経産省3首脳更迭:組織温存へ「先手」 首相主導を警戒
2011年8月5日 0時2分 毎日
経済産業省の事務次官と資源エネルギー庁長官、原子力安全・保安院長が4日、そろって更迭されることが決まった。東京電力福島第1原子力発電所事故や、国主催の原子力関連シンポジウムを巡る「やらせ」問題への批判を受けて、政府は3首脳の「更迭」を強調。しかし、後任人事は省内順送りの顔ぶれが並び、「人事刷新」とは言い難い。政府内では菅直人首相主導の人事を警戒した経産省側が、組織温存に向けて機先を制したとの見方も出ている。【野原大輔、宮島寛、朝日弘行】
◇「海江田さんが気の毒」
「(更迭された)3人が『一緒に辞めさせてもらいたい』という思いを(海江田氏に)伝えたと聞いている」。民主党の鳩山由紀夫前首相は4日、経産省3首脳の更迭人事を巡り、記者団に舞台裏を明らかにした。
海江田氏は九州電力玄海原発の再稼働を巡る混乱の責任を取り辞任する意向を表明している。これを受け、松永和夫経産事務次官ら3氏は海江田氏とともに辞任すると申し出たという。海江田氏は民主党内の鳩山グループに所属しており、4日、鳩山氏に報告した。
海江田氏は2日、首相に更迭人事に踏み切る方針を報告していた。しかし、朝日新聞が4日付の朝刊で「菅首相が3首脳を更迭する方向」と報道。首相の指示で海江田氏が動いたような報じられ方について、経産省筋は「海江田さんが気の毒だ」と反発を強めた。
経産省内には元々、海江田氏が進めた中部電力浜岡原発の停止要請を首相が記者会見して発表したことへの不満がくすぶる。海江田氏は鳩山氏に、報道について「浜岡の時と一緒だ」と怒りをぶちまけたという。
菅首相は東日本大震災の発生後、原子力行政を推進してきた経産省への不信感を強め、原発を規制する保安院を経産省から分離するよう指示。首相の意向を受けた細野豪志原発事故担当相が環境省に「原子力安全庁」(仮称)を設置する試案をまとめている。原子力行政を巡る官邸と経産省との主導権争いが、人事の疑心暗鬼を招く結果となった。
閣内の綱引きを見透かすように、みんなの党の渡辺喜美代表は4日、記者団に「既定路線の人事を更迭と称してやっているだけ。官邸と海江田さんの手柄争い」と皮肉った。自民党の谷垣禎一総裁も同日の会見で「首相あるいは大臣の政治責任を棚上げする形で人事を行う点に疑問を感じざるを得ない」と批判した。
政府の原発事故対応を指揮してきたのは菅首相だ。それにもかかわらず、自身は退陣を先送りし続ける首相の姿勢には与党からも批判の声が上がる。鳩山氏は「経産省だけでなく、いろいろな役所が十分に機能していない。責任は当然トップにある」と述べ、首相の早期退陣を要求した。
民主党の輿石東参院議員会長は4日の会見で、経産省人事に関連して「政治家の出処進退は首相を含め自らが最終的に決めることだ。そのうちに結論が出る」と表明。今国会が閉会する8月31日までに、退陣時期を明確にするよう求めた。
◇後任人事は「順当」
「経産省を毛嫌いする菅直人首相に人事をもみくちゃにされないよう、自ら決断したものだ」。経産省幹部は、事務次官ら3人の「更迭」をこう解説した。トップの首を差し出すことで、「減原発」などの路線を掲げる官邸の影響力を排除するとの見方だ。省内では事実上の「組織解体」を懸念する声さえ広がり、追い詰められた経産省には組織防衛の手段は限られていた。
経産省は東京電力福島第1原発事故で、電力会社への天下りなど官民もたれ合いの構図が批判された。さらに幹部のインサイダー取引疑惑や女性問題が浮上。原子力安全・保安院の「やらせ問題」まで発覚し、信頼は地に落ちた。首相は経産省への不信感を強め、保安院の分離を固めたが、省内には「エネルギー政策を丸ごと他省庁に移されるのでは」との危機感すら漂っていた。
実際に首相は、震災後のエネルギー政策見直しを、国家戦略室が事務局を務める「エネルギー・環境会議」が主導する構図を描いた。同会議は7月、「減原発」を柱とする政策見直しの「中間整理」を公表。経産省も近く、経産相の諮問機関「総合資源エネルギー調査会」で見直し議論を始めるが、既に方向性を決められた形だ。
一方、円高や電力不足対策は喫緊の課題。政府は現状の円高水準が続いた場合、雇用対策や中小企業支援などを迫られる。足踏みしているTPP(環太平洋パートナーシップ協定)をはじめ、政府が成長戦略のカギと見る経済連携協定(EPA)推進など、経産省が担当する懸案は多いが、このままでは政策が停滞しかねない。「官邸との対立関係を続け、政策の空転を招く可能性を残すぐらいなら、経産省は解体的な出直しを図った方が良いのでは」(内閣官房幹部)との声もある。
もっとも、経産省が固めた新体制については「刷新とは言えない」(経産省関係者)との見方も強い。松永和夫次官の後任には、「次官待ちポスト」とされる経済産業政策局長の安達健祐氏を起用。経済産業審議官との年次逆転が発生したものの「大部分は順当な人事」。解体的な出直しからはほど遠いとも言える。
【事務次官】安達健祐氏(あだち・けんゆう)東大卒。77年通産省(現経済産業省)。官房長を経て10年7月から経済産業政策局長。59歳。愛知県出身。
【原子力安全・保安院長】深野弘行氏(ふかの・ひろゆき)慶大卒。79年通産省。近畿経済産業局長を経て11年3月から商務流通審議官兼原子力安全・保安院原子力災害特別対策監。54歳。神奈川県出身。
【資源エネルギー庁長官】高原一郎氏(たかはら・いちろう)東大卒。79年通産省。関東経済産業局長を経て10年7月から中小企業庁長官。55歳。東京都出身。
社説:経産次官ら更迭 政権のけじめもつけよ
経済産業省の松永和夫事務次官、寺坂信昭原子力安全・保安院長、細野哲弘資源エネルギー庁長官の3首脳が、原発事故対応や一連の「やらせ問題」の責任から更迭されることになった。原発・エネルギー政策を切り替えるための官側に対する一種のけじめ人事とみられるが、政治もまたどう責任を取るかが問われることになる。
海江田万里経産相が4日、臨時の記者会見で発表、「経産省の人事の刷新、人心一新について1カ月ぐらい前から考えていた」と述べた。
確かに、経産省に対しては福島第1原発の事故後、原発・エネルギー政策の所管官庁として、いくつかの問題点が指摘されてきた。何よりも、津波対策の不備などで結果的に事故の災禍を拡大した監督責任だ。また、九州電力で「やらせメール」問題が発覚、国主催の原発シンポジウムで原子力安全・保安院が中部電力や四国電力に動員や原発賛成発言を依頼した問題も表面化した。資源エネルギー庁幹部の株のインサイダー取引疑惑など不祥事が相次いだ。
今回の人事は、こういった過去の失点に対する懲戒的なものだけではなく、脱原発依存・エネルギー政策の転換という今後の政策展開をにらんだ人事一新の狙いも込められていると思われる。海江田氏も「新しい体制で原子力安全・保安院の独立などを進めてもらいたい」と述べ、過去のしがらみにとらわれない抜本的組織改編に取り組む考えを明らかにしている。
原発事故については、原子力損害賠償支援機構法案と原子力損害賠償仮払い法案の修正案がすでに成立、被災者への賠償支払いに一定のめどがつき、一つの節目を迎えている。今回の人事を機に原子力行政の解体的出直しができないものか。
そのためには、トカゲのしっぽ切りと見られるようなことだけは避けるべきだ。官僚の行政責任だけでなく、「政治主導」を合言葉に官僚を指導、監督してきたはずの菅直人政権の政治責任もまた問われなければならない。
海江田氏本人はこの日の会見では自らの去就について「私一人で決めさせていただく」と明言を避けたが、いずれ時期を見て辞任する腹を固めている、と言われる。問題は、菅首相である。海江田氏の任命責任を含め原発事故対応の最終的責任をいつどう取るのか。
2次補正予算の成立、子ども手当をめぐる与野党合意など、首相交代の環境は少しずつ整いつつある。今回の人事はさらにその状況を一つ前に進めたものになろう。まさか、首相が延命のためにそれを使うとは思いたくない。
更迭されて・・天下りしたりして・・
