「舟唄」は、確かに八代亜紀さんの名曲だ。朝日新聞「天声人語」にもあるように、映画「駅・station」の名シーンに「舟唄」が出てくる。北の極寒にある小さな店に吹き荒ぶ風と雪の音に「あぶったイカがいい…」の歌詞がピタリと合う。歌だけでなく、絵画にも独特の味がある画家でもあった。歌手・八代亜紀ではなく、画家の八代亜紀さんは、おきゃんな女性だった。一つだけ今も覚えているのは「高校生の女の子からね、八代さんは歌も唄うんですか?と聞かれたの!私、歌手なのよ!」と答えてアハハと笑った。しばらく、歌手を休養していた時だった。だから、週刊誌も、歌手ではない、画家・八代亜紀として取材した。その後だったか、調布でのワンマンショーに招待された。

 私にとっての八代さんは「なみだ恋」がベスト!五木ひろしさんの後に、全日本歌謡選に出て10週勝ち抜きデビューした。それまで、銀座のクラブでジャズ系の歌をレパートリーにしていた。あの独特の歌唱法が、モノマネされたりして、唸り、絞り出す歌い方にハスキーな声が加わり、八代節が完成した。ただ、個人的には私の好みではなかった。デビュー時のさらり!と流す歌唱法が好みだった。「舟唄」は、当初、美空ひばりさん用として作られたかもしれないが、私は藤圭子の「舟唄」がベストです。北海道出身の彼女にこそピッタリだ。ただ、藤圭子が歌っても大ヒットしたかというとそれは分からない。

「駅・station」の脚本家・倉本さんも、たぶん藤圭子の「舟唄」は聴いたことがあったかもしれない。けど、オリジナル歌手を無視はできない。

 BSの八代亜紀さんの番組は見ることがなかった。何か、モノマネされた八代亜紀さんを本人が意識していた気がしたからだ。でも、歌心を持った肥後の女性だった。