今年(2008年)8月1日、福田改造内閣がスタートした。既報の通り、閣僚17人のうち、留任したのは4人だけ。残る13人が代わった。まず大幅な改組と言っていいだろう。この改造内閣のメンバーを見て、わたしはこう思った。「ああ、福田首相はやっぱりこういう人だったのか」。これまでは「懸念」のレベルだったものが、はっきりとした証拠が出てきて「確信」に変わったのである。
以下、具体的に説明していこう。
福田改造内閣の特徴の一つは「小泉改革の否定」だ。小泉元首相がやろうとしていたことを全部否定してしまおうという、一種狂的な気迫のようなものすら感じる。それは例えば、郵政民営化反対議員であった野田聖子氏が消費者行政推進の特命担当大臣になっていることからも読み取れる。彼女は小泉改革の柱である郵政民営化に反対したために自民党から追放された、典型的な「アンチ小泉」だったからだ。
小泉改革・スモールガバメントの象徴であった大田経済財政担当大臣に取って代わったのが与謝野さんだということも象徴的な出来事だ。与謝野馨氏は小泉元首相とはまったく逆の、対局にある考え方をする人物だ。財政が不足しているとなれば、普通の感覚を持った人間であれば「ムダを減らそう」と考えるものだろう。しかし与謝野氏は真逆の判断をする。すなわち「税金を集めよう、消費税を上げよう」とするタイプだ。そしてラージガバメントを志向し、官僚と仲良くすることが国にとって良いことだと公言してはばからない。
増税内閣が生まれようとしている
町村信孝氏は官房長官のまま留任になった。やはり町村派は大きいので、福田氏としても敵に回すことは避けたかったのだろう。となると、「内閣に残した」というよりは「残さなかったときの恐ろしさ」を考えてのことに違いあるまい。その意味ではかなり後ろ向きな留任ということになる。
余談になるが、わたしはとある出版社の政治担当編集者から「どうやら官房長官には小池百合子氏が就任するらしい」と聞いていた。町村さんが外されそうだという予想はわたしにもあったし、選挙を前提とした場合、小池さんの官房長官就任はわたしの勘ぐりの範囲でもあった。「そうなったらテレビのワールドビジネスサテライトみたいな記者会見になるなあ」と笑い合っていたのだが、残念ながらこの事前情報は外れた。小池百合子氏は、ご存じのとおり小泉元首相に近いスタンスである。彼女が入閣していないことも実に象徴的な話ではあるのだ。
逆に「増税を避けよう」「国の無駄遣いを減らそう」という上げ潮派は、中川秀直氏をはじめ、ことごとく否定されている。今回、思い出したように自民党国家戦略本部の本部長代理に中川秀直元幹事長をもってきたのは、「上げ潮派」が外野で造反しないためであろう。そのメンバー(石破、塩崎、棚橋の各氏)を見ればどんな提言をしてきても議長(福田首相)は閣議で諮って潰すか無視できる構造だ。
公務員改革の法律を通した渡辺喜美 行政改革担当大臣も消えた。有り体に言うと、今回の組閣で否定されたことは「スモールガバメント」「小泉改革」「民でできることは民に」の三つなのである。
唯一、小泉色が残っているといえるのは保岡興治氏だ。彼は、小泉時代には国家戦略本部の事務総長として小泉元首相と一心同体のように働いていた。弁護士出身だけあって法務については造詣も深く、法務大臣の経験もある。この人が入閣しているということは、「小泉路線廃止という色はないよ」とアピールしたいのかもしれない。
だがそれも、しょせんはポーズに過ぎないことは新内閣のメンバーを見れば明らかだ。先に挙げた与謝野氏・谷垣禎一氏をはじめとし、国民へ負担を強いてラージガバメントに持っていこうとする考えの人ばかりではないか。新閣僚メンバーを見ると、まず大抵のことにはへこたれないわたしとて「これは結構ヘビーだ」と凹みたくなる。
今回の閣僚は、福田首相の考えているベストメンバーであろう。端的に言えば、官僚に優しく、国民には優しくない増税内閣が生まれようとしている。景気対策と称してばらまきを始めていた小泉時代以前の昔のスタイルに戻ってしまったと言うべきか。
麻生氏を自爆テロに取り込む嫌らしい計略
ここで注意したいのは、新しく自民党幹事長となった麻生太郎氏のことだ。内閣には入らず自民党の幹事長になったわけだが、これをどう読み解くか。世間的には「麻生人気にあやかって幹事長にした」と見るのが一般的だろう。
しかし、そもそも麻生氏は福田首相とは考え方が違いすぎる。ともに仲良くやっていくことはあり得ない。わたしはそこに、福田首相の狡猾な(あえて言えば嫌らしい)考えを読み取った。
それは一体どういうことか。
福田首相を退任に追い込むとしたら、その役を担うのは麻生氏である。麻生氏を抑えないと「福田さん、早く禅譲して選挙をしなさい」という声が、自民党からも世論からも聞こえてくることは十分に考えられる。だから福田首相にとって一番怖いのは麻生氏だ。麻生氏が勝手には動けないようにしたい。では、どうするか。その答えが自民党幹事長というポストを与えることだったわけだ。
この「自民党幹事長」というのが嫌らしい。なんといっても自民党幹事長は、選挙の結果について一番重い責任を担うポストである。ご存じのとおり、前回の参議院選挙では自民党は大敗した。そのときは中川秀直氏が責任を取って幹事長を退いた。そして次の衆議院選挙でも自民党は大敗すると予測されている。
そうなると責任を取るのは誰か。当然、幹事長の麻生氏に他ならない。彼が詰め腹を切らされる。福田首相は、麻生氏を自爆テロに取り込んで、爆発させようとしているのだ。つまり、麻生氏を幹事長に据えることで、彼が勝手に動くのを完全に封じ込め、福田退任論が出ないように押さえ込んだわけだ。また選挙の時は彼を前面に立てて戦い、敗北すればもろとも辞任、という筋書きになる。もっとも政権がほかの党に移るほど敗北すればどのみち道連れだ。
前回の総裁選では福田首相は麻生氏と戦ったが、彼はそれをまだ根に持っているようだ。麻生幹事長という肩書きを見ると「福田さん、あんたちょっと恐ろしい人事をやったな」と、ある種の薄ら寒さを感じざるを得ない。一見温厚そうな表情の裏で、彼は陰湿な報復人事で復讐を果たした、とわたしは見ている。
官僚に歩み寄り、かつての日本に逆戻りするのか
今後、この内閣はどのような方向に進むのだろうか。それを考えるにあたりキーワードとなるのは官僚との関係だろう。入閣した顔ぶれには、官僚とうまくやっていくことを是と考えている人がたくさんいる。ここは特に注目しておくべき点である。
確かにかつての日本はそうやってきて、そしておおむね「うまくいっていた」。しかし、今の官僚の恐ろしさを彼らは自覚しているのだろうか。自己目的化した官僚の恐ろしさを。そういう官僚は国民をないがしろにしてとんでもないことをやっている。自分の天下り先を作るために外郭団体を乱立するといった具合にだ。
彼らは、自分の利権を守るためならば税金や年金を無駄に使うことにためらいはない。そういうなか、ただ一人、官僚改革に尽力したのは渡辺喜美氏だったが、彼もまた内閣から外れた。そのあたりにこれからの内閣の進む道が表れていると言える。
官僚改革は期待できない新内閣
内閣改造のビッグニュースに隠れて目立たなくなってしまったが、諮問会議の民間議員による特別会計の歳出削減のための提言があったことにも注目しておきたい。
提言の大まかな内容をまとめたものが下の図だ。
特別会計は金額が大きい。にもかかわらず国会の承認が不要なので、官僚にとっては「有難い」お金でもある。だからというわけではないが、好き勝手に使われている一面がある。無駄遣いの温床になっていると非難されるゆえんだ。すべてが役所のひも付き予算になっていて、公益法人のような傘下の法人にお金がまわり、組織をたくさん作り、そこでまたお金が蓄積されている。
この提言は、わたしからみれば当たり前の内容だ。特別会計も一般会計と同じように透明にするべきなのである。いや、むしろ「国会での承認が必要」ともっと踏み込むべきなのだ。国会の承認が必要ないとされるから、役人に勝手な使い方をされてしまうのだ。
この提案では、無駄遣いをゼロに抑えるために歳出削減目標を設置することも訴えている。また、俗に「埋蔵金」と呼ばれる積立金、余剰金の産出にも統一的に基準を設けることも挙げている。基準が明確であれば、余分な積立金や余剰金が明らかになるというわけだ。企業会計では事細かにルールを決めていているのに対して、官僚の聖地である特別会計にはルールがない。また特別会計の方が一般予算よりも大きいという、とんでもない鬼っ子が日本には生まれてしまっているのだ。
だから、民間企業と同じように会計監査委員のような検査システムを設ける。また、こういうところに名前の出てくる公益法人は、大半は不要な組織なのだから、基本的にはなくす方向で検討すべきなのだ。さらにどうしても必要なモノは税金で公的機関がやるか、民営化して受益者負担とする、としてしまえば、今のような意味不明のブラックホールはなくなる。
そういう点で踏み込みが甘い部分が残されてはいるものの、この提言は非常に良いものだと評価したい。ただし、この提言もこの組閣によって葬り去られてしまうのは明らかだ。この新内閣は基本的に役所の聖域には手を入れさせないという守護神がずらりと顔を並べている。その代表格が「またしても」というべきか、谷垣氏、そして与謝野氏だ。
この提言を谷垣・与謝野氏はどう受け取るか。「ご苦労様」とだけ言って、そのままほごにするのがオチだ。残念なことだが、この内閣に国民生活者の視点に立った施政や、急務となっている官僚改革は期待できない。
国民の信託と180度異なる布陣
最後に言っておきたいことがある。それは今回の福田組閣を通じて国民が問題にしなくてはならない選挙と選良との関係である。
今の議員は3年前に小泉郵政改革の洗礼を浴びて選ばれた人々である。国民が選んだのはその時の小泉さんの提示していた“小泉改革”に盛り込まれた政策である。安倍内閣はかなり右傾化したが、これは靖国参拝などを強行した小泉さんの延長線上にあると見ることができる。しかしインド洋への自衛隊派遣をはじめ米国追従を強行したために参議院選挙では大敗した。福田首相が引き継いだ内閣は安倍内閣の骨格を維持してきたわけで、主力はスモールガバメント+官僚組織の改革などを標榜するものであった。
それが今回の組閣で、小泉改革の否定を明確にしたわけだ。福田さんは首相ではあるが、自分たちが選ばれたときの国民の信託と180度異なる布陣で行政を行おうとしている。国民はその一点に関して声を上げるべきだ。既に消費税を上げることもやむなしとマスコミ操縦を始めたし、株式市場の活性化、景気対策、など政治家にとってはうれしいご託を並べ始めている。せっかく小泉内閣が「改革には痛みを伴う」と国民を説得し、国民もそれを受け入れようとしていた矢先に「昔の名前で出ています(♪~)」というメロディが流れている。次の選挙で国民自らがこうした福田首相のやり方に判断を下すことを期待しよう。
内閣改造で見えた福田首相の「恐ろしさ」

経営コンサルタント 大前 研一氏
[日経BP 2008年8月12日]
大前 研一氏が、このようなコラムを書くのはめずらしいですね!!
巧妙にすすむ、民喰う人々の増殖は、このまま続いていくのでしょうか???
大前氏のコメント、しかし、ほんとに、そう思います。


