実録・20世紀少年
「20世紀少年」に学ぶ効果満点のプロモーション
プレジデント 2010年1.4号
最近の日本映画では類を見ない大ヒットとなった「20世紀少年」。成功の裏側には、漫画、映画、テレビ、広告によるメディアミックス戦略があった。
早稲田大学社会科学総合学術院教授 野口智雄=文
3部作の観客動員数累計900万人超、興行収益総額115億円という、最近の日本映画では類を見ない大ヒットとなった「20世紀少年」。成功の裏側には、漫画、映画、テレビ、広告によるメディアミックス戦略があった。
親子をターゲットにした商品開発
映画が斜陽産業といわれて久しい。無論、ビジュアル面の高度化やシネコンの開発等により、復権の兆しが見えなくもない。だが実は映画産業の相対的な斜陽化傾向はシネコンの増加とともに確実に進行している。21世紀に入って、シネコンのスクリーン数がほぼ倍増する中、映画人口は横ばい状態を続けているのだ。つまり裏を返せば、箱に足を運んでくれる観客の数は半減していることになる。この結果は今後の施設の整理・淘汰を予感させる仄暗い事実といえる。
こんな憂鬱な予想を吹き飛ばすような型破りな大ヒット邦画が近年誕生した。「本格科学冒険映画 20世紀少年」である。この映画は3部作からなるが、2008年8月公開の第1章が40億円、09年1月公開の第2章が30億円、同年8月公開の第3章が45億円の興行収入を稼ぎ出している。観客動員数も3作累計で実に900万人超を記録しているのだ(2009年11月上旬時点)。
なぜこの映画はこのような好業績を収めることができたのだろうか。今回はこの大ヒットの秘密に迫ってみたい。
まず作品の梗概を記そう。アポロ11号の月面着陸、翌年の万博を控えた1969年に、どこにでもいそうなケンヂという小学生とその遊び仲間が原っぱに草で作った秘密基地の中で「よげんの書」をしたためる。その中身は、悪の組織による世界征服、細菌ガスをまき散らす人類滅亡計画、羽田空港や国会議事堂の爆破、巨大ロボットの出現、そしてそれを食い止めるために立ち上がる九人の戦士の登場、といったいかにも子供らしいヒロイズムに溢れた空想だった。だがケンヂが大人になり、よげんの書のことなど忘却の彼方にあった97年から予言通りの事件が起こり始める。それを起こしたのは「ともだち」という教祖に導かれたあやしい教団なのだが、それを阻止すべくケンヂと原っぱの仲間たちが集まり、ともに戦って、「ともだち」の正体や行動の謎を解いていくという物語だ。
巨大ロボットが東京の街を破壊したり、円盤が飛びかったりと30年代のパルプフィクションを彷彿させるような荒唐無稽なストーリーである。だがその原作を「これでどうよ」とばかりに観客に向かってど真ん中に剛速球のストレートボールを投げ込む。この映画は滑稽とさえいえるテーマを大上段に振りかざし、潔く正々堂々と真っ向勝負した大作なのだ。
この映画の原作は、『YAWARA』『MONSTER』などで有名な浦沢直樹氏がビッグコミック・スピリッツに99年から06年まで連載していた『本格科学冒険漫画 20世紀少年』である。まず映画がヒットした理由の一つはこのコミックを選定したことにある。この単行本はなんと累計発行部数2800万部、世界13カ国で出版されている。この数字が時代のニーズを的確にキャッチしていることを示している。
浦沢氏にはあまたのファンがいる。それゆえ、連載開始当初から映像化を希望するプロデューサーからのオファーは数多くあったという。今回の幹事会社の日本テレビも初期段階からオファーを行っていた。そして映画会社国内最大手の東宝に声をかけ、配給プラス出資を仰ぐことで同意し、邦画では初めてといわれる3部作での上映形態と、60億円という巨額な製作費を出すことで、映画化が決定した。
ただどんなに原作が素晴らしいものであったとしても、それの実写は別物である。とりわけ大ヒットコミックはコアなファンが多いので、実写映像がファンのイメージや夢を壊してしまったならば、怒号や酷評の嵐が巻き起こる。映像化の総責任者である映画監督の責任は重く、心理的負担はさぞや大きいと思われる。
しかし監督を務められた堤幸彦氏からは意外なほど肩の力の抜けた柔軟なお答えをいただいた。氏によると、「明確におもしろい原作がそこにあるわけだから、原作を何度か読んで、うーっとにらみつけて考えたときに、これ、このまんまやればいいんじゃない? という、コンセプトに至った」という。これを原作原理主義というそうだが、第一章に関しては客席で漫画を読みながら映像を見ていてもほとんど筋が追えるほどそっくりなコマを入れている。これは原作のコア・ファンの期待を裏切らないという意図で作ったという。
ただそれだけだとこの大作に見合った観客動員は見込めない。そこで、原作を読んだことのない人々にも、映画としての独立した面白さを実感してもらうために、見事なCG映像をふんだんに挿入し、唐沢寿明、豊川悦司、常盤貴子各氏といった総勢300人にも及ぶオールスターキャストに、その持ち味が生きるような演出を行ったのだ。
ところで「顧客層」に関しては興味深いお話をいただいた。この一連の作品を鑑賞しに来る人々のパターンとして「親子で来る」層が意外に多かったという。親世代にとっては70年の万博が一つのシンボルになっていたり、ノスタルジーを感じさせる昭和の街並みが登場したりするからであり、子供世代にとっては人気の漫画が題材になっているからだろう。堤監督は、「ずっと共通の話題がなかったけれども、映画『20世紀少年』を通じて、親子の会話ができました」と感謝の言葉を多く受け取ったという。
これは非常に示唆的である。通常のマーケティングでは顧客ターゲットは一点に絞り込むのが常識化している。だが年齢も意識も行動も異なる「親子」をターゲットにする商品の開発ができれば、もちろん顧客数は伸びるし、家庭内コミュニケーションの円滑化にも寄与することができる。
出資者の媒体を有効活用するメディアミックス
この映画の魅力の一つに音楽がある。どんなに優れた漫画であっても二次元上では「音」の迫力を表現しきれない。この映画では音楽で二次元媒体がもつ限界を突破し、観客にビビッドな臨場感や興奮を惹起している。とにかく筆者は、この作品のテーマでもあるT.REXの「20th Century Boy」のズズズズーンという重低音のイントロを聞くだけでゾクッときてしまう。
20th Century Boy
T-Rex Top Ten Greatest Hit's 03: Get It On (HQ)
T-Rex Top Ten Greatest Hit's 06: Metal Guru (HQ)
堤監督自身がこの映画は「音楽映画の一種だ」とおっしゃるように「音」への思い入れが強い。コンセプトとしては「郷愁」を感じさせるような商業主義に走る以前の「正しいロック」やロック以外の音楽を挿入する場合も、そのあたりのセンスを理解できる作家にお願いし、自らも積極的に意見を述べたという。実際、音楽はムーンライダースの白井良明氏に依頼し、監督も「ここはピンクフロイドでいこう」とか、「ここはドアーズみたいなリズムでいこう」という意見を述べたそうだ。
筆者も幼少の頃よりギター、ピアノに興じた経験があるので、映画の要所要所で流れる旋律に心は乱され、最終章のケンヂのライブシーンでは唐沢氏の意外なほど上手な歌声にグッとこみ上げてくるものがあり、ともだち登場時の不快音にすら「快感」を覚えた。
ただどんなに秀逸な作品を作ろうとも、的確なプロモーション活動がなけダースの白井良明氏に依頼し、監督も「ここはピンクフロイドでいこう」とか、「ここはドアーズみたいなリズムでいこう」という意見を述べたそうだ。
筆者も幼少の頃よりギター、ピアノに興じた経験があるので、映画の要所要所で流れる旋律に心は乱され、最終章のケンヂのライブシーンでは唐沢氏の意外なほど上手な歌声にグッとこみ上げてくるものがあり、ともだち登場時の不快音にすら「快感」を覚えた。
ただどんなに秀逸な作品を作ろうとも、的確なプロモーション活動がなければ成果には結びつかない。とりわけ3部作という大作で、総製作費が60億円もかかっている作品では半端なプロモーションでは回収ができない。この映画ではその規模に見合った壮大なプロモーション活動が展開されていた。
まずプロモーションのための組織について明らかにしよう。昔の映画は、映画会社がすべて資金を拠出して製作し、自前の劇場に配給するというシステムだった。ところがテレビの普及により客足が遠のいて、製作費を捻出しづらくなった。そこで20年ほど前からテレビ局とタッグを組んで映画作りを行うシステムがとられるようになった。これが製作委員会システムだ。
「20世紀少年」も製作委員会が設けられ、東宝と日本テレビ、さらには電通などが一体となって出資し、映画作りが行われている。ただしこの映画の場合は、超人気漫画の本格実写版だったのでリスク分散的な意図はまったくなく、出資者の媒体を有効活用するメディアミックスを目的としていた。
実際、テレビでは定番のスポット広告やキャストパブリシティ(出演者にテレビ番組にゲストとして出てもらう)のほかに、画期的な前回作の放映を行っている。通常、テレビ局と映画会社とは、映画公開から1年以上たたないと地上波でオンエアしないという暗黙のルールがある。これは地方の公民館の日曜映画教室のようなところでは、しばらくの間上映し続けているからだ。その最中にテレビで放映されてしまうと、誰も見なくなり、配給会社は映画が売れなくなってしまう。
この映画の場合、第1章の公開が08年8月で、第2章の公開が09年の1月だった。つまり第2章の公開時にはまだ1年たっていなかったので、慣例にならえばテレビでのオンエアはできないはずだった。しかし第2章公開のプロモーションとして第1章のテレビ放映は行いたい。テレビの影響力は絶大だからだ。そこで、第1章を4割ぐらい削り、その削ったところに新撮を加えて、「特別バージョン」として新作的な扱いでオンエアしたのだ。「もう一つの第1章」はその「違い」がマグネットとなって20%近い視聴率を獲得したという。
さて映画の出資、配給を担う総本山の東宝は凄まじいプロモーション活動を展開している。その壮大な仕掛けを手がけた映像本部宣伝部プロデューサーの大垣敦生氏は当時の意気込みをこう語る。「日本映画はハリウッドに比べると、ちょっと低く見られているところがありました。私はこの映画でハリウッド映画、例えば『パイレーツ・オブ・カリビアン』とか、超大作にも負けないぐらいのプロモーションを構築しようとしました」。
そしてなされたのが巨大ロボットの具現化であり、ルーヴル美術館「モナリザの間」での会見であり、万博「太陽の塔」でのイベントであった。どれもスケールの大きさがけた外れで、その弾け方は尋常ではない。
太陽の塔を「ともだちの塔」に変えたら
六本木ヒルズアリーナで行われた第1章の完成披露会見でお目見えした高さ9メートルの巨大ロボットはバルーンでできているのだが、そのコストはなんと4000万円もかかっている。大垣氏によるとこれはケンヂが対決する悪の親玉キャラなので、どうしても作りたかったという。だが、使い回しのないわずか1日だけのプロモーションのためにこれほどまでのコストをかけるこだわりはスゴイの一語につきる。
また映画にハクをつけ、外国人にも見てもらう仕掛けとしてルーヴル美術館「モナリザの間」で主演者である唐沢、常盤両氏の会見を行っている。なぜフランスか、なぜルーヴルかといえば、「特にフランスではオタク文化が盛んで、『20世紀少年』も非常にファンが多いということ。ルーヴルの学芸員も日本の漫画文化への理解が非常に高かったこと」を大垣氏は挙げている。
そしてなんといってもこの巨大で荒唐無稽な映画のプロモーションの象徴として特筆されるのが太陽の塔の前で行われたイベントである。大垣氏によれば、「ただ太陽の塔の前で何かイベントをするだけでは、普通の公園なので面白くない。これを本当に『ともだちの塔』に変えたら」と考え、権利をお持ちの岡本太郎氏のご遺族の方にお願いしたところ即答で「いいですよ」と言っていただいたそうである。これはほとんど建設工事で、足場を組み、約1週間の日数をかけてようやくあの不気味な「ともだちの塔」を完成させたのだ。だが華やかな花火のイベントも1日だけで、そのために8000万円のコストをかけたという。
荒唐無稽な遊び心と壮大な仕掛け。そしてそれを裏打ちする組織と資金。この映画の成功は、それらの重合によって大爆発し、天を突くように隆起した巨大火山に喩えることができよう。
プレジデントロイター
この考察は、おもしろい。
TREX 、ipodと、車のハードディスクにも入っている・・
ほんと、マイナーだけど、とっても、よかった。
テレビで、再度みて、また、2弾も見た!
「20世紀少年」 来週、最終章も、見たい!!
それと、マークボランって、ジョニー・デップに、似ていない!!??
