クレイン・テクノロジー|技術をもっと、分かりやすく。|畑谷成郎 -24ページ目

第02回「香りのアルバム」-匂いの再生装置

気になっていた異性の同級生とすれ違った瞬間とてもいい香りがした。あなたの青春の1ページにそんな淡い思い出はありませんか?でもどうやったら、その香り(匂い)を再現することができるのでしょうか。

今回は匂いの再生装置のひとつをご紹介します。この装置は匂いを含んだ「空気のリング」を人間の鼻にめがけて発射する装置です。空気のリングというのは、例えば、タバコの煙を吹き出して作る輪が一番イメージに近いでしょう。

匂いの再生装置を作るのが難しい理由はいくつかあります。視覚情報における光の3原色のようなものが匂いにはないこと、同じ匂いを長く嗅ぐと鼻が順応して匂いを感じにくくなってしまうこと、匂いが滞留すると匂いの切換が難しいことなどです。

人間の鼻には、匂い分子の濃度がある程度以下になると匂いを感じなくなるという性質があります。この境目の濃度を「閾値(しきい値)」というのですが、今回ご紹介する技術ではこの閾値を、順応と滞留の問題の解決に巧みに利用しています。

この装置は空気のリングに、閾値より少し高い濃度の匂い分子を閉じこめて人間の鼻に向けて発射します。違う場所から発射された二つの空気のリングがちょうど鼻の位置でぶつかって破裂するようにしてあり、これによって、鼻の周辺にだけ閾値以上の匂い分子が分布し、匂いを感知できるようにしてあります。

空気のリングが破裂した後は、匂い分子は周囲に拡散していきます。拡散に伴い匂い分子の濃度が閾値以下になると人間の鼻はその匂いを感じなくなります。そのため、空気のリングが破裂した直後にだけ、そして対象の人だけが匂いを感じ、匂いが拡散していった後や周囲においては匂いを感じないようにすることができるのです。

現在、この装置は研究段階にあり、自動車運転中に眠気覚ましの香りを運転手の鼻に向けて発射する実験が進められています。閾値を参考に濃度を調整して、助手席や後部座席の人が眠気覚ましの香りを感じないように工夫しているそうです。

<関連リンク等>
○ アロマ辞典「閾値(いきち・しきいち)」
○ ATRメディア情報科学研究所「香りプロジェクタ」
○ ATR認知情報科学研究所「香りの提示が人の行動反応に与える効果」
○ 京都新聞「香りを発射!居眠り運転防止 ATRと富士重が新システム」
○ 特許出願公開番号 特開2004-081851「匂い提示装置」
○ 特許出願公開番号 特開2006-295321「匂い提示情報付き映像コンテンツ及びその上映システム」
○ 関連キーワード:香り、匂い、臭い、閾値、空気砲