あなたにとってフルーツの王様は? ブログネタ:あなたにとってフルーツの王様は? 参加中
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津波の映像は、この中に人がいるんだと思うと実に恐ろしかった。
だが、あたかもありえる情報を、親切心につけこんで広めさせ、よけいな不安を煽るデマの波も相当速かったように思う。立て続けに数件、転送されて届いた。他にも、震災につけこんだ犯罪を起こしたり、石原都知事の意に反してここぞと我欲をむき出す者もいるに違いない。自然も人間もまったく恐ろしい。
同時に、助け合いの美談に泣けることもある。いつだか書いた「アンダーソンの悲劇 」の主人公ヘラルドからも、無事を祈る連絡が入った。彼の国メキシコからも支援が来ている。ありがたいことだ。その気になれば国を越えて助け合えるのも人間。なんとも不思議な生き物だこと。


今回は、そんな善人悪人に揉まれながら、ココナッツが長き王座から陥落した時のエピソード。

子どもの頃、TVか何かでココナッツを鉈で割って中の汁をすすっているのを見て、なんてエロ・・・あ、ウマそうなんだ!と強烈に印象に残った。それ以来、ココナッツの味というものを自分の中で理想化していた。
ちなみにフルーツは何でも好きで、いとこの家に遊びに行った高校生の頃、用意された夕飯だけでは飽き足らず、梨を2個にバナナ2本、グレープフルーツ丸6個を平らげ、その家の1週間分の果物を食い尽くすという狼藉を働いたという言い伝えがある。


で、ココナッツ。
すっかり自分の中でその味の妄想が膨らんでいたものだから、周囲で「ココナッツって別に美味しくないらしいヨ」などと耳にした日には、
「貴様!名を名のれ」
と抜刀したくなったもの。今にして思えば、自分の中でもココナッツの実際の味には気づきつつあって、でも思い描いてきた味とのギャップを認めたくなかったんだろう。

そんな葛藤の果てに、いよいよ認めざるを得ない日は来るのである。


舞台は初春のカリブ海、レゲエの国ジャマイカ in 2006。
ここでちょっと付け加えておきたいのだが、ジャマイカにはいわゆる貧乏旅行スタイルで行くことはオススメしない。特に首都、キングストンにはまだカリブの海賊たちがいる。


旅先でガイドブックに「危険」と載っている所でも、夜一人で外出しないなど、少し用心するくらいで大して気にはしない人もいるはず。そういう地域の宿が安かったりするのだ。ところが、キングストンは別格だった。首都にはビーチがないせいか黄色人種どころか白人もおらず、オセロになったら勝負にならないくらい黒人ばかり。その中を日本人の友人と2人、まるでう○この中のコーンのように目立っていた。ガンジャ(大麻)を高値で売りつけようとしてきたり、通りの向かいから妙な歓声を浴びせてきたり、あれほど細胞一つ一つが「危険」だと感じたことはかつてなかった。

Crazy な独り言


「街を案内するから金よこせ」というのが彼らの手口。ひどいと集団で襲われて銀行に連れて行かれ、数百万円分引き出させられるらしい事が本に載っていた。実際に我々もわずか12時間のうちに2回からまれ、そのたびにつたない英語で「仲良くなろう」作戦でやり過ごし、疲れ果てた。影のように黒い現地の若者が、薬物中毒の血走った目で酒ビンを片手にヒタヒタと近づいてくるのだ。
2回とも「翌日金を引き出しておく」と言って時間をもらっていたから、朝日が昇るころ宿を引き払って逃亡しようと計画していた。ところが、宿から出る際にそのうちのひとりに捕まってしまった。仕方なく、一人が宿の支払いをしてタクシーを呼び、もうひとりがその間話し相手をして時間を稼ごう、とそいつの目の前で日本語で打ち合わせた。そして10分後くらいに来たタクシーに飛び乗り、ネグリルというリゾートへ間一髪で逃げ延びた。


ネグリルはなんとも美しい海だったが、この時期に掲載は不謹慎と思うので控える。

キングストンの件で完全に疑心暗鬼の人間嫌いになっていたのだが、ネグリルで歯がほとんどないドイツ人の老人と仲良くなった。痩せたゴブリンのような老人で、結果的には沈んでいた我々を大いに楽しませてくれた。そしてその珍道中で紹介された、アメリカ人の退役スタントマン。彼こそが、本事件の中心人物とも言える存在なのだ。プライベートビーチでひっそり暮らしていて、背は小さいがめちゃくちゃガタイのいい雰囲気たっぷりのジジィ。
映画インディ・ジョーンズに出演した話から、若い頃に人を殺した(!?)話まで、自らが建てた家でたっぷり聞かせてくれた。ちなみに家では大蛇やら鷲やらが飼われていたのを覚えている。

Crazy な独り言
まるでドワーフ。最初はかなり怖かった。インディ・ジョーンズで使った刻印入りのナイフを見せられた時は、あぁ、コレで切り刻まれるんだ、と覚悟したほど。
その際にこのドワーフが振舞ってくれたのが、自分のビーチで実ってたココナッツだった。煙草を口端に、鬼の形相で鉈を振るう。
ぱっくり。割れたココナッツを渡され、フルーツの王様との謁見よろしく、ついにその汁を吸う――


「・・・なにコレ?」

などと言えるはずがなく、ドワーフの好意に満面の笑みでこたえる。
一応、実の白い部分をかじってみるが、硬いだけで味がほとんどない。しかも、ココナッツの表面は意外なまでに剛毛で、ワサワサとした肌触りもスゴイ。まさか、そんなはずはない。そう思って必死にチュパチュパするも空しく、自分の幻想はみるみる儚く消えていった――


貴重な体験をさせてくれたドイツ人のジィさん。
実は前出の写真の黒人男性は、そのドイツ人のジィさんの運転手兼ボディガード。善人でした。
イェーイ。
Crazy な独り言
人は見かけによらないもの。
ドワーフとはかなり長い間話し込んでしまったが、その間もちゃんと待っていてくれた超イイ奴。へんぴな場所だったから、もし置いていかれていたら悲しい結末になっていただろうと思う。とはいえ、もし彼が一人で近づいてきていたら、間違いなく秒速100kmで逃げていた。


1週間ほどのジャマイカの旅ほど、波乱な旅はなかった。1冊の本が書けるほど色々あった。
機会があればまた、書いてみようかとも思う。

最後に、現在のフルーツ王座は「桃」である。

完。