代理母に関する本は他にもありますが、とても考えさせられる一冊でした!
『燕は戻ってこない』桐野夏生著 集英社
472p
【第64回 毎日芸術賞受賞作】
【第57回 吉川英治文学賞受賞作】
この身体こそ、文明の最後の利器。
29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。
子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女に、失うものなどあるはずがなかった――。
北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられ……。
『OUT』から25年、女性たちの困窮と憤怒を捉えつづける作家による、予言的ディストピア。(amazon)
ほぼ初めての作家さんです。
NHKのドラマの予告で見て、原作がある事がわかりました。
すぐに本屋さんに行って購入し、迷いましたがドラマを見る前に読むことに!
一見ボリュームのあるページ数です。
でも文体がとても分かりやすくて、読み終わるまでにそれほど時間がかかりませんでした。
なかなかこのストーリーを端的に表現するのは難しいです。
まず「代理母」そのものをちゃんと理解していませんでした。
例えば「サローゲートマザー」とか「ホストマザー」という言葉さえ知りませんでした。
そして、実際にビジネスとして存在することも。
「代理出産」の一面しか知らないとまるで現実味のない物語のようですが、既にアメリカ、イギリス、タイでは複数のエージェントがありますし、弁護士を立てて後々争うことのないようにするなど法制度も整いつつあります。
決して遠い話ではないのです。
それを踏まえた上で読むと、受け止め方も変わって来ます。
この物語をどう捉えるかは、それぞれの立場で大きく異なるのではないでしょうか。
もしリキの立場だったら、代理母出産を決意できるだろうか。
悠子の立場だったら、受け入れる事ができるのだろうか。
基の立場だったとしたら、それでも子供が欲しいのだろうか。
基の親はどうか?
悠子の親はどうなのか?
リキの親や関わった男性たちは?
ただこの中で一人、基の親千味子は少し立場が異なります。
この物語では、千味子は有名なプリマドンナ、基も有名なトップバレエダンサーだったことから優秀な遺伝子を遺したいから孫や子供が欲しいと、お金に糸目をつけずに方法を模索します。
千味子はいわゆる物語上の典型的な姑ですから、子供のいない悠子のことはあまり快く感じておらず、息子の遺伝子を引き継ぐなら別に悠子ではなくても良いとドライに割り切ります。
最終的にどのような結論になるかは、もちろんここでは伏せますが、子供、孫に対する「血の繋がり」というものに翻弄されていくそれぞれの立場ならではの変化がとてもよく描かれています。
また「代理母」以外にも様々な問題が描かれているので、そこも考えさせられます。
性差や格差社会、自己の尊厳など、とても深いテーマがあります。
あまりにも簡単に人を傷つける言葉を投げかけたりしていないか、など。
たとえ他意はなかったとしても、不用意な発言はしてはいけない。
不快な言葉を投げかけられた時どう対応するのが良いのか、難しいです。
ドラマはほぼ小説を踏襲しているので結論は予想通りでしたが、それぞれが暮らす家や部屋、衣装などが読み手の勝手なイメージを統一化してくれるので、物語がより立体的に観られるようになりました。
そして役者さんのイメージが登場人物になっていくので、小説を読み返した時に、それぞれのキャラクターがその俳優さんの声や仕草になるのも面白かったです。
そういう意味からも、もちろんその本によるので一概には言えませんが、私は原作を先に読んでまずは自分のイメージを持ってから、ドラマを観る方が好きかもしれないです。
読み終わってからもとても考えさせられる話でした。
でも小説もドラマも良かったです。
少し時間をおいて、またゆっくり観直したいです。
不用意に感想を述べることは避けたいのですが、ただ親子関係には多様な形が存在して良いと感じています。
嫁と姑は上手くいかなくて当たり前だと経験上信じていましたが、実の親子のようにお互いを必要として、忖度なく好きでいられる関係もあるのだと、これも経験を通して知りました。
リクと悠子と基がこれからどんな風に子供達と生活をしていくのか、続きを見てみたいです。
さて最初に「ほぼ初めての作家さん」と書きましたが、『OUT』を読み始めていました。
でもその時は少し読むだけのパワーがなくて、積読になっています。
同じようにドラマも観始めたのですが、やはり途中になっています。
続きはもう少し余裕ができてからになりそうです。
桐野さんの本は他にも積読になっています。
とても深いストーリーなので、少しばかり覚悟が要ります。
読了したらまた書きます!