3月は「案山子」の季節だ。別れと旅立ちの3月~4月のこの頃には、多くの若者たちが故郷から都会へと出る。親子の旅立ちの名曲「案山子」は、さだまさしさんの作品。そのさださんが敬愛する日本のシンガーソングライターの元祖である加山雄三さん夫婦の体験には、全ての親が共感する。

 加山夫妻の長男が米国に旅立った。成田まで見送り帰りの車中は沈黙が続いた。気まずさからか、加山さんがラジオをつけた。そこに「案山子」が流れていた。ある歌詞の所で夫婦はグッときた。

「手紙が無理なら電話でもいい 金頼むの一言でもいい お前の笑顔を待ちわびるおふくろに聴かせてやってくれ」

 助手席の奥さんは号泣していた!

「案山子」は、「元気でいるか?街には慣れたか?友達できたか?寂しかないか?お金はあるか?今度いつ帰る?」からはじまる。加山さんのエピソードを知ってからしばらくして弾き語りライブで「案山子」をリクエストされた。歌本を見ながら歌い出した。それが途中から我が子のことを思い浮かべたら絶句してしまったことがある。歌詞が我が身に入り込み一体化したのだろう。以後、私はこの「案山子」は人前では歌わない迷曲になってしまった。

 朝日新聞「声」欄に長崎県の相川さんという同年の男性が先日亡くなった仲宗根美樹さんの「川は流れる」について書いていた。歌詞に「病葉」が出てくる。「病葉」とは、病気や害虫により変色した葉っぱのこと。昭和36年に発売されレコード大賞新人奨励賞の曲。笹舟や葉っぱを川に流して私たちは遊んだ。相川さんは「長い時を経て、悲しみや切なさなどの哀愁の情が込められ、忘れ去るために葉を川に浮かべている曲」だと捉えている。

 ドラマとしては二番煎じの「さよならマエストロ」で、指揮者が言う「音楽は人の心を救う!」には同感!「案山子」も「川は流れる」も、ある時季が来ると何故か沁みるのです。旅立ちの季節には、数多くの歌が人の心を揺さぶる気がします。