東京・大阪の連合軍が霞が関に「乱」を仕掛ける 橋下 徹/猪瀬直樹
中央公論2月 2日
国の出先機関は地方に監視されるべきだ
橋下 猪瀬さんが委員の一人を務める政府の地方分権改革推進委員会(以下、分権委)が、国の出先機関の統廃合を目玉に据えた第二次勧告を決定し、昨年十二月八日に麻生太郎首相に提出された。
僕は非常に注目していました。なんといっても国の出先機関の統廃合に向けた方向付けをしたことがよかったと思います。国土交通省地方整備局、北海道開発局、農林水産省地方農政局など地方にある六機関を統廃合して「地方振興局」と「地方工務局」に再編する。そして、これが重要なんですが、地元自治体と調整するための仕組みとして都道府県の首長らで構成する「協議会」を設けて出先機関の仕事内容をチェックすることを明記した。
これまで国の出先機関は地方に事務所を置きながら、国の機関であったために地方議会が監視できる対象でなかったのはもちろんのこと、国会で取り上げられることもなかった。非常に巨大なブラックボックスです。地方が介入できるようになれば画期的です。
猪瀬 出先機関といっても規模は巨大です。国家公務員三三万人のうち実に二一万人が出先機関の職員です。先日、分権委で明らかにしたのですが、東北地方の中心の仙台市に二〇階建ての合同庁舎を建てようとしていた。一八階建ての宮城県庁の真正面にね。二一万人のためのハコづくりに毎年一〇〇〇億円の無駄遣いです。
今回、議論の対象としたのは海上保安庁や気象庁や税務署など一〇万人余を除く一五系統の一〇万人です。それだけで予算額は一〇兆円にものぼりますからね。
僕たちが提案した「協議会」は、単なる監視組織というだけにとどまりません。出先機関が行う次年度の事業計画、予算案などについても「協議会に付議する」。それについて、「協議会及びその構成員」が意見を提出することができる。要するに、協議会の中で、たとえば橋下知事が孤立無援の状態に陥ったとしても(笑)、主張したいことがある場合は意見を提出でき、「出先機関はこれを尊重するものとする」という文言も入れた。地方の首長などが「国の言うことだから従わなくては」などと思わないように。
橋下 この「協議会」は嬉しいですね。国の出先機関を首長のコントロール下に置くも同然ですからね。しかも、ほかの府県などとも連携して広域連合的に議論する場となるわけだから。民意を背景にした僕たちが入ることで、無駄な公共事業などは排除することができると思います。
あの勧告は麻生首相に提出する直前の委員会で大どんでん返しがあったんでしたね。

猪瀬 そうなんです。出先機関が管理している一級河川や国道などを地方に権限移譲していけば当然、仕事がなくなるから職員もいらなくなる。それで一〇万人のうち三万五〇〇〇人の削減を打ち出した。
これは実は関係省庁の反発が強いから、うまくやらないとつぶされてしまう危険があった。だから、首相への提出を数時間後に控えた当日の委員会で、丹羽宇一郎委員長(伊藤忠商事会長)が委員長提案として土壇場で盛り込んだ。霞が関の役人が組織する委員会事務局は「正確な試算は不可能だ」と抵抗していたが、きちんとした試算を、僕が発破をかけてつくらせた。
というのも、出先機関の仕事について今回の勧告ですべて徹底的に見直すことはできなかったからです。地方への権限移譲が進まないままであれば、新設する「地方振興局」「地方工務局」が巨大組織となって焼け太りする危険も残る。それで三万五〇〇〇人の削減を目指すと数値目標を盛り込んだ。これによって、権限移譲も進めざるをえなくなる。
橋下 「出先機関の仕事のスリム化に切り込んでない」「看板のかけかえにすぎない」といった新聞報道もありましたが、いっぺんに出先機関が全部なくなるはずがない。僕とするとまず、組織をチェックできる「協議会」ができるだけでありがたい。最初の破壊のための第一波。十分評価できると思いました。
猪瀬 この勧告についても自民党内のいわゆる族議員からは袋叩きの目にあっています。勧告提出後、丹羽委員長が自民党議員がつくる「地方分権改革推進特命委員会」に呼ばれて説明をした際、「国と地方の役割分担で、二重行政など一つもない」「分権委は廃止すべき」「この勧告を破棄すべく行動する」「猪瀬氏は本職の東京都副知事に専念すべき」と非難の声があがった。散々です。(笑)
行政を変えようと思っても一足飛びにはいきません。ステップバイステップです。
分権委を支えようとしない地方
橋下 今回、分権委が一連の議論を重ねる過程で、僕が非常にショックだったのは地方に分権委を支えようとする気構え、気概がなかったことです。
というのは、地方への権限移譲を進めて、出先機関のスリム化を図ることを提案した第一次勧告に対し、国交省が地方への権限委譲の対象として示してきた国道は、計一一〇路線、約三八〇〇キロメートルだけ。国が管理する直轄国道全体の約一八%のみでした。
猪瀬 河川もそう。分権委は第一次勧告で一級河川一〇九水系中、六五水系の移譲を求めていましたが、国交省側から権限委譲の対象として提示されたのは二〇水系のみ。全国の一級河川の国直轄管理区間の七%にすぎません。そのほかの役所からは「ゼロ回答」でしたからね。
橋下 この積み上げの際、国交省は各都道府県と個別に協議して都道府県が「受けられる」といった分のみを回答しているわけですから、都道府県が「受けない」といえば当然、積み上がらない。大阪府も国交省との個別協議があったのですが、僕は国交省はうまいことやったなあと思います。「財源がない」「職員が足りない」、だから「権限だけ下りてくると困りますから受けられませんね」と地方の通常の事務方はいうでしょうからね。
僕は、政治的なメッセージで民意をひきつけることが重要だから、ともかく「受ける」と言ってくれと。その後で人員と財源が来なければ、大騒ぎすればいいといったんです。近畿圏のほかの知事にも、「『受ける』といいましょう」と呼びかけましたが……。
猪瀬 そういうのがリーダーシップだと思いますよ。どうしたって役人は頭数と財源から話を始めますから。国交省が提示した以外にも「受ける」といったのは、東京都と大阪府など少数の県に留まっている。
まあ、霞が関はすごいですよ。都道府県で道路や河川などの管理を行う土木部長、建設部長の大半が国交省からの出向者で占められているという現実もあるんです。
橋下 なるほど。国交省内の上司と部下との話し合いで積み上がった数字が一八%だったわけですね。国と県が協議したというのは形だけですね。どうりで小規模だと思いました。
猪瀬 そうそう。国交省が積極的に地方に移譲する気はないわけだし、知事だって、庁内で最も土木部門に精通した官僚から「県で受けたら大変なことになります」なんて助言されれば、「受けられないな」と思うよね。
橋下 あの個別協議の積み上げの際に、大きく欠落していると思ったのは、「各道府県で受けられない」といっても、だからといって「国にお願いする」とは誰もいってないということ。道府県で受けられなくても、いくつかの自治体で広域的に受けることは可能なはずです。
でも国は、道府県が「受けられない」といっている。それじゃ、「国でやります」といって出先機関の存続にこぎつけようとする。そんな解釈は“飛躍”といってもいい。
猪瀬 そういうメッセージを首長からもっと発してもらいたいんだよなあ。
国との戦いに立ちふさがる地方
橋下 分権委の土壇場のどんでん返しほど派手じゃないですが、僕も行政を変えるのは本当に難しいなと思ったエピソードがあるんです。国交省近畿地方整備局が大戸川ダム建設を盛り込んだ琵琶湖・淀川水系の河川整備計画案について、三重、滋賀、京都、大阪の四府県知事が共同で白紙撤回を突きつける意見集約の過程で、やはり府県の事務方が立ちふさがった。
簡単に説明しますと、>このダムは二〇〇五年に国交省地方整備局が一旦、建設中止を表明したものの、〇七年に再び計画が復活したという事業です。地元負担は、大阪府二三〇億円、京都府一三五億円、滋賀県一四億円。
猪瀬 財源不足に苦しむ自治体にとっては莫大な支出ですね。
橋下 そうなのです。それで、僕たち知事の間では、大戸川ダムについては「基本的に整備計画に位置づけない」ということで意見が一致していたんですが、この共同意見を発表する四日前に府の事務方からあがってきた案では「整備計画に位置づける」になっていた。
あわてて、ほかの知事に直接電話をしてみたら、各府県の事務方の方針とは違う。それで、土壇場の三日前に案を変えて、「位置づけない」として発表した。
行政との攻防ってすごいものがありますよ。事務方には事務方の真摯な思いがあることは分かるのですが。
猪瀬 地方の役人って、どうしても国の意見に従わなければいけないと思っている節がある。これまではそうやって補助金をもらって生きていれば大過なくすごせたから。
それはともかくとして、あの共同意見の表明はよかったですよ。国交省地方整備局の整備計画は、作成する際に知事の意見聴取を義務付けられてはいるけれど、法的拘束力はないんですよね。とはいえ、関係する知事が全員で共同歩調をとって「NO」を突きつけたら、国が知事の意見を無視することは不可能でしょう。
この“淀川モデル”が先ほど説明した分権委の提案する「協議会」に生かされている。広域の自治体でまとまることで、こうやって増長する霞が関と戦ってほしい。そうすれば地方分権は着実に進んでいくのだから。「協議会」を足場にすれば、かなりのことができるはずです。僕はそう、確信しているのです。
橋下 はい。僕もそう思います。
国に支払う直轄負担金のヤミ

猪瀬 僕は、以前から>国が国道や河川整備などの直轄事業を実施した際、事業費の三分の一の支払いを地方に義務づける「直轄負担金」、いわゆる上納金については折に触れ「問題がある」と指摘してきました。地方に、ときに数百億円も負担させておきながら明細もない。分権委でも指摘していたんだけれど、その矢先、橋下さんが「払う必要がないものは払わない」と主張した。
橋下 まず、府内には国所管の独立行政法人などが八四団体もあって、この団体への補助金や負担金が約二一七億円にものぼります。〇九年度から原則的に予算計上しない方針を示しました。また、直轄事業負担金は、〇九年度の支払い見込み額が四二五億円と莫大で、優先度が低い事業は予算化しないと決めました。
もちろん、国交省地方整備局と大阪府が合意した上で行われている直轄事業は数多くあります。「ここに道路が必要です」と陳情してつくってもらっているものも少なくない。でも、すべて支払えるほどの財源が今の府にはありません。
大阪は大赤字の自治体です。収支見通しでは、府民が一一〇〇億円の収支改善に取り組んだとしても、税収減で歳出削減効果が吹き飛んでしまうという試算もある。だから職員の給与もカットした。国家公務員を一〇〇とした場合のラスパイレス指数は九〇程度と全国最低です。命を張っている警察官の給与もカットした。全国初で退職金カットにも踏み込んだ。私学助成の削減も進めましたし、ついに医療費助成にすら手をつけなならん。府民サービスすら切るという切迫した状況だというのに、国の外郭団体の負担金分だけが固定費として手付かずなのはおかしいですよ。そして、国のつくる道路だけがぴかぴかで、ペースを落とすことなく建設されていくのも不自然です。
猪瀬 民間なら大企業と下請けで激しい交渉になりますよね。
橋下 部長たちからは「法律上義務付けられている。どうすんだ」といわれますが、ない袖は振れない。府の幹部は国との調整で真っ青ですが、「後は頼む」と(笑)。最後まで調整できなければ、僕が直接交渉する覚悟です。
猪瀬 「大阪は財政改革やってんだ」「カネねーんだっ」と明確なメッセージを発しておくことは重要ですよ。
武器は中小企業のオヤジ感覚
橋下 繰り返しですが、役所を動かすのってエネルギーいりますよね。霞が関だけじゃなくて、大阪府の中も、ものすごい“縦割り”です。たとえば、部局は部局の都合だけ考えている。府全体の財政状況を考えたら「ありえないだろっ」っていう予算を要求してきますからね。要するに全体を俯瞰する人がほとんどいないんです。だから、もうあらゆる予算をすべて自分でチェックしている。
猪瀬 組織が巨大になればなるほど、そういうガバナンスがきかなくなる。先日も、上野にある築三三年の都立美術館の改修に一五〇億円かかるといわれた。亡くなった黒川紀章さんが設計したものすごく豪華な国立新美術館(六本木)が新築で三〇〇億円なのに、なんで改修で一五〇億円かと。見に行ったら、何のことはない。タイルと土管を換えて、バリアフリーにするだけなら一割で済む。そんなもんですよ。
橋下 猪瀬さん、自分で見に行くところがすごいですよね。僕もおかしいなと思うと全部、自分で見に行きます。
猪瀬 相場観ってありますからね。
橋下 でも、これじゃ中小企業のオヤジ(社長)ですよ(笑)。本来は知事や副知事の仕事じゃあないでしょう。
猪瀬 でも、まさに、その零細企業経営者の生活感覚こそが今、役所に必要なんですよ。我われ、作家であり、弁護士であって……。
橋下 そう。だから、せこい。(笑)
猪瀬 本当に市場に晒されて生きてきたから役人とは感覚が違うし、目配りもきく。民間の社員といっても大企業になってしまうと役人と大差ない体質になる。本当に市場に晒されているのって中小零細だけ。丁度、我われのように一人で戦ってきた人だけですよ。
橋下 自分一人きりでは、すべてをチェックできません。補佐する人を民間から二〇人くらい採りたいです。
猪瀬 東京都は財政破綻した北海道夕張市に若手職員二人を応援に出したんだけど、これがよかった。素晴らしいコスト感覚を身につけて都庁を刺激してくれる。自分の力で行政が動いて地域に貢献することを実感するせいか、俄然、やる気も出たようです。大阪府も研修とかで応援に行かせたら?
橋下 それは、いいですね。ただ、部長とかはみぃんな、「(人手が)足りない」「足りない」いうてるんですー。
猪瀬 みーんなそういうけど大丈夫、絶対、あまってるって。(笑)
橋下 ところで、分権委の提案した「協議会」はいつできるんですか。
猪瀬 麻生政権の支持率とも関係するんだ。地方分権は麻生首相の主張でもあるわけだから、これをやり抜いたら支持率上がると思うけれど。まあ、麻生首相が諦めても、二〇〇時間詰めた議論をして作成した勧告はあるわけだから。影響力は残るはずです。
橋下 麻生首相が分権への道筋を示してくれれば、こちらとしても全力でお支えしますよ。自民党や霞が関をまとめ切れていない、支持率が下がったといった一連の報道も、霞が関の巧みなリークで行われている気がしてなりません。首相の足をひっぱっても国民はハッピーになれない。喜ぶのは霞が関だけ。残るのも霞が関だけ。
猪瀬 東京と大阪って大都市だから、ほかの地域より明確なメッセージを国に対して発することができますよね。だから、まずは我われだけでもそういう覚悟で発信していきましょう。そうやって霞が関を挟み撃ちにする。そうすればこの国の姿も徐々に変わり始めるに違いないのです。
何が悪いかは、なんだか解っているんだよねーーー!!!
橋下 徹さん、猪瀬直樹さんは、大阪知事と東京都副知事ですね。
頑張ってほしいですねーー!!
橋下流・歳出抑制さっそく効果!11年ぶり黒字へ
大阪府の橋下知事
◆ 2009年度予算案 ◆
大阪府の橋下徹知事は10日、府の09年度一般会計の当初予算案が、11年ぶりに黒字に転じる見通しになったことを明らかにした。08年度予算で、人件費の削減や建設費などの歳出抑制に踏み切ったことなどから、予算の執行段階で剰余金が数百億円生じ、財源に充てられることになった。09年度予算の査定段階では最大450億円の財源不足が生じる恐れがあったが橋下知事は記者団に「財政再建へかじを切ることができた」と述べた。
大阪府の当初予算案は99年度以降、赤字続き。借金返済のため積み立てている減債基金からの借り入れなどで赤字を圧縮してきたが、橋下知事はこうした手法からの決別を宣言。08年度も50億円の赤字予算だったが、解消できる見通しという。
[ 2009年2月11日 スポニチ大阪 ]
