なぜ、「売れない店」ほどますます売れなくなってしまうのか?
セブン&アイ 鈴木敏文―不況を楽しむ5つの「発想法」「仕事術」
プレジデント 2009年1.12号
「人は得られるはずの100の利得より、実際に失う100の損失のほうを2倍大きく感じてしまう」ことが実証されている。
ジャーナリスト 勝見 明=文 大杉和弘=撮影
「個人の需要が落ちても人間の心理に訴えれば、必ず売れる」――景気が後退し、ものが売れない時代に入ると、その発言ににわかに注目が集まるのが国内最大の流通企業グループ、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼CEOだ。
「商売は心理や感情で動く」
「消費の飽和時代には、欲しい商品を積極的に探し出す“目的買い”より、店頭で商品を見て、これなら買おうという心理が働き、手が伸びる“衝動買い”が主流になる」
「不景気の時代に突入し、財布のヒモが固くなればなるほど、顧客の心理により強く訴えなければならない」
……などなど、鈴木流経営の真髄は独自の心理学経営にある。その心理学経営はまた、人の働き方についても、鋭い切り口を見せる。不況に入ると人はとかく守りに転じがちだ。しかし、守りに入れば入るほど、売り上げが落ちる悪循環に陥る。
時間の使い方にしてもそうだ。人間、余裕がなくなると、今の仕事の仕方を変えられないまま、根本的な問題を解決できず、目先の課題に忙殺される悪循環にはまっていく。
このように、顧客に商品を買ってもらうには、相手の心理をしっかりつかまなければならない。その一方で、自分自身の仕事の仕方を変えるには、陥りがちな心理から脱却しなければならない。
不況の時代、どんな売り方、働き方が求められているのか。ここで心理学経営の第一人者に5つの質問をぶつけてみよう。その答えを見れば、解なき時代に一筋の光明が差すことだろう。
2008年8月、傘下のイトーヨーカ堂が新規に業態開発した食料品中心のディスカウントストア「ザ・プライス」(東京・西新井店、埼玉・川口店の2店舗)が開業以来、売り上げ目標の2割増と快進撃を続けている。
価格帯をヨーカ堂より全体平均で1~3割安く設定。生鮮品は市場や産地から直接買い付ける、形は不揃いでも品質は同じ「規格外」も扱うなど仕入れ原価の低減を徹底して追求したのに加え、売り方にも知恵を絞り、工夫を凝らした。
典型が単品量販だ。扱う商品数を半分程度に絞り込んで、売れ筋を大量発注し、単品でケース一面、棚一段にズラリ並べ、量感で訴えるのだ。顧客は思わず手を伸ばす。
「なぜ、手が伸びるのか。陳列量を増やし、フェース(陳列面)を目一杯とることで視覚的なアピール力が高まり、顧客の衝動買いが起きるからです。顧客は他店より安く買えるという自己差別化の欲求と、みんなも買っているから自分も買うという横並びの欲求の両方が働く。大切なのは単品としての表現力です。ザ・プライスの場合、価格の安さを基本に、単品としてのアピール力や表現力を高める工夫をして、顧客の心理を刺激していることが好調に結びついているのです」(鈴木氏)
単品量販はロスの軽減に大きな効果を発揮する。売れ筋を大量発注することで機会ロスを最小化し、陳列方法でアピール力を高めることで売れ残りをなくし、廃棄ロスを最小化する。ロスが減る分、より安い価格設定が可能になる。来店客が増え、売り上げが増加する拡大均衡の好循環に入ることができるのだ。一方、これと対照的なのが、売れない店が陥りがちな縮小均衡のパターンだ。鈴木氏が話す。
「例えば、セブン―イレブンの店舗で、ある商品が棚に2~3個しか置かれていないと、顧客は“あまりもの”と感じ、“選ばない理由”になってしまいます。同じ商品でも10個以上並んでいるとアピール力があり、“選ぶ理由”になって買ってみようという心理が働く。廃棄ロスを恐れて消極的な発注を行うと結局、売れないまま、廃棄ロスと機会ロスの両方が出てしまう。不景気になると売り手はこうした消極的な心理に陥りがちです。
なぜ、廃棄ロスを恐れるのか。廃棄ロスは目に見えます。数字にもすぐ表れる。一方、その商品が十分にあれば得られたはずの利得が得られずに生ずる機会ロスのほうは直接的には見えません。だから、廃棄ロスばかりに目を奪われ、悪循環にはまってしまうのです」
鈴木流経営と同様に、人間の心理を重視する行動経済学という新分野がある。その実験でも、「人は得られるはずの100の利得より、実際に失う100の損失のほうを2倍大きく感じてしまう」ことが実証されている(図参照)。鈴木氏がいうように、実際の損失(廃棄ロス)は目に見えるからだろう。
「では、機会ロスのほうを目に見える形にするにはどうすればいいのか。必要なのは仮説を立てることです。天気予報や地域の行事などの情報から、明日はどんな商品が売れるか、売れ筋について仮説を立て、思い切って多めに発注してみる。その結果を検証し、仮説通りに売れれば、その分、機会ロスが生じなかったことになる。つまり、機会ロスになるはずだった利得が売り上げとして数字になって見える化されるわけです。こうして仮説と検証を習慣づければ、廃棄ロスより機会ロスのほうに目が向くようになり、拡大均衡へ持っていくことができるはずです」(鈴木氏)
仮説と検証を日々実践していけば、得られるはずの利得を数字で実感できるようになる。すると、廃棄ロスより機会ロスのほうを大きく感じるようになり、心理が逆転するというわけだ。
最近、ビジネスを行うための仮説力に注目が集まるが、仮説は何のために立てるのか、本来の目的はあまり理解されていないように見える。仮説とは、機会ロスを顕在化し、ビジネスを拡大均衡へと転じるための方法論であることを再認識すべきだろう。
鈴木敏文
●セブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長兼CEO。1932年、長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現トーハン)入社。63年イトーヨーカ堂入社。73年セブン─イレブン・ジャパンを創設して日本一の小売業に育てる。2003年イトーヨーカ堂およびセブン─イレブン・ジャパン会長兼CEO就任。05年セブン&アイ・ホールディングスを設立し、現職。「商売は心理や感情で動く」・・・・
ぜんぜん、普通ですけど・・・
