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「自民・維新」の接近と「公明」の焦り
衆院小選挙区の1票の格差を是正する公職選挙法改正案が衆院本会議で可決され、笑顔で議場を後にする安倍晋三首相(上右)と新藤義孝総務相(上左)ら=2013年4月23日午後、国会内【時事通信社】
7月の参院選後の政局を視野に入れた各党の動きが激しくなってきた。その大きな流れの中ではっきりしてきた傾向は、野党では民主党の没落、与党では自民、公明関係の暗雲。そして、自民党と野党・日本維新の会のさらなる接近だろう。
もはや「圏外」の民主党
野党第1党としての民主党の威信の低下を象徴的に示しているのが、最近の野党の国会対応である。
4月16日、衆院議院運営委員会は衆院選挙区定数を改正する、いわゆる「0増5減」の具体的な区割り案について、18日から審議入りすることを自民、公明の与党両党の賛成で決定した。共産党を除く野党各党は抗議の意思を表明するため欠席したのだが、与党は野党欠席のまま採決してしまったため、野党は反発。17日も引き続き審議を拒否することを決めた。
ところが、17日になって、民主党が欠席戦術をやめて審議に復帰すると言い出したため、この日の野党国対委員長会談は紛糾した。結局、結論が出ず、午後3時から予定されていた安倍晋三首相と野党党首による党首討論が終了してから再度、民主党の考えを聞くことになった。
部屋から出てきた他党党首は記者団に向かって、口々に民主党を批判した。
「民主党は審議に戻ると言っている。だったら、はじめから他党に審議拒否を呼びかけるなよ。民主党が言い始めたんだぞ。もうボロボロだな」
党首討論後に再開された国対委員長会談は、共産党、維新の会と民主党との激しい口論となった。
民主党「出席、欠席については野党で足並みをそろえよう」
維新の会「そろえようって言ったって、どういうふうにそろえるのか。どの会議にどこから出席するのか、欠席を続けるのか。何も分からないんじゃ、足並みをそろえようがない」
民主党「今夜、それを決めるので、明朝連絡する」
維新の会「今夜のうちに連絡がなければ、明日になってからでは連携のとりようがない」
共産党「民主党にはこれまで何度も裏切られている」
民主党「裏切られたってことはないじゃないか!」
共産党「さっきは『党首討論を見てから対応を決める』って言っていたじゃないか」
結局、会議を開いたのに何の進展もなし。維新の会の小沢鋭仁国対委員長が冗談まじりに記者団にポツリとつぶやいた。
「何一つ決まらない。恐るべし、民主党」
「維新と直接話すことにしました」
衆院選挙制度改革に関する会談に臨む(左から)みどりの風の亀井亜紀子、生活の党の鈴木克昌、みんなの党の江田憲司、民主党の細野豪志、自民党の石破茂、公明党の井上義久各党幹事長、松野頼久日本維新の会国会議員団幹事長、共産党の市田忠義書記局長、社民党の又市征治幹事長=2013年4月3日午後、東京・国会内【時事通信社】
結局、「0増5減」区割り案は19日の特別委員会で、野党のうち民主党と維新の会、生活の党が欠席する中、自公両党などの賛成で可決。23日の衆院本会議でも可決し、今国会での成立が確実となった。
民主党の態度が煮え切らないのは、国会対応の責任者である高木義明国対委員長のせいばかりではない。指導力に欠ける海江田万里代表や実力者の輿石東参院議員会長の意向が食い違い、細野豪志幹事長も決断力がない……。こういう状況では高木氏に巧みな国会戦術を期待しても無理である。すでに民主党は、自民党と対抗していく力も意欲も失ったとみていいだろう。
ところで、野党第1党の国会対策が機能不全に陥っていることは、実は自民党にとっても好ましい状況ではない。国会審議を進める段取りは、表向きは各党が議院運営委員会や各常任委員会の理事会で協議することになっているが、水面下では与党第1党と野党第1党が話し合って、ほとんど決めているからだ。要するに、今までは自民党と民主党が国会を仕切ってきた。
自民党としては、今後も民主党が野党をまとめる能力に期待していたのだが、そのルートが機能しないと、自民党の国会運営も危うくなる。他のルートを探すしかない。
そこで、自民党はどうやら民主党を国会対策の野党側の主役からはずすことにしたようだ。4月下旬、自民党国対関係者が維新の会幹部に打診した。
「もう民主党と話していてもしょうがないので、維新の会と直接話すことにしました」
「そうですね。実質的な話し合いはそうするしかないですね」
衆院議員数ではかろうじて、民主党の方が維新の会よりも上の位置にいるが、国会運営における野党第1党の座は民主党から維新の会へと確実に移りつつあるのだ。
維新の会は、いわゆる野党っぽい理不尽な抵抗をしない政党である。「反対のための反対野党」を徹底的に嫌っている。このため、良く言えば筋道の通った国会対応をとるし、悪く言えば自民党の補完勢力になったり、与党にとって物わかりのいい政党になったりするともいえる。いずれにしろ、今後、政局や国会の節目で安倍・自民党と維新の会の蜜月関係が続くことになるだろう。
「憲法改正は争点にならない」
「新しい憲法を制定する推進大会」であいさつする自民党の石破茂幹事長(檀上左から3人目)=2013年4月30日午後、東京・永田町の憲政記念館【時事通信社】
国会対策だけでなく、もともと両党の仲はそんなに悪くない。すでに報道されているとおり、安倍首相や菅義偉官房長官をはじめ、自民党幹部と維新の会幹部が会談を繰り返していることが知られている。また、両党の中堅・若手議員クラスの交流も活発である。
さらに、こうした動きに拍車をかけるのが政策面での一致である。維新の会の橋下徹共同代表はアベノミクスに一定の高評価を与えているし、最近では、道州制導入などで両党の歩調が合い始めてきた。
また、一番肝心なのは両党とも憲法改正に積極的だという点である。参院選後には、いずれ憲法改正の発議が具体的に政治日程に上ってくるだろう。そのとき、自民党と維新の会は手を組める素地がある。
一方、こうした改憲勢力の動きに困惑しているのが、公明党である。
もともと公明党はリベラル色の強い党である。憲法問題については、新しい条項を書き加える「加憲」という立場をとっている。ただ、自民党が主張するような憲法9条の根幹部分の書き換えについては、党内の抵抗感が強く、そういう意味ではどちらかと言えば、護憲政党と言っていいだろう。
このため、今の公明党は苦しい立場にある。自民党総裁がリベラル派の谷垣禎一氏から保守派の安倍首相に代わり、憲法だけでなく外交・安全保障問題などでも肌合いが異なるからだ。
それでも公明党は与党の一員として安倍内閣からは離脱したくない。しかも参院選が近い。過去の選挙でも自民党と公明党は緊密な協力を続けており、今回もその体制で勝利を確実にしたい。そのため、安倍首相が憲法改正を高らかに宣言して参院選に臨み、公明党の支持者の反発を招くようなことは避けたいというのが本音だ。
公明党の井上義久幹事長は4月5日の記者会見で、「私は憲法改正が参院選の争点になるとは思っていない。今、国民が直面している課題ひとつひとつについて結果を出していくことが求められていると思う」と述べた。
「安心させるポーズ」は取ったが……
公明党の山口那津男代表(左)と握手する安倍晋三首相=2013年2月21日午後、東京・首相官邸【時事通信社】
こうした両党内の微妙な空気を受けて、安倍首相と公明党の山口那津男代表は4月12日、首相官邸で昼食をとりながら党首会談を開いた。会談の開催を呼びかけたのは安倍首相の方だ。公明党側は「うちの党に気を遣ってくれているのだな」と考えたという。
会談では、衆院選挙区定数是正の「0増5減」案を他の選挙制度改革案にさきがけて現在開会中の通常国会で処理することなどで一致した。
0増5減案の先行処理には、日本維新の会は難色を示してきた。0増5減案の処理について、自公両党首脳の意見が一致したことは、自公両党の連携がうまくいっていることを知らしめることになる。「自民党のパートナーは、維新の会ではなく公明党なのだと強調し、公明党を安心させる意味があった」(自民党幹部)のだという。
選挙協力上の味方だという意味では、自民党にとっても公明党は大切な存在である。政策的な違いがあろうとも、自民党もまた公明党に離反されては困る。
このため、安倍首相は公明党の他の懸念を払拭することにも心を砕いた。「自民党と公明党は党の成り立ちが違うからいろいろと考え方の違いもある。だが、連立政権の結束を引き続き強め、国家国民のためにやっていくという意思は不変であると確認できた」(同席した石破茂幹事長)という。
公明党が警戒を強めてきた憲法改正問題については、安倍首相は次のように発言した。
「自民党の憲法改正草案に『国防軍』という言葉を入れたのは、谷垣禎一総裁と石原伸晃幹事長のコンビが執行部の時だった。なぜか僕が総裁になると、そういうイメージがあるから騒ぎになってしまう」
「国防軍」という言葉を盛り込んだのは、いわゆる「ハト派」の谷垣総裁時代であり、逆に自分はよく言われているような「タカ派」ではないと言いたかったのだろうか。まるで「国防軍」に反対しているかのような言いっぷりでもある。これも公明党へのサービスなのだろう。
これを聞いた公明党幹部は記者団にこんなふうに語った。
「こういうやりとりで、自公関係を修復したいという意思が伝わってきたんじゃないか。こういう定例会談を続けていけば、自然に『憲法改正を参院選の争点に』なんていう声は消えていく」
反発する公明党
自民党の憲法改正推進本部であいさつする安倍晋三首相(中央)=2013年2月15日午後、東京・永田町の同党本部【時事通信社】
だが、公明党が安心するのはまだ早かった。安倍首相は4月23日の参院予算委員会の答弁で、憲法改正の発議要件を緩和するための憲法96条改正について「夏の参院選でも堂々と改正を掲げて戦うべきだ」と選挙公約に掲げることを明言したのだ。
これに反発するかのように、公明党は25日、「硬性憲法を維持する」との見解をまとめようと動き始めた。硬性憲法とは、改正のために一般法よりも厳格な手続きを必要とする憲法のことである。つまり、憲法改正の条件を緩和する96条改正に批判的な姿勢を示したのだ。26日に開かれた公明党憲法調査会でも96条を先行して改正するという安倍首相の方針への批判意見が続出した。
もちろん自公両党は、選挙協力などの点で、今や切っても切れない関係にある。このため、安倍首相も積極的に公明党を切り捨てるつもりはないし、公明党もすすんで縁を切るつもりはないだろう。
だが、参院選後に憲法改正が本格的な政治テーマに浮上した場合にはどうなるだろうか。しかも、野党では、民主党が主導権を失い、憲法改正に前向きな維新の会が台頭している。安倍首相は、どんなに公明党が反対してもこれから憲法改正という政治生命をかけた勝負に出てくるだろう。その時に、連立与党の構成員は公明党ではないかもしれない。
ニーチェは・・反宗教派だったそうだ・
