道路特定財源論議の陰で、消えた公務員制度改革 | 東京リーシングと土地活用戦記

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「道路特定財源」論議の陰で密かに消えた公務員制度改革」

2008年2月14日

 今、国会では道路特定財源の一般財源化、あるいはガソリン税の暫定税率25円を続けるか廃止するかで非常にもめている。だが実はその攻防の裏側で密かに進行している最も重大な問題は、公務員制度改革が頓挫しかけていることだ。

自民の勢力が公務員制度改革を骨抜きに

 金融・行政改革担当大臣の渡辺喜美さんが旗を振り、堺屋太一さんが中心となって動いている「公務員制度の総合的な改革に関する懇談会」がまとめた「国家公務員制度改革基本法案(仮称)」が、骨抜きにされようとしているのだ。

 自民党の中に国家公務員制度改革の委員会があるのだが、実はこの委員会が改革案を潰そうとしている。この抗争が今、すごいことになっている。

 そのことが、自民党の中でも公に言えなくなっている。マスコミでもほとんど論じられない。なぜなら、マスコミというのは、やはり官僚が大きな情報源なので、官僚の嫌がることはできないのだ。
 小泉内閣の時代から公務員制度改革ということが言われている。渡辺喜美さんはそれを一生懸命やろうとしている。
 渡辺さんが手をつけようとしている公務員制度改革にはいくつかのポイントがある。その一つが、公務員の「キャリア制度の廃止」だ。

公務員制度の抜本改革を狙った渡辺大臣

 公務員には、キャリアとノンキャリアというものがある。キャリアというのは、国家公務員採用試験の上級甲種に受かったエリートのことだ。彼らは若くして課長、局長になり、能力があると事務次官にまで上り詰めることができる。ノンキャリアの場合は係長どまりがほとんどで、一生勤めても課長になるのは珍しい。このようにキャリアとノンキャリアには歴然とした差がある。これをなくそうというものだ。
 企業では、キャリアとノンキャリアという区別はないが、大卒と高卒という違いはある。渡辺さんが主張しているのは、ノンキャリアの中でも途中で試験を受けて合格すればキャリアになっていける、そういう道を開こうということだ。あるいは、民間から公務員になった人でも途中で試験を受けてキャリアになれる道を開こう、ということだ。
 渡辺さんが手をつけようとしているもう一つの改革が、「内閣一元管理」だ。今、各省庁で縦割りになっている幹部人事を内閣で一元管理しようというものだ。そのために内閣人事庁を設立しようというのだ。現在のような完全な縦割りで、外務省に入った人は外務省、財務省に入った人は財務省というのではなく、省庁を超えた交流を自由にできるようにすることを目指している。
 このほかにも、「内閣中核体制の確立」も目指している。官僚の中には、オペレーションをする人も必要だが、戦略を立てる人も必要だという考えに基づき、各省庁の立場を超えて、内閣の国家的重要政策の企画立案を行う「国家戦略スタッフ」を設立しようというものだ。
 さらに公務員に評価制度を導入しようとしている。今の国家公務員は完全に年功序列制だ。企業だって評価制度があるのにこれはおかしな話だ。そこで仕事のできる人とそうでない人とで、役職に違いが出る評価制度を持ち込もうとしているのだ。
 これ以外にも、労働基本権を公務員に持ち込むことにも触れている。公務員にもストライキの権利を認める代わりに、リストラもできるというものだ。民間企業と同じような労働基本権を導入しようというのである。このようなことを、渡辺さんはやろうとしている。ところが自民党は、渡辺さんらが進めようとしているこの「国家公務員制度改革基本法案」を全く骨抜きにしようとしている。自民党と癒着した官僚が国を動かす。

そもそも、なぜ公務員制度改革が必要なのか。

実は今の日本を牛耳っているのは自民党ではなく、それを裏で操る官僚なのだ。

 日本は戦争に負けて、色々なことが変わった。憲法も変わった。天皇の位置も変わった。その中で、ただ一つ全く変わっていないのが官僚制度だ。戦争に負けたときも、占領軍は官僚制度を変えなかった。官僚制度は明治維新以降ずっと変わっていないのだ。だから、官僚たちが、日本のありとあらゆるデータを持っている。

そして日本の政権は、戦後、ほとんど自由党から始まった自民党が握ってきた。このために、自民党と官僚が完全に癒着して今に至っている。自民党内の政権は変わるが、官僚は政権によって変わらない。だから政治家は官僚に頼り、官僚が実質的にこの国を動かしているのだ。

シンクタンクの役割担う日本の官僚


 かつて、宮沢喜一さんが総理大臣になったとき、僕は「あなたも学者など色々な民間人を起用しなさい」と進言した。その前の総理大臣の中曽根康弘さんが、色々な民間人を起用して「臨調行革」で成果を出したからだ。だが、それに対して官僚出身の宮沢さんは、「ああいうことをするのは傍流の人ですよ。自民党には、官僚という絶大なシンクタンクがある。だからそういう必要は全くない」と言い切った。
 実は自民党にはシンクタンクというものがない。アメリカは民主党にも共和党にもシンクタンクがある。各国の党はシンクタンクがある。だが日本の場合は、自民党が全部官僚に頼りきっているため、官僚がシンクタンクの役割を果たしているのだ。
 逆に言えば、官僚が政策をつくり、その政策の上に自民党が乗っかっているだけなのだ。その体制がずっと続いたために完全な癒着体制になってしまった。つまり、自民党がずっと政権を握っているために、官僚は自民党に都合のいい政策や構造をつくる。
 自民党に都合いい構造というのは、「利権の構造」だ。つまり道路族にとって都合のいいのは道路をつくることだ。そのために官僚が知恵を貸し、政策を作り、法律を立案している。
 今国会でもめている道路特定財源の一般財源化に反対しているのは、結局は土木建設業者だ。そしてその道路特定財源を特定財源にしておこうと言っているのは、その業者の票で動いている自民党議員であり、その意を受けて政策を立案している官僚たちだ。まさにこれは「利権の構造」だ。

「利権の構造」の解体には公務員制度改革しかない

 このような業者と自民党と官僚が癒着した「利権の構造」が日本のいたるところにある。こうした利権の構造を解体するには、自民党政権が終わるか、官僚制度を改革するしかない。つまり後者が、渡辺大臣が推進している公務員制度改革なのだ。
 自民党の利権に関わってこなかった、いわば“傍流”だった小泉さんは、こうした利権を解体するために、「自民党をぶっつぶす」と言って、道路公団の民営化や郵政の民営化といった改革に取り組んだ。
 小泉さんは公務員制度改革までやりたかったが、小泉さんの任期があと1年のときに僕が小泉さんにそのことを聞いたら、「まともに公務員制度改革をやろうとしたら、全官僚が敵になる。全官僚が敵になるということは、全マスコミが敵になるということだ。だから、これをやるには、相当の戦略が必要で、自分は残りが1年しかないから無理だ」ということだった。
 そして小泉さんの意思を引き継いだ安倍さんは、渡辺さんを起用して公務員制度の改革をやろうとした。次の福田さんも渡辺さんを再任して、その路線を継続しようとした。だが、実際にやろうとしたら、自民党の中で全部骨抜きだ。
 しかも、骨抜きの理由が全部もっともらしくついている。自民党案は全部官僚がつくるから、公務員制度改革法案は当然骨抜きにされてしまうのだ。

自民党の敵は自民党自身

 今、日本が直面している問題は「道路」だけではない。構造改革を唱えていた小泉政権の時代は、外国人投資家や海外企業の資金が日本に流入しやすい仕組みをつくろうとしていた。だが今は全く逆行している。
 例えば羽田空港の運営会社の株の約20パーセントをオーストラリアの企業が持つ動きに対して、国土交通省はただちに、全国の主要空港の株を外資が3分の1以上持つことを禁止する取り決めを今国会でまとめようとしている。
 今、日本はサブプライムローンの問題も関連して、株価がどんと下がっている。今まで日本の株の6、7割を買っていた外国人投資家が、日本から逃げているのだ。“日本売り”が起こっているのだ。そんな大変な状況のときに、利権構造を守るために、つまり構造改革をさせないために、時代に逆行する政策を次々と打ち出そうとしている。
 実はガソリン税をどうするかといった目先の問題よりも、この国の政策に関わる官僚制度を変えるほうが重要なのだ。いま必要なのは構造改革の継続だ。しかし、福田内閣は力がないために、この構造改革に逆行している。そのために、日本の株価が下がり、日本がだんだん外国から見捨てられる、ということが起きている。
 自民党の敵は民主党ではなく、共産党でもなく、自民党自身なのだ。そして構造改革に反対する議員のバックにいる官僚なのだ。いま密かに消え去ろうとしている「国家公務員制度改革基本法案」の行方は、日本の暗澹たる未来を物語っている。


田原 総一朗(たはら・そういちろう)


1934年滋賀県生まれ。早大文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、フリーランスのジャーナリストとして独立。1987年から「朝まで生テレビ!」、1989年からスタートした「サンデープロジェクト」のキャスターを務める。新しいスタイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたとして、 1998年、ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞。また、オピニオン誌「オフレコ!」を責任編集。2002年4月に母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講。塾頭として未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたっている。


 国土がせまいのに、世界第五位の道路延長をもつ日本の道路建設関係支出、年間予算六兆二千億円は、世界第二位。基準建設費は道路大国のアメリカの約5倍の値段ということです。アメリカのゼネコンにやらしたら、問題は、すぐに解決しますよね。官僚と自民党道路族というのは、その現実を知っているとしたら、差額を政党助成金として日本のゼネコンから寄付してもらているとか、天下りして退職金をいっぱいもらっているとかでしょうか・・・ いやですが、そんなことを考えてしまいます。