昨日、年配のおじさんが、おひとりで春物のアウターを買いにいらっしゃいました。
   ジャンパーじゃなくて、ポリエステルのカバーオール(形もカッコいいし、自宅で洗えて、とにかく軽いのです!)をお勧めしたところ、店内の鏡の前で試着されて、気に入って買ってくださいました。
    お会計も済み、お見送りをして、その後、他のお客様の接客をしてから、先程アウターのお客様が試着された場所をふと見ると、なんと、おじさんが試着された辺りの隅っこの商品ラックにぶら〜んとおじさんのバッグが掛けっぱなしでぶら下がっていたのでした。
    たまたま、おじさんは財布だけバッグじゃなく着ていたダウンジャケットのポケットに入れていたので、そのままお会計も出来ちゃったし、バッグを忘れたことにお気づきにならなかったのでしょう。
    こちらもすぐに気づいていたら、後を追いかけてお渡し出来たのに、おじさんのバッグが保護色のように商品の中に掛かっていたので、気づくのが数分遅れてしまいました。
    反省しつつ、他のスタッフと相談し、おじさんもさすがにバッグを丸ごと忘れたのだから、割と早い段階で気づかれて戻ってきてくださるだろうと結論を出し、とりあえず売り場で忘れ物があった場合のマニュアルに従って、一階にある拾得物の取り扱い所に預ける手続きをすることにしました。
    警備員さん達がいる窓口にバッグを預け、手続きをした後、しばらくすると、ショップの方に先程のおじさんがちょっと照れくさそうにニコニコしながら現れました。
    おじさんのお顔を見て、思わず「バッグ!お預かりしてます!」とお伝えすると、おじさんは笑いながら「家に帰ってからバッグ忘れたのに気づいたよ〜」とおっしゃる。「うわぁ、そうでしたか!バッグは、一階の拾得物取り扱い所でお預かりしてますので、すぐご案内いたします」とお伝えして、そのまま一緒にバックヤードの通路を通り、一階の窓口にご案内しました。
    バックヤードのストック場や、従業員通路を歩きながら、おじさんは、初めてご覧になるらしい、その風景に「わあ、裏ってこういう風になってるんだ ⁈」とか「へえ〜面白い!」などとおっしゃって、まるでディズニーランドのアトラクションにでも来られたみたいにはしゃいだ声を出されました。
    そして、そんな雰囲気の中で、「あ、そうそう、さっき買わせてもらった上着、早速着てきちゃった!ホラ」とおっしゃるので、よく見ると、確かにおじさんはさっきうちで買ってくださったアウターをわざわざ着てきてくださっていたのでした。
    そうして、おじさんと2人でバックヤードの通路を並んで歩きながら、今さっき買ってくださったばかりのアウターを嬉しそうに着てくださっているおじさんのお顔を見ながら、
「早速着てくださってありがとうございます!とても、よくお似合いです!」と、お伝えした瞬間、不意に、ほかほかとあたたかい気持ちに新しい色合いが差すみたいに、目の前のおじさんと気持ちがふっと触れ合ったような感じがしました。ちょっとだけ、心が通いあう感じ。
   そんな風に、他の人と気持ちが触れ合うこと、それはとても小さくてシンプルなことなんだけど、人間がしている、この世のありとあらゆる事というのは、本当は、そういうことのためにあるんじゃないのかな?なんて、思ったりしたのでした。バッグを無事取り戻されたおじさんが、笑顔で帰って行かれるのを再びお見送りした後に、うちの店に戻ってから…。


    つい先日、こんな事もありました。
    忘れ物のおじさんとは、また別の年配のおじさんが、うちの店頭に掛けられた服をご覧になっていたので、お声かけしたところ、おじさんは服のプライスを見て「この服は、俺には高級品すぎるなあ!」と、おっしゃって、ガハハハと明るくお笑いになったので、僕も思わずつられて子供みたいにアハハハ!と心から笑ってしまいました。
    つかの間、一緒に笑い合った後、おじさんは笑顔で「またね〜!」と立ち去って行かれて、ただそれだけなんだけど、これまた、この通りすがりのおじさんと、子供みたいに笑い合って、一瞬チカチカと何かが光るみたいに、お互いの気持ちがちょっとだけ通いあった、みたいな感じがしたのでした。

   ただそれだけ、それだけなんだけど、今の自分にはそういうことがいちばん大切なことのような気がしました。
    そして、これからの人生は、そういう小さいことこそを大事にしていきたいと思いました。

   また時々は、あんな風に誰かと子供みたいに笑いながら。