私はこの上なく冷静だった。家には死体が2体。母親と、以前愛した男。そして何者かはよくわからないがとにかく友達のニカ。異常すぎる光景にどんどん私の血が冷えていく。私の部屋に行きベッドを移動する。床板を外し、中に入っていたものを全部出す。パパとの写真、ママと海に遊びに行った時拾った貝殻、そこは私が幼い頃、秘密の宝箱にしていたところだった。昔の記憶が一斉に押し寄せた。しばらく過去への想いに浸っているとニカがコールの死体を担いできた。ニカはなぜこんなにも小柄なのに力があるのだろう。
「グレース・マリー?大丈夫?」
「うん。大丈夫」
私とニカは彼を床下の狭い場所に押し込み蓋をした。ベッドを元の位置に戻し、ママの部屋に行くと何もかもが綺麗に片付いていた。ベッドには新しいシーツがひかれ、その上で眠っているかの様なママが月明かりに照らされて美しく横たわっている。
「ママ、綺麗」
ふと口をついて出た言葉に後ろにいたニカが答える。
「君の方が綺麗だよ」
「、、ニカ」
「おいで、部屋に戻ろう。君は寝た方が良いよ」
「うん」
私の部屋にニカと戻るとニカが私の髪を優しく丁寧にブラシでといてくれた。パジャマに着替えてそのままニカと一緒にベッドに潜る。私を腕に抱えながらニカが呟く。
「昔を思い出すね。よくこうやって一緒に寝たっけ。おやすみグレース・マリー」
「おやすみ」
私の意識が遠のいて行き彼女の腕の中で眠りに落ちていく。
翌朝、目が覚めると、ニカはいなかった。寝ぼけた目を擦りながら洗面台に行く。
顔を洗ってタオルで拭くと少しさっぱりした。
顔をあげると鏡にニカの顔が映った。
「ニカ!」
喜んで後ろを向くが、誰もいない。私の声がしんと静まり返った廊下に響く。
もう一度鏡を見ると今度はレインの顔がこちらを見返している。
そのままじっと見つめ返しているとレインの顔はカナリアになり、スイッチになり、はたまたボタンになったり、石蹴りに見えたりと順々にリトル・ヴェイルの顔を映し出す。
そして彼女らの顔が段々と薄らいで行き、最後に私の顔になった。
リトル・ヴェイル
彼女達は、私だった?
ママを殺したのは?
コール・ケンプを殺したのは?
全部、私?
段々と見える光景が変わって行く。白黒の様に見えていた家が奇妙なほど色鮮やかになって行く。初めて自分の髪が柔らかな茶髪だったことに気がついた。鏡に映る私の顔は頬に赤みがさし、薔薇色の唇をしていてとても可愛らしかった。ご機嫌な気分で部屋に戻りクローゼットから大きなつばの帽子を出し、真っ赤なエナメルの靴も取り出す。これらに合うドレスはあるかしら?
「これがいいわ!」
歓喜の声をあげながら花柄のひらひらとしたドレスに着替える。帽子を被り、靴を履くと生まれ変わった様な気がした。朝食を作るためにキッチンに向かう。パンをミミと自分の分とふたつ焼いて、その間に卵とベーコンを焼く。私が料理をしているとミミが目覚める音がした。
「おはようグレース。私も食べたい」
「おはようミミ、今作ってるところよ」
ミミが顔を洗い、着替え終わった頃ちょうど朝食が出来上がった。
コーヒーを啜りながらミミが私の服装に気がついた。
「あら!素敵だわグレース!」
「えへへ、ありがとう」
「デートにでも誘われた?」
少々照れくさかったけど、正直に答えた。
「うん。コール・ケンプっていう人なの。私、彼に夢中なのよ。彼に恋しちゃったわ」
軽く笑って誤魔化し、フライドエッグにかぶりつく。
朝食を食べ終えると、食器はミミが洗ってくれるというので任せて、コールの家まで行くことにした。
「じゃあ、ミミ行ってきます!」
終