No.105 2012.6.17(日)
PK/伊坂幸太郎/講談社/2012.3.7 第1刷 1200円+5%


23作目。
「PK」「超人」「密使」と中篇3本なのだけど、緑の大地から続く大きな物語を構成している。こういうシンクロが伊坂幸太郎の得意技だろうか。読んでいて、引き込まれていくように、物語が身体の中に入ってくる感覚が凄い。
“伊坂幸太郎が見ている未来とは”。
これは、未来を巡る物語だ。一つのキッカケが“未来”を変える。タイムパラドクスでもあり、実は平行世界の存在を認めているのか。SF的な構造が多い伊坂作品の中でも、群を抜くくらいの「SF的作品」。
ひたすら静かな物語が淡々と続き、次第に一つのコードにまとまっていく様は、まさに天下一品の構成力だ。本人は、あとがきで偶然のように書いているのだけど、そうだったら凄いことだ。意図せずしての構成だったら、天才だ。あ、天才か。
あとがきにあるように、この物語たちは、昨年の震災前に書かれていた。このあとがきは、ぜひ“読了後”に読んで欲しい。いろんな“伊坂幸太郎”という作家を端的に現している名文だと思うので。
冒頭のワールドカップ最終予選の試合で始まる物語は、二人のサッカー選手、現職の国務大臣、人気作家とその友人、そして、鍵を握る幼児が成長した青年が“未来”を動かせるのか?
“PKを決められたのは、何故か”。
命題が掲げられ、その“PKの謎”を解き明かす時に、“未来”はまったく違う“世界”になるのか。
PKに絡むサッカー選手の“何故”から、マンションから転落した幼児を新人議員が「偶然」抱き留めることが、“超人”を呼ぶのは何故。
助けられた幼児は、“未来”を他人との握手で相手から“スル”事に気付いた時、運命の歯車はガリガリと回り出す。たった6秒間、握手した相手の「時間」を盜む男。その行為が果たして「人類を救う」事になるのか。スーパーマンになることが出来るのか。
この物語は、様々な人間たちを巻き込み、時間を左右する行為まで発展していく。
読んでいて、これほど「おれは、どこへ連れて行かれるんだろう」と真剣に感じたのは、まさしく“伊坂
マジック”に絡め取られてしまったから?
千言を費やしても語りきれない。「一つの行為が歴史を変える」ことは可能なのか。
読んでみてください。ワッハッハと笑いながら読み終えるか、う~ん、とうなだれるか、両極端ならば、どちらを取りますか?