ゆっくり行くものが遠くへ行く | カウンセリングかコーチングか|杉本良明(心理カウンセラー)

カウンセリングかコーチングか|杉本良明(心理カウンセラー)

カウンセリングもコーチングもその目的は結局、心が元気になることです。心を元気にする「うんちく」を書いています。


カウンセリングかコーチングか|杉本良明(心理カウンセラー)


私は若いころ、システムエンジニアをしていた。職場の上司はよく言ったものだ。

「仕事をやり終えた達成感はなにものにも代えがたい」


そうなんだ、と若かった私はこの上司を尊敬したものだった。


それ以降、私はいろいろな局面でそれなりに達成感を味わうことになる。しかし、達成感はほんの一瞬だ。結局、達成感というのは、今を犠牲にしてがんばった見返りに味わう一瞬の開放感に過ぎないというのがわかった。これは実に割りに合わない損な取引だ。


だから仕事は楽しんでやるべきだ。そうは思うのだが、技術についていくだけで精一杯、日々の生活では納期に追いまくられ、残業・休出は当たり前、それに加えてクレーム対応に悩まされる毎日に私は結構つかれ切っていた。その中で「婚活」までこなさなければならなかった。


現代の都会の生活とは、こんなもので似たり寄ったりだと思う。こういう前に前に追い立てられる原理をドロモロジーというというのだそうだ。ドロモスというのはギリシア語で、「前進・競争」という意味とのことである。


現代人はこのドロモロジーに支配されているのだ。今を楽しめずに夢うつつの人生を送っていると言えようか。


この対極がスローライフだ。のんびりと今を楽しんで今を積み上げていく。未来のために今を犠牲にするという発想が希薄なのだ。今だって後進国ほどスローライフだ。いや、世界の大半はスローライフだ。歴史的に見ても、産業革命で工業生産が始まるまではスローライフだったわけだ。


といって、現代都会人の私たちが過去に逆戻りしたり、後進国の真似はできない。しかし、時間に追い立てられることの異常性には気づくべきだ。今の生活で、もっと今をしっかり味わうべきなのだ。


その意味ではラテン系人々のありようはたいへん参考になる。たしかに仕事はいいかげんだ。しかし、彼らにとって今という時間は私たち日本人よりも豊饒だ。食事に時間をかけ、好色で、おしゃべりだ。じつに楽しそうに笑って陽気である。イタリアにこんなことわざがあるそうだ。


「ゆっくり行くものが遠くへ行く」


要は、今を楽しめば結果は自然とついてくるという考え方だが、うつで倒れないうちにしっかり身につけておくべきだ。つまり、


「先を急ぐものほど、どこへもたどり着かない」


からである。男性からみれば、今を楽しむスキルはずっと女性のほうが長けていると思う。女性はしぶとく長生きするが、男性は定年後に早々とあの世に行く人が多い。これは長年先を急いだ結果に違いない。