今回の内閣改造にとても期待をしていた田原 総一朗氏が、総括しています。
とてもわかりやすいです。
2007年8月29日
8月27日、安倍改造内閣が発足した。
実は今回の内閣改造に期待をしていた。安倍首相が、参議院選挙で大敗したにも関わらず続投を宣言したからには、「こんなことをやるんだ!」という強いメッセージに溢れた改造をすると思ったからだ。
メッセージ性のない“守り”の内閣
世論は安倍首相続投には反対だった。それでもあえて続投するからには、「続投して何をするのか」ということを明確にする必要がある。今度の内閣改造では、その「続投の目的」が明確になると思って期待していた。
しかし、そういう点で今回の内閣改造は全くの期待はずれだった。まるでメッセージ性の無い、“守り”の内閣だ。
一面トップで「重厚布陣」と評価した新聞もあったが、何が「重厚布陣」だ、と思う。派閥のトップをもってくれば“重厚”なのか。元の安倍内閣は「お友達内閣」と悪口を言われたが、これはつまり組閣時に“若返り”を試みた結果だった。
今度は「お友達内閣」と批判されないために“年寄り内閣”にしただけのこと。年寄りが多いだけでなぜ“重厚”といわれるのか、さっぱりわからない。
これは新聞の古い体質のせいでもある。内閣改造は一種のお祭りのように思われていて、祭りを批判するのは良くないという、御祝儀評価で、古い部分が現れているとも言えるだろう。
対立必至の与謝野官房長官と大田経済財政相
今回の内閣改造でよくわからない点の一つは、官房長官に与謝野馨・元経済財政大臣が抜てきされたことだ。
僕は、人物としては与謝野さんを買っている。政策通で柔軟性もある人だ。しかし問題は、与謝野さんはかつて金融・経済財政政策担当大臣だったときに、時の小泉首相(当時)ら経済成長路線に反対して、財務省に近い姿勢を示した。そして、竹中平蔵さんなどは与謝野さんをきびしく批判した。
その人物を安倍首相は官房長官に選んだ。これは、安倍さんが小泉さんから受け継いだ「消費税を上げないで景気をよくする」という成長改革路線を、増税による財政再建に転換したとも受け取れる。
しかし、留任した大田弘子経済財政大臣は竹中さんをそのまま受け継ぐ人物だ。与謝野官房長官と大田経済財政大臣の立場は対立する。一体どちらをとるのか。ここが極めてあいまいだ。
そして、肝心の財務大臣に額賀福志郎さんが選ばれた。彼は非常に真面目な人物だと思う。しかし、彼は防衛族だ。防衛大臣ならばわかるが、まったくの素人分野である財務大臣にした。これはなぜかというと、結局、津島派に媚を売ったということだろう。安倍首相の続投に関しては津島派が一番厳しかった。この津島派に媚を売る形で、額賀財務大臣を含めて3人の津島派の人物が選ばれた。
額賀さんの入閣は良い。彼は力のある人物だ。しかし、起用するならばやはり防衛大臣や政調会長など力の発揮できるポストにすべきだったと思う。
遠藤農水相は古いタイプの農林族
さらによくわからないのは、農水大臣だ。
9月にWTO(世界貿易機関)の会議が行われる。これは農業問題についての会議だ。このままでいくと、下手をすると日本はWTOの会議をぶち壊す役割をしかねない。いかに日本の農業をまとめ、いかにWTOをぶち壊さないように努めるか、今回の農林水産大臣には非常にパワーと戦略が求められるのだ。
僕は、今度の内閣で一番大変で大事なのは、農林水産大臣と環境大臣だと思っている。だからこのポストには「なるほど」と思える人物を投入すると期待していた。正直に言うと、中川昭一さんではないかと思っていた。
ところが、遠藤武彦さんという、古いタイプの農林族が選ばれた。今、この時期になぜ彼を起用したのか、さっぱりわからない。一体WTOをどう考えているのか。
パワー不足の鴨下環境相
もう一つ大事なのが環境大臣だ。日本の新聞はほとんど無視しているが、今年6月にドイツ・ハイリゲンダムで行われたG8サミット(主要国首脳会議)で、安倍首相はよい役割を果たした。環境問題で、アメリカとEUが対立していたところに、安倍さんが中国を取り込んでまとめあげた。そして、来年の「北海道洞爺湖サミット」で、2050年までにCO2の排出量を少なくとも50パーセント減らすという道筋を作ると決めた。
ハイリゲンダムのサミットで安倍さんが良い役割を果たしたが、来年の洞爺湖サミットでも良い役割を果たすためには、日本は2012年までにCO2排出量を14パーセント減らさなくてはならない。だが、経団連が反対しているから経済産業省は非協力的だ。ということは、経団連や経済産業省に対抗して、この問題に取り組むことができるパワーのある環境大臣が必要なのだ。
ところが、今回環境大臣に任命された鴨下一郎さんは医者だ。彼は、確かに環境については知っているかもしれないし、厚生労働省の副大臣も経験した人物ではあるのだが、この人からは “パワー”というものが感じられない。
僕は、今回の環境大臣には相当パワーが求められると思っている。環境問題に詳しくないとしても、例えば武部勤さんのような、とにかく力強い人物が必要だったと思う。
来年のサミット担当の特命大臣すら必要ではないかと思っていたくらいなので、この人事は納得し難い。
理解に苦しむ伊吹文科相の留任
そして、今回の内閣改造で僕が一番びっくりしたのは、伊吹文明文部科学大臣だ。「政治と金の問題」で、安倍政権が国民の信頼を失ったきっかけこそが、佐田玄一郎前行革担当大臣、松岡利勝元農林水産大臣、伊吹文明文部科学大臣の事務所経費の問題である。その中の一人である伊吹さんをなぜ留任させるのか。
参議院選挙の総括として自民党が発表した文章の中でも、「政治と金の問題」に関して、安倍さんは国民の民意を重視せず永田町重視の路線をとってしまったと反省を述べていた。しかし、今回伊吹大臣を留任させたことは、まさに永田町重視の政策であり、この人事は自民党の総括にも反するものだ。
なぜこのような人物をもってきたのか、非常に理解に苦しむ。しかも、28日付けの新聞各紙を眺めると、この伊吹文部科学大臣留任の問題について触れた新聞は一紙もない。意図的にこの話題を省いたとしか考えられない。内閣改造というのは、そこまで“お祝い”しなければならないことなのか、と思う。日本の新聞の保守性というか、時代遅れの体質を感じずにはいられない。
安倍批判は選挙でのパフォーマンス!?
今回の内閣改造で、強いてプラスの点をあげるとするならば、一つは舛添要一さんを厚生労働大臣に抜てきしたことだ。
舛添さんは安倍批判をしていたにも関わらず、入閣した。それを新聞各紙も褒め称えている。
僕は、舛添さんに「なぜ選挙のときから安倍批判になったのか」と聞いている。すると彼はこう答えた。
「それはね、田原さん。安倍首相の言っている『美しい日本』とか『戦後レジームからの脱却』、『憲法改正』などを話しても誰も聞いてくれない。これはだめだと思って、安倍批判を始めたらみんな聞いてくれるんですよ」
つまり、舛添さんは選挙戦略として安倍批判をやったのだ。実際彼は、憲法改正も、集団的自衛権も賛成で、決して反・安倍ではない。選挙戦術としての安倍批判だった。
さらに、彼は母親の介護を経験して、それについて本も書いている。福祉の分野に非常に熱心だ。
また、今、年金問題で自民党と民主党は真っ向から対立している。民主党の議員、例えば長妻昭議員との、年金問題に関する論戦で対抗できるのは、舛添さんくらいかもしれない。
そういう意味で、ここで彼を厚生労働大臣にしたことは評価できる。
期待の増田総務相は二階氏に対抗できるか
もう一つの注目は、総務大臣に、前岩手県知事の増田寛也さんを起用したことだ。彼は岩手県知事時代の後半から小沢一郎さんと対立して、結局県知事を降りた。その、反・小沢の県知事だった彼を入閣させたことは注目に値する。
さらに、参議院選挙で自民党が負けたのは「地方の反乱」だと総括している。小泉前首相がいわゆる地方切捨ての政策を行い、公共事業を7兆円以上切って半額にしたり、補助金を大幅に切ったりして、地方が相当の不満を持っている。その小泉路線を踏襲しようする安倍さんは、地方の反乱をうまく抑えるために増田・前県知事を抜てきしたのだと思う。
しかし、増田さんはもともと改革派の知事で、「ばらまき」政策には全く反対だ。そういう意味では、むしろ地方に対して厳しい人物だと見られる立場にあるとも言える。
一方、自民党総務会長になった二階俊博さんは、僕の番組で「構造改革は一時停止、ひと休みだ」と言った。「えっ!改革はひと休み!?」と聞くと、「そうだ」と言う。
つまり、構造改革から色々な形で地方に金を持っていく方針だ、ということを二階さんは言っている。その方針と増田さんは相反するのではないか。
“ちぐはぐ”さが目立つ新組閣
安倍改造内閣には、このような“ちぐはぐ”がたくさんある。どこが「重厚布陣」なのか。ここで、特に新聞批判を展開するつもりもないのだが、それでも、派閥のリーダーたちを起用しただけで「重厚な内閣だ」と評する新聞には違和感を感じざるを得ない。
例えば、高村正彦防衛大臣。これにもびっくりした。おそらく高村さんは、自民党の中ではハト派の人物だ。つまり、安倍首相の防衛政策とは真っ向から反する立場にいる。このような人をなぜ持ってきたのだろうか。安倍さんは、これまで主張してきた憲法改正や集団的自衛権をやめるのか。やめるわけがない。そうすると、これはいかにも中途半端な人事だといえる。
今回の改造内閣は、メッセージの無い“守り”の内閣だと思う。だが、今の安倍政権は何を守ると言うのか。もう守るものなんて何もないのではないのか。本当は攻めるしかないはずなのだ。
僕はこの内閣改造がメッセージ性の強いものになるべきだと期待していたので、そういう意味では本当にがっかりした。
自民党3役人事(麻生太郎幹事長、二階俊博総務会長、石原伸晃政調会長)は予想通りだった。まあこんなものかな、という印象だ。
しかし、閣僚人事には違和感がある。これでやっていけるのかな、と思う。「安倍さん、どうしたんだ」と言いたい。
有望な人材が軒並み敬遠
もっとも、安倍首相自身にとっても、満足のいく改造ではなかったのかもしれない。
安倍内閣は前途多難で、安倍さんが大臣になって欲しいと思っても断った人が多かったのではないか。
僕が、農林水産大臣になるのではないかと思っていた中川昭一さんも、実は「農林水産大臣には絶対にならない」と言っていた。「就任したらすぐにWTOがある。すぐに第4コーナーだ。ここで下手をしたら日本は裏切り者扱いをされる」とも言っていた。
しかしだからと言って、古めかしい遠藤さんを持ってきて大丈夫なのか。
また、事務所経費の問題があるので、有能でも「身体検査」をしてひっかかってしまい、そのために大臣に就任できなかった人もいるだろう。
こうした理由で、今回の改造内閣には留任が多い。参議院選挙で大敗したのだから、本来であれば、全部辞めさせて一新すべきだったはずだ。しかし留任が5人もいる。
安倍首相の「許せないリスト」
安倍さんにはどうしても「許せないリスト」というのがあると言われている。これは朝日新聞の星浩編集委員が言い出したことなのだが、福田康夫さん、谷垣禎一さん、山崎拓さんがこのリストに入っていると言われている。そしてやはり彼らは入閣していない。
山崎派としては、一応2人入閣しているが、この2人は山崎さんを裏切った人だ。山崎さんは絶対この人たちを推してはいなかったと思う。
森喜朗さんは、僕の番組に出たときも「福田さん、谷垣さんは入れるべきだ」と言っていた。僕もそう思う。福田さんが入れば、やはり「あぁ、変わったなぁ」という印象になる。福田・谷垣が入らない限り、サプライズといえる改造にはならないだろう。
古賀派も4人から2人に減った。これは津島派に配慮した結果だろう。
結局、派閥均衡、派閥に配慮した内閣だ。配慮ばかりして、“守り”の改造内閣になってしまった。安倍さんらしくない改造だったと思う。
8月29日に各紙が改造内閣の支持率を発表したが、日経新聞が41パーセントと13ポイント上昇、朝日新聞も33パーセントと7ポイント上昇した。日経新聞の場合不支持率は40パーセント、朝日新聞は53パーセントで、御祝儀と様子見の数字であり、安倍内閣が問われるのはこれからである。
田原 総一朗(たはら・そういちろう)

1934年滋賀県生まれ。早大文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、フリーランスのジャーナリストとして独立。1987年から「朝まで生テレビ!」、1989年からスタートした「サンデープロジェクト」のキャスターを務める。新しいスタイルのテレビ・ジャーナリズムを作りあげたとして、 1998年、ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞。また、オピニオン誌「オフレコ!」を責任編集。2002年4月に母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講。塾頭として未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたっている。[NIKEII BP NET]
