道具や機械の売り文句でよく見かけるのが、「鉄製で頑丈です」「アルミ製で頑丈です」「金属なので木製より頑丈です」などなど。

これを偉そうに言ってる時点で、この販売者は頭がかなり弱く本質を理解できていないので売ってるものを信用しない方がいいです。


頑丈にも色々な種類があります。

曲げに対して強いのか、圧縮に対して強いのか、構造的に強いのか、またそれらが重量比で何かと比較して高い数値なのか、様々です。

そして、その頑丈さがその道具に必要な方向性の頑丈さなのか、限界に対してどの程度余裕があるのかを理解して設計されていなければ道具として信用できません。


さて本題の「木は金属より弱いのか」ですが、これも条件によるというのが正解です。

ただ建築では常識ですが金属が鉄の場合、重量比の各数値はほぼ木材の方が高く、しかもその木材は建材としてよく使われる杉や檜です。

スギヒノキより2倍ほど高比重のケヤキでは、同重量の鉄を圧倒的に凌駕した上で体積も抑えられます。


2トンの加圧ができるプレス機イルトロでも、男性なら片手で持ち上がります。(約10キロほど)

2トン級鉄製プレス機は25〜40キロあるので、1人で運べない重さになってきます。

いかに軽いかわかるでしょ?


もちろん鉄の方が細くても高い強度が出せるし、木材より遥かに圧縮に強いので、このイルトロの中でも柱部分やプレス面など必要なところは鉄製です。

当然、油圧ジャッキも鉄製、これは鉄は鋳物で自由な形が作れて強度もあって安いので最適な素材だから。


要するに適材適所なんです。

当たり前のことなんですけどね。

木でも強度を満たせるところまで全部鉄じゃなくてもいいよね、鉄の方がコンパクトに強く作れるところまでわざわざ木で作らなくてもいいよね、ってこと。

変なこだわり持たずに、ベストな選択をすればイルトロのような構成にたどり着きます。

ただ、欅レベルの強度を持つ木じゃ無いとダメですよ。


例えばよくハンドプレス機を素人が「簡単に作れました!」とホームセンターのツーバイ材で作っていますが、あんな柔らかい木では圧力をかけたらどこまでも沈んでいきますからね。

いやどこまでもは嘘です、4センチが2センチくらいまで沈めば欅に近い比重になるので沈みは止まるかな。

ワッシャーの部分だけ2センチ沈んだ醜い道具に価値があるかどうかは知りませんが。

イルトロのような構造にするなら厚さ12センチくらい必要かな…醜いなぁ。


つまりは木でなくてもアルミでも必要強度を満たせるならOKなんですよ。

ただ、アルミは金属の中でも金属疲労に極めて弱い性質を持っています。

アルミ材って一回曲がったのを元に戻すと白くなって折れた経験ありませんか?

プルタブ外す時なんかもその現象ですね。

だから必要強度を絶対にオーバーしない設計が必要なんです。

たわむけど、ひどく曲がらないから大丈夫!では無いんです。

目視できるほどたわんでる時点で既にアウト、どこかに疲労が蓄積されてます。


あとは単純にアルミは非常に高価です。

だから充分な強度を出せるだけの厚みのアルミ材を多用した機械は非常に高価になります。

よく素人ハンドプレス機に使われているアルミキャスト材は本来は力のかからない機械の柱や梁に使うものなので中は空洞で非常に軽く、それ故に安価ですが、当然強度を満たす事ができません。

それわかってて使ってるんですかね。


ちなみに木材は曲げに対しては極めて強い性質を持ちます。

しなっても破断に至らなければ元に戻る。

繊維組織自体に高い弾性があるのである程度組織が伸び縮みしてもノーダメージで復元できるんです。

弓はまさにこの性質を利用しています。

折れるには程遠い撓みや曲がりは無視して全く問題ありません。

だから圧力のかかる構造材、かつ軽くしたい時には木材はかなり適しているんです。


このあたりは調べるほど神秘というか、自然って凄いなという思いになります。

木だって別に人間に構造材にされる為にその強さを獲得したわけじゃない。

自分が強風や降雪でも折れずに、高く大きく育つ為に何億年かけて進化してきた結果なわけですよ。

現代人類が必死こいて研究している材料構造学の真髄みたいなものが遥か昔からDNAに刻まれていて、太陽光と水と二酸化炭素とほんの少しの栄養素だけで時間さえかければ何トンという巨体を構築できるんです。

人間からすりゃ山の中に放っておくだけで勝手に大量の構造材が手に入るんですから、木材が比較的安価な理由もわかります。

本当に神秘的ですし、感謝しなければいけない事だと思いますよ。