No.097 2011.7.16(土)

てふてふ荘へようこそ/乾ルカ/角川書店 2011.5.30、第1刷、1600円

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なんて事だ。これは、圧倒的な「SF的手法」で書かれた純文学ではないか!
こんなことをされたら読んでいる者はたまったモノではない。一気に惹き込まれてしまって、時間を忘れて当然仕事もほったらかしでガンガン読み続けてしまうではないか。次々に起こる“ミステリー”にワクワクドキドキしながら、だ。
形式としてはもう大昔からある「グランドホテル式」の群像劇で、その点は物珍しさはない。如何に「登場人物たちの個性を際立すことが出来るか」にかかっている。
この作家の本質は“短編”にあると思われ、短編の延長が“長篇になってしまった”という形になる。あくまでも濃密な物語の延長として。だから、薄められた物語ではなく強く濃密な物語になる。
目次裏のスペースにある「注意書き」がこの物語の“重し”になっていることに、最後に気づく。読みかえした時に、初めて。少し長いが引く。
…「てふてふ」は「蝶々」の旧仮名遣い表記で、「ちょうちょう」と読むのが慣例ですが、本作では作品の舞台となるアパートの名称として字面通り「てふてふ」と読みます。…
なるほど、バタフライのことを「ちょうちょう」と訳すのだから「てふてふ」を“訳”さなくてもいいわけだ。
古ぼけたアパート「てふてふ荘」。2Kでトイレとお風呂が共用。家賃があり得ない「1万3000円」。もちろん、敷金・礼金なし。ところが、とんでもない“モノ”が一部屋に“一つ(?)”もれなく付いている。
それが何かは、読んでのお楽しみだろうか?
部屋は6つ。
一号室。大学を出たけど就職活動に失敗し、女性不信の高橋。フリーターで暮らす。
二号室。スーパーの鮮魚担当で容姿に自信なく、いまだ契約社員の井田美月。
三号室。元詐欺師で八年の実刑で刑務所から出たが、仕事がなく日雇い仕事で暮らす。
四号室。パイロット志望の大学生・平原。白血病で再度大学を受け直す。一番最初の「元」住人。
五号室。兄をバイク事故で失った真由美。ある霊媒師の言葉で兄が成仏していないといわれ短期間の住人に。
六号室。画家志望のイラストレーターの米倉。手首の三角形のホクロが忘れていた過去を思い出す。
集会室。ビリヤード台の置かれた集会室。大家の秘密が解き明かされる。

物語は、それぞれの部屋の住人と“同居人”の間で繰り広げられ、それが最後にアパート全体へと波及していく。これ以上は読んでからのお楽しみとして。人物造形の優れた一編。
夏の夜に。