備忘録については前回で正式に終了しているが、記載すべき事項が発生したため、過去記事を一つ降格させ、こちらを本カテゴリーに加えたい。降格の記事は以下になる。理由としては、過去の思い出ではあっても、カテゴリーとの密接な関連は認められなかったためである。

 

 

 

2件の情報を、以下に紹介したい。

 

リチャード・ゴードン博士は既に科学者としての職務を引退しているが、彼の共同研究者達は生物進化について考究を続けている。(ゴードン博士の細胞分化波動については、以下のリンク先を参照)

 

 

米国グローバル・マインドショアのジョージ・ミクハイロスキー博士は2021年のBioSystems誌において、地球最初の生命体が変異を得て古細菌と真正細菌の祖先に分かれ、その後互いに融合や遺伝子水平移動を通して真核生物の祖先となるまでの時間を、バイオマスやモデル生物などの知見を基にした計算を試みたのだった。彼等は、細菌同士の「融合」という過程において、異種同士の精子と卵の接合という融合が生物進化に関わっているという仮説として、博士の仮説を取り上げた。更に、本論文が時間を扱っていることからなのか、甲殻類のDromioidea(カイカムリ上科)はBrachyura(短尾下目)とPaguridae(ホンヤドカリ科)の「融合」であるとされているが、いずれも地球上に生息していた最初の日付が同時期である必要があると述べている。Brachyuraの化石は2億2500万年前の地層で発見されているが、Paguridaeの化石は1億9000万年前になる。そして、Dromioideaの化石は1億5500万年前になる。Dromioideaは両者が融合したもの、つまり、雑種になるので、両者より後の時代になるが、この「融合」は両者の出現より3500万年後ではないかと考えられる。これより早期の地層で化石が出ていないためである。

この甲殻類についての文章の後に、突然ではあるが、2015年に行われたナメクジウオの雑種形成の文献を引用し、実験室での交雑実験の結果から、フロリダナメクジウオ(Florida Amphioxus(Branchiostoma floridae))およびバハマナメクジウオ(Bahamas Lancelet(Asymmetron lucayanum))は今から1億6000万年前には共通祖先から種分化したと思われることを、述べている。更に、博士のウニとホヤの雑種形成実験に反論したハート博士の見解については、ミトコンドリアの母性遺伝を見ているに過ぎず正しくないとし、理由として、ウニの精子のミトコンドリアが受精時に卵に入りうること、ホヤのミトコンドリアには他の動物と異なる点がいくつか見られるため、と文献を引用して述べている。(ハート博士の反論については、以下のリンク先を参照)

 

 

カナダのニューファンドランド記念大学のアビル・U・イガムベルディエフ博士が、ゴードン博士が唱えた細胞分化波動の仮説を熱力学の視点を加えて再構成した論文を発表している。本論文の第7章「遺伝子水平移動と変態」の章では、博士の雑種形成についての考え、すなわち、胚・幼生のゲノムと成体のゲノムは別々の動物に由来し、各々が連結して生じたシステムとして変態を説明できるという考えが述べられた後で、渦鞭毛藻におけるゲノムレベルでの遺伝子移動および合体が起こったという知見を文献より引用し、博士の仮説と似ているとしている。全オペロンが移動する例は一般的ではないが、博士の変態に関する考えと一致するところがある、と考えているのだ。

 

彼等の論文の主題とは深い関係はなく、また、私の数理・物理学の理解能力の限界より、論文自体の概説は行わないが、ウィリアムソン博士の偉業に着目し、考察をする行為があったこと自体が個人的にこの上なく嬉しかった。

 

 

使用文献

LUCA to LECA, the Lucacene : A model for the gigayear delay from the first prokaryote to eukaryogenesis George E. Mikhailovskyら著 BioSystems 205(2021)104415

Macroevolution, differentiation trees, and the growth of coding systems Abir U. Igamberdievら著 Biosystems 234(2023)105044

 

参考文献

ナメクジウオの雑種に関する2015年の参考文献のみをあげたい。正確な文献引用については上の使用文献で確認可能である。ただし、いずれの文献も伝手で頂いているため、通常の検索ではダウンロードは出来ないものと思われる。

Hybrids Between the Florida Mphioxus(Branchiostoma floridae) and the Bahamas Lancelet(Asymmetron lucayanum) : Developmental Morphology and Chromosome Counts) NICHOLAS D. HOLLANDら著 Biological Bulletin 228 : 13-24 February 2015