先日、徒歩圏内の行きつけの映画館の

上映情報をチェックしていた時、

「ほとぼりメルトサウンズ」

という変わったタイトルに目を引かれました。 

 

なぜか上映後のトークショーに

歌人の穂村弘さんが登壇されることを知り、

半ば穂村さん会いたさに見に行くことに。

 

 

この映画は

主演のxiangyu(シャンユー)さんのルポエッセイ

「ときどき寿」を原案にしています。

 

映画では舞台となる街は

特定されていないのですが、

原案となる本の舞台は神奈川県横浜市の寿町。

 

xiangyuさんが6年以上通い続けた

この街は関東ではドヤ街として

有名なところなのだそうです。

 

そのような場所で生活する人たち、

映画に出てくるタケさんのような

ホームレスの方と交流すること自体、

勇気がいることだと思うのですが、

映画の中のコトちゃんは

いとも簡単に馴染んでいくのです。 

 

(実際に、xiangyuさんは時には周囲から見ると

危なっかしく思えるくらいの聞き方で

寿町の方達の話をきき、交流していったとか)

 

 

コトちゃんの人との交流の仕方は、

小さい子が公園で出会った知らない子に

「あそぼうよ〜」と近づいていって

なんとなく一緒に遊んで仲良くなるような

自然な距離の取り方なのです。

 

映画で描かれる街は廃れているものの、

どこかのんびりしています。

 

人の心の荒んだ部分はほとんど感じず、

むしろこの街で金儲けをしようとしている

都会の人間の心の方が荒んで見えました。

 

そして、最初は不思議だった

「音を集めて葬る」

というタケさんの行動の意味がわかった時、

「ああ、そうだったのか」

とじーんとするのです。

 

(映画のサブタイトルのような

「どうしても、届けたい音がある。」

という言葉が、

この映画の大切なテーマを語っています。)

 

映画を見た後のトークショーでは

東かほり監督、

主役のコト役のxiangyu(シャンユー)さん、

歌人の穂村弘さんが登壇。

 

その時までなぜ穂村さんがゲストなのか

わからなかったのですが、

東かほり監督は歌人の東直子さんのお嬢さんで、

穂村さんとは監督が子供の時から

面識があったとか。

 

 

「穂村さんがうちに遊びにきた時、

手のひらにジャンガリアンハムスターを乗せて

すごく手が震えていたのを覚えている」

と思い出話をされていました。

 

穂村さんは主役のコトについて

「コトちゃんは一人でどんどん変なことをして

いける人の顔」

と言いつつ、宇乃うめのさん演じる浩子さん

(生真面目な、

求められる役割を果たそうとしつつ

葛藤する女性)

に感情移入されたとか。

 

 

また、穂村さんも東監督も

JR中央線沿線在住歴があるそうで、

それだけでも親近感がわくのですが、

この映画館で自動販売機に向かって

「150円返せ!」と叫んでいるおばさんは

実際に監督が三鷹駅で見かけた女性を

モデルにしているそうで、

作品が一層身近に感じられました。 

 

ちなみに穂村さんとxiangyu(シャンユー)さんも

会ったことがあったのだとか。

 

彼女は音楽活動を始める前に

落ちていたゴミで衣装を作る活動もしていて、

あるイベントで花見で拾ったゴミで作った

衣装を着た彼女に会って、穂村さんは

「ゴミでできた服を着ている人がいる!」

とびっくりされたそうです。 

 

また、xiangyuさんは穂村さんのエッセイ

「本当は違うんだ日記」

を読んで文体に影響を受けたのだそうです。 

 

「穂村さんには独特のしゃべるリズムがある。

それがエッセイにも出てると思いました。」 

 

東監督も

「xiangyuさんもそうだと思う。

鈴木慶一さんも

『彼女のリズムがある』と言っていました。」

 

穂村さんはご自身が

「なかなか一人で新しいことができずに

悶々と妄想してしまう」

タイプなので、

xiangyuさんがゴミで衣装を作るような活動や

執筆活動と出版、音楽活動、

そしてほぼ演技経験がないのに本作で主役を演じていることなど

どんどん活動の幅を広げていることに「びっくりした」

を連発していました。

 

また、昔から知っているかほりさんが

映画監督になったということにも

穂村さんはびっくりされたとか。

 

タケさん役の鈴木慶一さんのお話もでましたが、

鈴木さんは

「ムーンライダーズ」のバンド活動以外にも

様々な音楽活動をされているので、

実際に街の中で音をサンプリングしては

きちんとファイリングされているのだそうです。

 

鈴木さんは70代になっても朝の四時から

ラーメンやステーキを召し上がるくらい

お元気なのだとか。

 

最後に、穂村さんは

「『ほとぼりメルトサウンズ』

というタイトルも好き。

映画の全体にノイズのようなものがあって

面白い」、

監督も

「この映画にはいろんな音が出てきます。

皆さんの人生の音と重なったら嬉しい」

と話していました。

 

また、この映画を見ていて、

人と一緒に何気なく遊んだり、

ご飯を食べることの大切さや楽しさを

しみじみと思い出したりもしました。

 

じんわりと心にしみる映画でした。

 

今回も最後まで読んでいただき、

ありがとうございました。