10月27日、ついに株価が7162円となり、バブル崩壊以後の最安値、7607円を大きく下回った。一時は7000円を割り込んだ。30日には9000円台を回復したものの、このところ株価は乱高下を続けていて、一体いつ底を打つのかという声が出ている。
しかも、円は一時1ドル90円台まで上がり、ユーロも一時113円台と、円が独歩高になっており、世界中が不安におののいている。
手を打つのが遅れて金融恐慌に
僕はこれは一種の“ねだり株安”だと思う。
当座しのぎの対策に、「そんなもんじゃだめだ、違うだろう、違うだろう」と言っている株安だ。もっと思い切った対策が出るまでは、マーケットは「違うだろう」と言い続ける。
例えばアメリカにしても対応が遅すぎる。3月に証券会社大手のベアー・スターンズの経営が悪化し、JPモルガンに買収された。あの時点で金融恐慌は必至だと見るべきだった。
それが結局、ファニーメイやフレディマックが倒産し、リーマン・ブラザーズが倒産し、AIGが倒産に瀕するところまで、アメリカは本腰を入れなかった。これは非常に対応が遅かった。
日本のバブル崩壊時に比べれば、一見、アメリカは非常に措置が早かったように見える。日本の場合、不良債権処理に公的資金を投入するまで10年以上かかった。アメリカは、1年数カ月で公的資金を投入したので、早いとは思う。ただ、日本のバブルがはじけた状況と、今のアメリカの状況はまったく違う。
あまりにも複雑な金融派生商品
今、読者が新聞など読むと、わからない言葉が氾濫していると思う。例えば、「CDO(債務担保証券:Collateralized Debt Obligation)」とか「レバレッジ(てこの原理=手持ちの自己資金の何倍もの大きな金額の取引をすること)」など。
少なくとも日本のバブルがはじけたときは、こういう言葉は目にしなかった。これは金融業界が、あるいは金融のノウハウが、異常に発達しすぎたということだ。僕は、技術が発達しすぎて、人間がその技術に追いつけなくなっているのだと思う。
さらには「CDS(Credit Default Swap)」というデリバティブ(金融派生商品)がある。これは説明すらうまくできない。与謝野馨経済財政担当大臣が、「CDS」とは何かということについて、うまく説明してくれた。それを僕なりに解釈して説明しよう。
4人でマージャンをする。例えば、与謝野馨さんの後ろにAさんが来て、「僕は与謝野につく」と言って、なにがしかの金を与謝野さんに出す。与謝野さんが勝てばいいが、負けて損をしたら、Aさんも損をする。するとAさんは別の人Bさんに与謝野さんが負けたときの保障をしてもらうためにいくらか払っておく。Bさんは与謝野さんが負けたときにその保障をしなければならないので、今度は別のCさんに、その保障をしてもらうためにいくらかお金を払う。さらにそえれぞれの後ろに10人・50人・100人と何重にもなって、たくさんの人が別の人の保障をするために関わる。
たくさんの人が関わることで、一見、損失リスクは分散して、いいように思える。だが、さらにこれにレバレッジがかかり巨額なお金が保障されることになってしまった。また、あまりに複雑に保障しあっているものだから、「だれが負けたときに、どのお金をだれが保証するか」がわからなくなってしまったのが今の状態なのだ。この参加者のうち、だれかがお金を払えないとなると、連鎖的に別の人も払えなくなる。これが企業間で起こると連鎖倒産になる。こうなるとどうしようもない。
CDSの市場は6000兆円とも言われている。日本のGDPは約560兆円。世界中のGDPを合計しても5000兆円と言われている。ところがCDSだけで6000兆。これはとんでもない話だ。でかい金がやりとりされているが、本当は金がない。からっぽの金でやりとりされている。
金融工学の専門家たちは現実が見えていなかった?
CDSとレバレッジが組み合わさった例を目の当たりにして、みんなが怖いと思ったのは、AIGの件だ。
AIGは、サブプライムローン関連の金融商品を大量に持っていただけでなく、CDSもたくさん持っていた。いろんな会社のCDSをたくさん持っている。
そのため、AIGがもしも倒産したら無数の会社が倒産してしまう危険性があった。だからAIGは救済された。連鎖倒産を食い止めるために救済されたのだ。
どんどん進んだ金融の技術を金融工学という。数学の専門家などが、金融取引を自動化して、いろいろな金融商品を高度に組み合わせたり、レバレッジなどを考えついたりした。
ところが金融工学の専門家たちは、実は現実がまったく見えていない。戦後アメリカの住宅は一貫して上がってきた。一貫して上がるものだという前提に立っている。これが下がることがあるかもしれないということは、織り込まれていない。
だが、それがどーんと下がったわけだ。金融工学は数字を無数に操って、緻密な計算をしているが、そういう肝心な現実がぽこっと抜けている。そこで現実に何かが起こったときには、手に負えない。
危うい、もっと言えば、緻密だけれど現実から遊離している、そういう金融工学の上に成り立っていた金融経済が破綻した。
例えば、ものを作って売る場合には、ある程度売れてくると、これ以上売ると在庫が増えるなという見当がつく。それはなぜかというと、肌で感じるからだ。ものを売るというのは実体があり、現実的なものだ。現実だから、これはちょっと在庫がたまるぞというところで、生産を落とすということができる。
ところが金融工学というのは、人間の実感、あるいは現実と無縁に進んだ。それがしかも、非常に高度に進んで、計算がつかなくなった。これが今の現実だ。
発表される麻生首相の追加経済対策は
現状を変えられるのか?
こうなると、小手先細工では間に合わない。しかも対応が遅れた。
首相が30日に追加経済対策を発表するが、これも遅れに遅れている。今の状況の中でどういうふうに良くするか考えているが、そもそも状況自身が間違っている。技術が進み過ぎて、人間の想像力で処理ができなくなったにもかかわらず、処理ができる前提でやっても追いつかない。
ここは、今週、来週にでもG7(主要7カ国)の財務相・中央銀行総裁や、あるいはトップが集まって、状況自身を変えることを考えなければならない。
例えば思い切って、一時的に自由主義経済をやめる。社会民主主義的な考えを一時的に取り入れる。政府が市場に思い切って介入する。それをやらないと、自由主義経済の範囲内で、いろいろ直そうとしても追いつかない。それをみんな分かってきている。
株式の売買も、極端に言うと、いくら以上売買しないとか、銀行の証券を買い取るとか、銀行に資金注入するとかなど、そういう自由主義経済の枠を超えた、しかも世界的規模での措置をとらないと収まらない。麻生首相の発表はこれにこたえることができるだろうか。
僕は26日の「サンデープロジェクト」(テレビ朝日)で、与謝野さんに、今自民党と民主党が国会でくだらない争いをしながら対策なんか考えてもだめだと言った。
自民党の枠組とか、民主党の枠組とかでケリがつく問題ではない。日本の枠組でもケリがつく問題ではない。世界中が集まって、今の枠組を根底から変えなければならない。自民党と民主党は、ただちに休戦協定を結んで、どうすればいいか懸命に考えるべきだ。
ところが麻生さんは休戦協定を結ぶなどと言いそうにないし、あるいは小沢さんも絶対言うことを聞かないだろう。
しかも今見ていると、解散が自民党にとって有利か、民主党にとって有利か、お互いの党の有利不利で解散しようとしている。違うんだと言いたい。
本当に今の状況に効果がある方策は、自民党が自民党であることを捨て、民主党が民主党であることを捨て、日本のこと、あるいは世界のことを考えることだ。
アメリカで言えば、共和党が共和党であることを捨て、民主党が民主党であることを捨てる。
アメリカも日本も政党の枠を超えて協調すべき
ちょうど大統領選挙が終わった後、G8が行われる。大統領選挙ではおそらくオバマ氏が勝つだろう。今の大統領は共和党だけれど、来年の1月からは民主党になる。共和党も民主党も超えて、世界のためにこうするという方策を出さなければ、収まらない。
いわんや、自民党がどうの、民主党がどうの言っている時期ではない。こんな時期に解散など無責任極まりない。だから休戦協定を結んで、少なくとも目先が見えるまで、協調すべきだ。
ロシアも産油国もアジアもヨーロッパもアメリカも、様々な国が自分たちの国益を一度取っ払って、どうすればいいかを考える。そのときにいいアイデアが出てくると思う。
今はそこまで至っていない。そのことにみんなが不満を持って、株式市場が乱高下を続けているのだと思う。
<今週の採点>
麻生首相、小沢代表とも、不合格点。
田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年滋賀県生まれ。早大文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、フリーランスのジャーナリストとして独立。1987年から「朝まで生テレビ!」、1989年からスタートした「サンデープロジェクト」のキャスターを務める。新しいスタイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたとして、1998年、ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞。また、オピニオン誌「オフレコ!」を責任編集。2002年4月に母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講。塾頭として未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたっている。最新刊に「ズバリ!先読み 日本経済」(アスコム)がある。 NikkeiBP2008.10.30
どうなるかねぇー!!
