中央公論 9月号 8月9日(月)
自民党は政権の座から落ちた途端に空中分解する。政治思想を同じくする人間が集まっているのではなく、権力があるからまとまっているにすぎないからだ。自民党を解体し、そこで一から新しい二大政党をつくり上げていくのが私の最終目標だ。
冷戦後十余年の実態
今回の参議院選挙で民主党は票を伸ばし、自民党を上回る議席を獲得した。これは何を意味するのか。いわゆる「戦後体制」がもう機能しなくなったということだ。小泉首相がいくら手踊りしようが、この流れが変わらないことは明らかだ。
戦後保守政治の哲学といわれる吉田ドクトリンは、長い間、自民党のみならず、官僚、企業、さらには一般社会にまで浸透し、日本人全体の考え方になっていた。具体的にいうと、日本はアメリカの占領体制に身をゆだね、難しい政治的課題はすべてアメリカに任せて、自分たちは国内の経済的な復興と繁栄に専念してきた。この吉田ドクトリンという政治哲学のもとで、半世紀以上が過ぎた。
政治的決断をすべてアメリカにゆだねてしまったがために、戦後体制の中で、日本には本当の意味での「政治」が存在しなかった。金儲けに専念し、儲けたものを国民にいかに配分するかが日本の戦後政治のすべてだった。だから徴税権と、税を配分する権限を持つ官僚の支配が強まるのは必然だった。ある意味では、戦前以上に強力に、官僚支配は日本国中津々浦々にまで及んだ。
実質的な支配権を官僚が握り、政治家は富の配分によって自分の立場を守ろうとする。業界はその体制の中で金儲けを進める。それが政官業癒着の構造だ。政治家は官僚の支配権とそれを維持するための仕組みを守ってやり、官僚はそのお返しとして、政治家や業界にサービスする。そうした持ちつ持たれつの関係でずっとやってきた。
高度経済成長が続く間は、その状態でも不都合はなかった。何か問題が生じたとき、特に対策を講じなくても、右肩上がりの経済のおかげで、まるで問題が解決されたかのように映ったからだ。大事な政治的判断を下す必要がないため、政治家は、地元と官僚と業界の三者の間のメッセンジャーボーイ役を務めていればよかった。
この構図を支えていたのは世界的な冷戦構造だった。日本は共産主義に対する防波堤としての役割を期待されていたから、他の責務は免除されてきた。しかし冷戦が終わり、共産主義の防波堤が不要になると、国際社会の平和と安定のために他国が膨大なコストを払ってきたにもかかわらず、日本はそれを払わず、経済的利益を享受する一方だったといって批判されはじめた。また、共通の敵がなくなった途端、どの国も自国の利益を主張する傾向が強くなり、日本に対しても、もっと国際的役割をシェアしろ、経済システムをオープンにせよ、などと圧力がかかるようになった。
ところが、政治家も官僚も業界も、これまで温室の中でぬくぬくとしてきて、なんら難しい決断をしたことがなかったから、この厳しい現実に直面しても、どうしていいかわからない。それが、冷戦後十余年の実態だ。
小泉首相になって、何かが変わったという人もいるが、実は何も変わっていない。ややこしい問題には手を出したくない、金儲けだけやっていたい、という気持ちに変化はない。
国民は将来に対する不安が大きくなり、政治や官庁、会社に対して不信感を持ちはじめている。なぜならば、一般サラリーマンにとって大きな利権である年功序列と終身雇用が崩れてきたからだ。賃金体系が変わり、リストラされる可能性も出てきて、厳しさがだんだん身に沁みてきている。中小・零細企業の経営者も、業種を問わず商売が厳しくなり、一様に不安になっている。
ただ、日本人は根本的に臆病で、時代の変化に対応する改革を、自分の責任でやることがなかなかできない。困ったことが起きると、お上になんとかしてくれと泣きついたり、親が悪い、社会が悪いと、すぐ他人のせいにしたりする。ずっと過保護できたため、「甘えの構造」から脱却できないのだ。
しかし、これからの日本人は、甘ったれ小僧ではやっていけない。旧自由党以来われわれは、「フリー、フェア、オープン」を新しい日本の三原則に掲げているが、個人の自立が一番の課題だ。今の日本社会にフリーはない。規制でがんじがらめにされ、商品一つ出すのにも役所の判子がいる。これもよくいっていることだが、米国のグランド・キャニオンには柵がない。断崖から落ちないように注意するのは自分の責任であり、もし落ちて死んだとしても、他人に責任を転嫁してはいけないというのが、社会の常識になっている。日本人も、早くそうした自立した国民になるべきだ。
企業も都合のいいときは役所に頼るくせに、都合が悪くなると規制を撤廃しろとか官僚統制はいけないなどという。大企業はほとんどそういう体質になっているし、また日本社会はそうでないとやっていけない仕組みになっている。こうした日本人の意識を変えないと、日本は国際社会の荒波に呑み込まれてしまう。
自民党には完全に勝てる
参院選の結果を見てもわかるように、国民は小泉首相にはもうごまかされなくなった。すでに自民党の命運は尽きている。五五年体制を引きずって、いまだに利権漁りをしているだけだ。問題が生じても、どうしていいかわからず、解決を先送りするばかりだから、とうとう化けの皮が剥がれた。
この状況を考えると、もう少し頑張れば、民主党は自民党に完全に勝てると思う。なぜ、今回、民主党は圧勝できなかったか。自民党は何もしなくても選挙運動だけはするが、民主党は現実政治を知らないからだ。別の言い方をすると、本当の戦というものを知らない。だから競り合った時に負ける。しかし、選挙態勢を整えて、早く候補者を決め、どんどん走らせれば絶対に強い。自民党の半分の選挙運動をすれば勝てる。
農村は自民党の牙城だとかいわれてきたが、いまや都会も農村も違いはない。野党がきちんとアプローチしないから、自民党の地盤のようにみえるだけだ。自民党ができるのは、役人を使って業界を締め上げることだけだ。選挙になると、会社の社長や業界団体のトップに「ウチに投票しろ」という。しかし、それはもはや限界にきた。
これからの民主党は、有権者に頼りがいのある党だと思われないといけない。そのためには何よりも、きちんとしたビジョンと主張を示すことが大事だ。
日本を変えないといけないと大多数の人は思っているから、民主党がちゃんとしたシグナルを送れば支持してくれる。それにもかかわらず、年金問題での三党合意で明らかなように、民主党の中にもまだ戦後体制の残滓が見られる。「いずれやる」「前向きに検討する」といった言葉は、官僚、つまり自民党政権のごまかしの常套句であり、「何もしない」という意味なのに、三党合意ではその手にのってしまった。
そういう弱点がまだある。しかし、一度には変わらないが、民主党の中で意識改革は少しずつ進んでいる。しかも、自民党が次々に失点してくれているから、それだけでも民主党は有権者の目にはよく映る。
民主党にはこれまで明確なビジョンがなかったが、旧自由党以来のわれわれの主張も取り入れながら、着実に党の方針がまとまりつつある。だから、次の総選挙までには政策が明確になり、いいシグナルを国民に送れると思う。自己努力を怠らなければ絶対に勝てるはずだ。
仕上げの時期が近づいてきた
日本は管理社会から自立社会へと移行しないといけない。いったん権力が壊れれば、社会は再編成される。もちろん、徳川幕府の崩壊ですぐに明治維新が成し遂げられたわけではないのと同じように、権力が変わればすぐに大変革ができるわけではない。しかし、政治も社会も確実に変わってくる。
日本の社会はコンセンサス社会でできたために、優れたリーダーが育ちにくかった。欧米社会との一番の違いは、日本では、リーダーが馬鹿だということだ。欧米では、ほんの数パーセントのリーダーがものすごく働くし、優秀だ。日産のカルロス・ゴーン氏をみればわかる。朝は七時半頃から働くし、「必ずこの目標を達成する。達成できなければ責任を取る」といい切る。日本人はそれがいえない。「あんな極端なリストラをするのなら俺でもできる」なんて馬鹿なことをいっているだけだ。
私は、政権を変えることで、既存のキャリアの人材を変えたい。社会全体の指導者を入れ替えたいと思っている。今でも、社会を大きく変えないといけないという意識をもっている人間は、少数だが確かに存在している。しかし、多数の既得権者の前で彼らは排除されてしまっている。そして、何の変哲もない、どうでもいい人間がトップになっている。そこを変えれば、「昭和の悲劇」を繰り返さずにすむ。
自民党は政権の座から落ちた途端に空中分解するはずだ。自民党は政治思想を同じくする人間が集まっているのではなく、権力があるからまとまっているにすぎない。自民党を解体し、そこで一から新しい二大政党をつくり上げていくのが私の最終目標だ。
その場合、二大政党の対立軸となる理念は何か。一つは、旧来の伝統的社会の思想を受け継いだ政党だ。すなわち、自由か平等かという対立軸でいうと平等を旨とし、管理型で内向き、コンセンサスを重視する社会を目指す政党だ。もう一つは、私たちが主張しているような、できるだけ自立した社会を目指し、何事もオープンで公正で自由な競争ができる仕組みをつくり、外との関係をもっと重視する政党だ。その二つの政治思想が、日本の二大政党のあるべき姿だと思う。
それを実現するには、いったん既存の権力を壊すしかない。そして、改めて自民党的、伝統的思想を受け継いだ政党ができれば、それが本当の日本Iコンサバティブ(保守)になる。同時にこちらはこちらで、もっとリベラルな集団をつくり上げる。
しかし、日本にはあまり時間がない。数年のうちにやらないと手遅れになる。もし、北東アジアで動乱が起きれば、イラクどころの騒ぎではなくなるし、そのとき、今の自民党のままだと、何も手を打てないだろう。
明治維新は黒船来航の十五年後だった。今度も湾岸戦争から、そろそろ十五年になる。仕上げの時期が近づいてきた。いまこそ新しい維新を、文明開化を成し遂げなければならない。
田中秀征の一言啓上
政界閨閥の要、麻生首相は既得権益と戦えるか
[2008年10月9日 Nikkei BP Net]
(田中 秀征=福山大学教授)
今や政界には、壮大な閨閥の網が張りめぐらされている。それは経済界や官界にまで及び、ともすればお互いにその既得権益を守り合い、助け合う互助会の様相を呈している。
このことが、日本の指導層の固定化、階層化をもたらし、組織の新陳代謝を妨げ、人材供給源を先細りさせ、長期的に日本の活力の衰弱を招いていると言える。
これだけ世界経済が混乱している中での、11月4日の、米国大統領選。
民主党のオバマ氏が勝てば、日本の政治にも大きな変化が起きるかもね??
[ワシントン 10日 ロイター]
10日発表されたロイター/C―SPAN/ゾグビーの世論調査によると、米大統領選で民主党のオバマ候補の支持率は48%となり、共和党のマケイン候補の43%を5ポイント上回った。
女性有権者の間でオバマ氏への支持率が上昇した。
前日発表された調査では、オバマ氏のリードは4ポイントだった。
同調査の誤差は2.9%ポイント以内。

