「集まれ仲間達」
第五章・フクジュソウ
「おっはよー!」
元気な声が飛んできた。
「おっユウくん今日も元気だね」
「先生、クルミはどこ?」
「クルミちゃんまだだよ」
「えー遅いなー」
ここは(福寿草)という託児施設。朝7時30分出勤してきた北村彦太(職員)と、朝食のため出て来た島田優一(利用者)が話している。優一は昨日からこの施設に預けらている。
宿泊施設と共同施設とは、お庭を囲んで直角になっている。食堂へ行くにはいったん外にでなければならない。5月とはいえ小雨が降る肌寒い朝だ。ところが優一は半袖1枚だ。
「ユウくん寒くないか?」
「ううん平気!」
「そっか。さすが小学生。でも何か着た方がいいよ。濡れちゃうぞ」
「じゃーさー、食堂行けばいいじゃん」
と彦太の手を引っ張る。優一の手はひんやりしている。少し心配だが、仕方なく食堂へ向かった。
「あっ、ユウくんやないか!ここに泊まってるのか?」
朝食を済ませ外に出ると、上級生の茂が立っていた。ジャンバーを羽織っているが寒そうだ。
「そうだよ。茂くんも?」
「僕はちょっと寄っただけだよ。クルミちゃん一緒なんだろ?」
優一とクルミはいつも一緒の仲良し双子である。
「うん一緒だよ。荷物取りに行った」
「ユウくん今日は雨だぞ。寒くないか?」
「ほーらねお兄さんも心配してるよ。上着着な」
たまたま通りかかかった彦太が口を挟んだ。
「わかったよ。持ってくるよ」
優一は部屋へ走って行った。その後ろ姿が消えると、彦太は茂に向き直った。
「やあ茂くん元気か」
「はい元気です。ユウくんどうして止まってるんですか?」
ユウくんとクルミちゃんの両親は出張中なんだよ。昨日から泊まってる。ところで学校はどうだい?」
「楽しいです。卒業したくないくらい」
「そっか。もう6年生だもんな」
二人が話していると、クルミが戻って来た。
「あっ茂さん、北村先生、おはようございます。お兄ちゃんは?」
クルミは双子の優一より、大人っぽく見える。それなのにお兄ちゃんと呼んでいる。
「ユウくんは荷物取りに行ったよ」
「クルミちゃん大きくなったなー」
茂はじーっとクルミを見て、話しなど聴いていない。
「そうかなー。まだまだ子供よ。お留守番出来ないもんね」
「それでも大人だよ。ユウくんよりね」!
彦太は皮肉っぽくそう付け加えた。
「でもどうしてお兄ちゃんなの?双子でしょ?」
「小さい時からそう呼んでますから。理由はわかりません」
「そっか。あの子が呼ばせたんだろう?」
言ってからしまったと思った。優一が走って来たからだ。
「お待たせ!これならいいでしょ?」
半袖の上にジャンバーを羽織ってきた。
「じゃあ行こっか」
それぞれ傘を持ち出掛けて行った。
つづく....