの物語を経験すればよいのか、ストーリーを追い犯人が捕まり、これで「一件落着」かと思うと、まるっきり【2時間ドラマ】になってしまう。船越さんが両方の眉毛を寄せて、難しい顔をして走り回り、1時間45分で解決する。う~む。それでいいのか?

内容紹介を引く。
―内容紹介
臓器をくり抜かれた若い女性の遺体が発見される。その直後「切り裂きジャック」と名乗る犯人からの声明文がテレビ局に届く。果たして「ジャック」の狙いは何か? 警視庁捜査一課の犬養隼人が捜査に乗り出すが……。
内容(「BOOK」データベースより)
東京・深川警察署の目の前で、臓器をすべてくり抜かれた若い女性の無残な死体が発見される。戸惑う捜査本部を嘲笑うかのように、「ジャック」と名乗る犯人からテレビ局に声明文が送りつけられた。マスコミが扇情的に報道し世間が動揺するなか、第二、第三の事件が発生。やがて被害者は同じドナーから臓器提供を受けていたという共通点が明らかになる。同時にそのドナーの母親が行方不明になっていた。警視庁捜査一課の犬養隼人は、自身も臓器移植を控える娘を抱え、刑事と父親の狭間で揺れながら犯人を追い詰めていくが…。果たして「ジャック」は誰なのか?その狙いは何か? 憎悪と愛情が交錯するとき、予測不能の結末が明らかになる。―

と言っても“予測不能”では決してない。絶対ない! 本読みに長けている読者であれば、この犯人像は初っぱなから「ああ、この人だろ」として認識されるはず。それほど、際だっている犯人像だから、このどんでん返しは、不発かも知れない。
京都大学の山中教授を中心としたips細胞の研究。それとリンクする「臓器移植」の関係。確かに、研究が軌道に乗れば、自分の細胞で自分の臓器を再生することができるから、移植は存在しなくなるだろう。その視点はもの凄い、いやぐんを抜いていい発想だと思う。そして、旧世紀のイギリスの未解決事件「切り裂きジャック」への発想の転換も、素晴らしいとしかいいようがない。
で、どうしても冒頭の「じゃ、誰に“なって”この事件を追うのさ」となる。
登場人物との一体感。それが、たまたま不足していたのかと残念でならない。移植を待つ子どもを持つ父親が、犯人を追う刑事なのだから、これがもっと魅力的な人物だったらと思うと、なおさら残念だ。