スタン・ケントン楽団が1953年に渡欧したとき、Lee Konitzは親分のケントン抜きで録音を残した。それは3枚の10吋で聴くことができる。
仏Vogue盤と英Vogue盤と米Royal Roost盤。この3枚に収録された演奏は同じ。でも実は1曲だけ違っていて、まずはそこから話を始めたい。
左の仏Vogue盤がオリジナルで、収録されたI'll Remember Aprilと、右の米Royal Roost盤に収録された同曲では音源が違っている。
仏Vogue盤はミディアム・テンポの演奏。
右の米Royal Roost盤に収録された演奏はこちら。
ずっと速いテンポで演奏されていて、甲乙つけがたい出来。Roostのプロデューサーの好みはこっちだったのでしょう。
LPで聴くには2枚必要ですが、CDでは両方入っているので非常にオトクになってます。LPと聴き比べると中域が細ってますけど、どの音源もユーチューブでは中域が細るようなので仕方ないかなと思います。CDの音も同様なのかどうか、持っていなくて比較できません。
コレクターなら絶対オリジナルLPでしょうけど、良いコンディションの盤が少ない。特に仏Vogue盤は良いものが少なくて難しい。何年もかかるでしょうけど、コレクターなら時間をかけて探すのを楽しんでください。
一方、再発盤とかCDは、マスターテープの経年劣化によって、多かれ少なかれ音質劣化してますけど、雑音がないし、容易に入手できる。『傷んだオリジナルを買うくらいなら、安くて雑音のない再発盤』というのが筆者の持論です。
この曲以外では、ジャズの定番曲、These Foolish ThingsとAll The Things You Areを題材として、全く違ったアドリブを展開している。うねるようなメロディラインと、よく分からない和声。パーカーとはまったく違っている。それでいて非常にキレ味が鋭い。
コニッツは唯一無二の存在で、アルト奏者はみんながパーカー一色に染まっていた時代に、独自路線で名を成した。他にはポールデスモンドくらいだろう、タイプは違うけど。
40年代から50年代前半まで素晴らしかったKonitzも、50年代後半以降になると、別人のように気だるい演奏になってしまう。コニッツは50年代前半まで。Pacific Jazz10吋, Storyville10吋, Prestige12吋など、どのレコードも素晴らしい。ダメなのはPrestige10吋青ラベルくらい。あれは雑音だらけで、演奏は素晴らしくても聴く気になれない。
ここからはコレクター的なお話。
英Vogue盤。タイトルはJazz Time Paris Vol.3 Lee Konitz Plays。
1面:JR-S-241、2面:JRS-260
1面と2面の手彫り刻印は字体が同じ。同じ人がカッティングしているようだ。
仏Vogue盤。Jazz Time Paris Vol.7 Lee Konitz Plays
オリジナルの仏Vogue盤。1面:MS-241、2面:JRS-260
2面は英盤と同じ。でも1面は字体が違っているので、別の人がカッティングしているようだ。
少なくとも2面は同じマザーディスクから作ったスタンパーが使われているから、英と仏で融通していたのだろう。でもオリジナル仏盤の1面が、別の人のカッティングというのは一体どうして?ひょっとして所有盤は再カッティングした盤なのか?
音質的には、少し仏盤の方が鮮度が高い。ただ大差ではなく、交互に聴き比べて感じる程度のわずかな差。
米Royal Roost盤。
1面:RLPM-231
2面:RLP-232
刻印の番号、字体とも違っていて、新にカッティングされている。ただ上掲の仏・英Vogue盤より1曲少ない。
そのぶん深くカッティングされていて、通常のRoyal Roostより音圧が高く、Royal Roost10吋につきものの雑音が少ない。CDをお持ちならI'll Remember Aprilの別テイクは聴けるけど、LP派のコレクターにはオススメできる。
英・仏Vogue盤とは曲名を変えた理由は分からないけど、I'll Remember Aprilは一聴の価値あり、と言えましょう。
以上をまとめると、オリジナルの仏Vogue盤が僅差で良い。でもコンディションが良いものが少ない。英Vogueは次点。米Royal Roost盤は別テイクを収録しているという点で、別物と捉えるのがよいでしょう。