月刊チャージャー10月号
【調査】言いたい事を言ってくれ!
業界別覆面座談会 第35回 大工が語る「男の研ぎ方」
匠の技で家を建てる伝統工法の大工さん。新設住宅着工件数は、平成8年に約64万件だったのが平成20年には約31万件と半減以下になってしまっている。切ないほどに元気を失っていく業界で、はたしてどんな思いを抱きながら働いているのだろうか。腕を磨いて道具を研いで、技を振るって生きる男の本音。聞いてみようじゃないですか。
不況のせいで、仕事減ってないですか?
東京都内で同じ工務店の大工として活躍する2人。木造軸組の伝統(在来)工法にこだわる腕のいい職人だ。写真左の「黒大工」はこの道45年のベテランで60歳代。右の「白大工」は30歳代でまさにバリバリ活躍中。
白大工 俺らは親方の請けた仕事をこなす職人だからな。毎日自分の現場で働いてるだけなんで、そんなに実感はないけどね。
黒大工 決まった予算の現場を何日でこなせるかってことだから。ちゃちゃっとやれば実入りはいいけど、手抜き仕事はしたくねえからな。まあ、親方んとこに来るのも最近は予算が少ない仕事が増えて、景気のいい話は聞かねえな。
白大工 俺も近ごろじゃ棟梁を任されることも増えてきたんだけどね。棟梁っていえば聞こえはいいけど、要は雑用係みたいなものなんだよね。やることばっかり多くて、いろんな職人の面倒みなきゃいけないし。
Charger 仕事終わった後で飲みに連れて行くとか?
黒大工 そういうのもあるけどよ、家を建ててる現場にはいろんな職人が入るだろ。作業の進みに合わせて、左官やらクロス屋とかが入って仕事するからね。棟梁はその段取り付けてやんなきゃいけないわけさ。
白大工 クロス屋が入る日に合わせて下地を作ってやって。クロス屋はちょこっと現場に来て、1日2日で仕事終わっちゃうもんな。
黒大工 最初から最後まで現場に張り付いてる大工ってのは、まあ、割りに合わない仕事ってことだよ。
白大工 文句言っててもしょうがないからさ。結局、自分が「いい仕事したな」って自己満足がなきゃやってらんないよ。でも、そうやっていい仕事しようとすると、一つの現場に日にちがかかる。手間を掛けても予算は変わらないから、実入りが減るって悪循環ではあるんだけどね(笑)。
大工になったのはどうして?
黒大工 オレは実家が漁師でよ。中学出て、漁師を継ぐつもりはなかったからやることねえし、手に職つけたほうがいいかなあって思って職業訓練校に行ったんだ。地元で1年ほど修行して、東京に来てから、もう50年近く経っちまったなあ。
白大工 俺の場合は、高校時代に伝統工法で建てられた木造家屋の写真を見て「自分でこんな家を建ててえなぁ」って思ったのがきっかけだな。その写真の家を建てた建築会社に連絡して親方を紹介してもらって、高校卒業してすぐに弟子入りした。
黒大工 この「白大工」ちゃんは、今どきの若いもんには珍しく気合いが入ったいい大工なんだよ。
白大工 ははは、そんなに褒めてもらったら今度ビールでも奢らなきゃ。
Charger 写真で見た家の、どんなところに惹かれたんですか?
白大工 そうだなあ、簡単に言っちゃうと「木のチカラ」だね。在来の伝統工法の家は、梁とか柱を見せるでしょ。大工の仕事が家の顔になるんだよね。そもそも職人になりたいって気持ちはあったし、伝統工法の家を見て「これこそ職人が建てる家だ」って思ったんだよね。どうせ職人になるなら、カッコイイ家を建てたいもんね。
黒大工 大工っても、いろいろあるからな。オレらみたいな在来の伝統工法の大工もいれば、鉄筋コンクリートの型枠だけ作る大工もいるし、2×4の大工もいる。それぞれ専門職だから、オレらは2×4はやらないし、2×4のヤツに伝統工法の家は建てられねえ。
白大工 自分でやったことないからこういう言い方もなんだけど、2×4の家は「プラモデルみたいなもんだ」って知り合いの職人が言ってたよ。工場から運んできた部品を組み立てるだけだからね。「シロウトでも一棟やれば仕事を覚えられる」って言ってたな。
伝統工法で一人前になるのは大変でしょ?
黒大工 大変つってもよぉ、どんな仕事でも一人前になるのは大変だろ。
白大工 俺の場合、修業はまず「研ぎ物」からだったな。自分の道具を買って、研ぐ練習を毎日やってた。最初のうちは、刃物が「刃」にならないんだよ。研ぐ時に手元がぐらつくから、刃先が丸くなって切れ味が悪くなる。
黒大工 オレも、まともに研げるようになるまでには何年もかかったよ。
白大工 まだまだ自分で一人前とは思ってないけど、1年ぐらいでやっと刃物になり始めるんだよね。親方から初めて「お前が墨付け(材料を加工する前に墨で寸法や印を付けること)やってみろ」って言ってもらえた時はうれしかったなあ。
黒大工 いやあ、お前は大したもんなんだ。だって、入って2年くらいで墨付けやったろ、たしか、○○さんちの改修工事でよ。そんなに早く墨付け任される職人なんて、そうはいないぞ。普通は6~7年かかるんじゃねえか。オレの場合は、15歳で大工になって、初めて墨付けしたのは21歳くらいじゃなかったかなあ。やっぱり、白大工ちゃんは自分で調べて弟子入りしてきただけあって、やる気があったんだろうな。
白大工 うは、だから、そんなに褒めるとビールが2本になっちゃうよ(笑)。でもね、棟上(家の骨組みになる材木を組み上げること)で高い柱の上を歩くのは今でもちょっと緊張するんだ。
黒大工 丸い材木の上を、材木担いで歩いたりするからな。命綱なんて付けないし。
白大工 俺はもともと高いところが苦手だからね。弟子入りして2日目には棟上があって、材木担いで梁の上を歩いてたけどさ。仕事じゃなければ全然できない、あんなこと。
黒大工 でもよ、何年経っても緊張するのはいいことじゃねえか。油断すると大けがしかねないからよ。なんにせよ、30超えて、白大工ちゃんもいい大工になったよ。
白大工 いやいや、だから褒めすぎだって……。ま、何ごとも最初の一歩は勇気がいるってことだよね。
いい大工の条件って?
黒大工 そうだねえ、仕事ができるのは当然として、一番大事なのは人柄じゃねえか。うちの場合は設計会社や建築家が間に入ってる仕事が多いから、施主さんと直接やり取りすることは少ないけど、取っつきにくくて付き合いの悪い大工じゃ現場がまとまらねえよ。
白大工 結局、棟梁の一番大事な仕事は、図面を見て完成までのアプローチを考えることなんだよね。見た目をキレイに仕上げることは大事だけど、もっと大事なのは壁土の中に隠れた部分。ちゃんと仕事の流れを作れない大工だと、どうしても仕事が荒れるからね。付き合い悪くて現場がまとまらないと、その「仕事の流れ」も乱れがちになる。
黒大工 うん、大工の仕事で、見えないところは大事だな。たとえば「ほぞ」(材木同士を組み合わせるための突起や穴)切って木を組むときも、俺らの仕事はほぞ穴にほぞを入れるのが大変なくらいキツめに作る。材木ってのは生き物だからよ。緩く作ると、時間が経ってねじれが出るんだ。
白大工 あと、アドリブも大事だね。家の図面に寸法は書いてあっても、納め方(柱の組み合わせや装飾的技法で外見をきれいに仕上げること)は書いてないんだよ。家が建つ土地の条件や施主の希望に合わせて、師匠から受け継いだ「カタチ」に仕上げていくのは、いってみれば大工である俺らのアドリブだからね。
黒大工 注文建築だと、途中であそこに窓を作りたいとか、変更も少なくないしなあ。
白大工 逆に俺らの方から「ここには収納棚があったほうがいいんじゃないですか」とか提案してあげることもある。手間は増えても、施主さんに満足してもらえるいい家が完成したときの満足感が大事。俺らはそのために仕事してるようなもんだから。
黒大工 さあて、じゃあ今日は仕事も終わったし、ちょっと一杯いくか?
白大工 いいねえ。しょうがないから、今日は俺がビール奢るよ。
黒大工 うはははは。ありがとよ。やっぱりなぁ、人ってのは褒めとくほうがいいことあるなあ(笑)。
●2009年9月某日 東京都内の建築現場にて
そうね、明るく生きていくっきゃないねーーー!!!
