商船三井相談役・生田正治 観光立国実現への提言
2009/4/30 Fujisankei business i
■日本の潜在力生かす政策を
観光立国として、日本ほど潜在力に満ちあふれている国はない。美しい自然はもちろん、名所・旧跡などが全国いたるところにある。しかし残念なことに、外国人観光客の数という点でいえば日本は他の観光先進国の後塵(こうじん)を拝しているのが現状だ。
2007年に訪れた外国人観光客の国別ランキングによると1位がフランスの8190万人。以下、スペイン5920万人、米国5600万人、中国5470万人の順。これに対し日本はわずか835万人で、世界28位。最近はその数が増えつつあるとはいえ、フランスの約10分の1にすぎない。このフランスを追い抜くことはそう簡単ではないが、「第二の開国」という意気込みでやれば外国人観光客は必ず増えるはずである。
≪物見遊山の域を出ぬ現状≫
日本の観光の一般的なイメージとして、「富士山」「金閣寺」「芸者さん」などが挙げられる。しかし、これらは「点」でしかない。こうした「点」も、もちろん象徴的で大切だが、本来の「観光」の考え方からすれば、それはあくまでも“物見遊山”の域を出ない。「点」でなく、自然や名所・旧跡、郷土芸術といった文化までもが一体となるような、まさに「面」として確立する「ツーリズム」の概念が、観光立国を目指す日本として必要なのではないか。
観光の振興は、経済の拡大につながる。日本の場合、外国人旅行者のGDP(国内総生産)への貢献度はわずか1.9%だが、観光客が増えればその分、GDPの拡大に寄与し、地方経済の活性化にも結びつく。外国人旅行者が訪れたくなるような魅力を発信できれば、地方にも足を運んでくれるはずだ。
日本が強みを持つ科学、医療、バイオなどは、莫大(ばくだい)な資金を投じて絶えず最先端の技術を生み出し続けなければ競争力を維持できない。これに対し、観光資源はそれほど大きな投資を必要とせず、いわば日本に眠る“埋蔵金”。これを有効に活用しない手はない。
≪1人でも歩ける環境の整備≫
もちろん、そのための準備も欠かせない。日本への外国人観光客は、1位が韓国で260万人、2位が台湾の139万人、3位が中国で94万人(2007年)。圧倒的にアジアからの旅行者が多い。にもかかわらず、果たしてアジアからの旅行者が1人で街を歩ける環境が整っているだろうか。駅の案内板などを英語だけでなく、ハングル語や中国語などアジア諸国の言語で表示するきめ細かいサービスの提供が必要だ。
外国人が1人でも旅行を楽しめるようなインフラ整備も、喫緊の課題だ。さらに、こうしたサービスのほか、外国人旅行者から不評な入国手続きを簡素化したり、交通網の整備、万が一、旅行中に病気やけがをした場合に医療面でサポートできる態勢の構築などに向けて、官民挙げて取り組まなければならない。
交通網の整備では、海外旅行者の利便性を高めるためにも、羽田空港の拡張が必要だ。成田から都心部までのアクセスは非常に悪く、多くの外国人旅行者から不評だ。羽田空港の拡張には大型外航船舶の水路をどう確保するかなどの課題があるが、船舶を横浜港に集中させることができれば、羽田空港の壮大な拡張に向けて大きく前進するはずだ。
こうした巨大プロジェクトは、官が旗振り役となって全体を牽引(けんいん)していかなければならない。しかし、観光には、国土交通省をはじめ、財務省、法務省、環境省など多くの省庁が関わっている。
日本が本気で観光立国を目指すなら、現在の縦割り行政の仕組みを変えなければならない。観光庁に強い権限をもたせるために、観光省への格上げの早急な検討が必要だ。日本をもっと知ってもらう努力を続ければ、20年までに外国人観光客数を年間2000万人に増やすことはさほど難しいことではない。
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【プロフィル】生田正治
いくた・まさはる 慶大経卒、1957年三井船舶(現商船三井)入社。社長、会長を経て2007年から相談役。00~03年経済同友会副代表幹事、03~07年日本郵政公社初代総裁。09年から観光庁有識者委員会(アドバイザリー・ボード)委員。74歳。兵庫県出身。
観光庁ができたけど、やる気がまだまだみえてこないのは、
なんででしょう・・・・
個人観光ビザ解禁で中国人旅行客が日本にもたらす経済効果7月8日、個人観光ビザで入国する中国人観光客を乗せた第1陣が成田空港に到着した。成田空港の第1ターミナルでは全日空機から降り立った18人を中国観光親善大使のハローキティがお出迎え。7人の家族連れもいれば、会社員や大学職員、夏休みに入った子どもや“女性一人旅”などさまざまな姿が見られた。
08年10月に観光庁が発足して以降、一気に中国個人観光ビザが解禁に向けて動き出した。これは中国人が経済力をつけたことの証左でもあり、一定の条件を設けさえすれば日本での失踪懸念がほぼ払拭できることを踏んだものだ。発給は北京、上海、広州の在外公館が管轄する地域在住の個人(*1)がその対象となる。
(*1)個人ビザの発給は世帯に対して行われる。
成田でキティちゃんの熱烈歓迎を受けた個人観光ビザ中国人観光客第1陣
代理申請資格を得た中国の旅行社が年収や犯罪歴の有無などを調べ、「失踪(*2)の恐れのない十分な経済力のある中国人」であると旅行者の身元を担保し、絞り込まれた対象についてさらに在外公館のフィルターをかけ、ビザを発給するしくみだ。年収25万元(1元=約14円)以上という目安があるものの、実際これに満たない場合でも保有資産や社会的地位などから総合的に判断するという。
(*2)「失踪」は「不法滞在」とは異なる。スケジュール通りに帰国しないなどの場合も「失踪」としてカウントされる。
この第1陣では43人(*3)が来日した。「00年に団体ビザを解禁したときは4ヵ月で1000人超が訪日。1ヵ月に換算すると250人ですが、今回は1週間でこの数字に相当する申請がありました」と観光庁長官・本保芳明氏はその手ごたえを語る。
(*3)成田空港39人、関西空港3人、新千歳空港1人。
が、一方で気になるのが新型インフルエンザ。これがなければもっと数字は伸びただろう。第1陣で到着した観光客からはこんな本音も漏れた。
「成田空港に脚を踏み入れたときはやっぱり怖かった。街はマスクをして歩かなくちゃ」
中国では“1000人を超える感染国”に対し、かなり警戒感が持たれている。SARSを経験しただけに新型インフルエンザに対しても日本以上に敏感で、現地では各診療所に衛生局が頻繁に出入りし、対策の万全性を確認するなど厳重な予防措置がとられている。
案の定、“新型”のおかげで、09年4月までは前年比10%以上の伸びを維持していた中国からの訪日客も、5月は約6万人と前年比マイナス18.8%とガクッと落ち込んだ。6月も前年割れするのではないかと見られている。
中国個人観光ビザの解禁により、2009年の訪日客は08年(約100万人)より25%増える見通しだとも言われているが、これはあくまで目標値との見方も出ている。新型インフルエンザの影響は決して小さくはない。
もう1つの逆風、それはエアラインの減便だ。生産拠点と巨大市場を後背地に持つ上海、かつて成田-上海線といえばエアラインにとってドル箱だった。だが、日本人ビジネスマンの搭乗率と中国からの貨物輸出の減少もあり、日本航空では先月から減便措置をとっている。
中国からの観光客が伸びる時期は(1)夏休み、(2)春節、(3)国慶節というのが相場だった。これら時期は日本人駐在員の移動にその家族の帰省も重なるため、中国では航空券の購入も難しく、潜在する訪日客を大きく取りこぼしてきた経緯がある。それだけに惜しい。ビジネス客が減少した分、観光客に座席が回るという考え方もあるが、日本へは陸路で来ることができないだけに、空の便が減るのは手痛い。
今後増えていく「女性客」にビジネスチャンスあり
さて、個人観光ビザ制度が開始されるとどんなメリットがあるのだろうか。
従来、団体旅行では添乗員の影響を大きく受けざるを得なかった。時間管理を行う立場から、すべては効率が優先された。食事もバスが駐車できる飲食店で、買い物も迷子になりにくい商業施設で、というような按配で、決して顧客ニーズに叶うものではなかった。
観光ルートに立地していても中国人観光客と縁のないところはいくらでもあった。また、激安パックツアーの横行は水面下で原価をめぐる攻防をもたらした。
「800~900円で食べ放題を提供する。ツアー客相手だと客単価がとれません」と飲食業に携わるA氏は話す。外食をせざるを得ない外国人を目の前にしながら、利幅の薄い商売しかできないのが現状だったのだ。
が、今回のビザ制度は、中国人観光客の恩恵に浴することがなかったビジネス領域にチャンスをもたらす。日本人ならではのホスピタリティで勝負し、そのリターンにあやかれるのはこれからだとも言えるだろう。
とりわけ、この個人ビザで最も伸びが期待されるのが女性客だ。今回、中国のメディア関係者が最も注目したのも、北京出身の“女性一人旅第1号”だった。「旅行の日程? 決めてないわ、行きたいところいっぱいあるけど……」。聞けば、彼女は相当の親日家。時計はセイコー、携帯から家電までメード・イン・ジャパンで固められているという。
07年、中国人訪日客に女性客が占める割合は50.6%になった。ついに男女逆転現象が起きたのだ。すでに、日本の美容院や美容整形など、新手の分野で消費が動き始めていることからも、ネイルアートや渋谷系カジュアル、スイーツの食べ歩きなど「女性をターゲットにしたビジネス」が今後ますます裾野を広げていくだろう。
「女性同士でも安心して歩け、街もきれいで衛生的。そんな日本だからこそ、ますます“20歳代の独身女性”にはうってつけの旅先なんです」と日本政府観光局(JNTO)海外プロモーション部の薬丸裕氏は話す。
中国客の購買単価はアジアでもダントツ
「欲しいものは何でも買うの!」
第1陣で成田空港に到着した小学2年生の解雅淇ちゃん。うわさに聞きし中国の観光客の購買意欲、当然、ここには「一人っ子」のおねだりも加わるというわけだ。
中国人訪日客のその購買単価だが、欧米、東南アジアを含む15の国と地域の中でもダントツの7万8700円(JNTO訪日外客消費額調査07-08年)。さらに、観光客に限定すると1回の旅行で11万6568円も散財する計算になる。これは、ほぼツアー代金(6000~1万元、1元=約14円)に相当する消費だ。
中国人の買い物場所といえば、過密日程からようやく解放される空港の免税店というのが定番だった。が、今後は百貨店(免税で買い物ができる)やその他小売業態でも中国人の“ドカ買い”が見られるようになるだろう。「中国個人観光ビザの解禁による経済効果は未知数」(同)だというが、縮小に向かう日本市場にとっては歓迎しない手はない。
さて、取材陣に取り囲まれ、質問が飛び交う中、観光客の1人がちょっと不快そうにこう言った。
「年収の証明書、不動産の証明書、クルマの証明書まで提出したんです。これさえなければ、もっとたくさんの中国人が来るのに」
そこには「たった5日間の日程にもかかわらず、こんな面倒なことをしなければならないのか」という反問も織り込まれているように聞こえた。手続きをもっと簡素化して欲しいというのが彼らの偽らざる気持ちなのだ。
メディアが伝える日本ではない「本当の日本」を知る効果も
日本では1960年代に観光旅行の歴史が始まった。パッケージツアーとして旅行が大衆化したのは70年代。インターネットの発達という要素もあり完全には一致しないものの、「中国の今」はここに重なる。
中国の08年の海外旅行人口は4500万人。うち7割を占めるのが香港とマカオ。これを除けば、昨年1500万人が海外旅行をした計算になる。この“アジア第2位の観光客送り出し国”をめぐって、中国では各国がプロモーションに躍起になっている。
「東南アジアはしょっちゅう旅行してきたが、日本は最後に訪れた観光地です」(第1陣で訪日した馬浚誠さん)、そんな発言が裏付けるように、国際間競争に勝ち抜く意味でも日本にはよりスピーディな対応が求められているのだ。
一度、団体旅行で訪日したことのある女性は、個人ビザ解禁にこんな期待感を示した。
「本当の日本人の姿や生活を見てみたいんです」
メディアが伝える日本が日本なのではない。この国を自分で歩き、自分の眼で見る。個人ビザの解禁がもたらすもの、それは経済効果のみならず、「新たな日本観」であることもぜひこの原稿に付け加えておきたい。
中国、昨年1500万人が海外旅行したのかーーー
これからは、中国と観光が、キーワードですかねーーー
