知財高判平成19年9月12日・平成19年(行ケ)第10007号審決取消請求事件
(燃料電池用シール材の形成方法)
4 相違点の容易想到性についての本判決の判断
本判決は、①セパレータとしてのカーボングラファイト製のものが周知慣用であり、作業性に関する課題が「金属製」のものと共通であるとしても、②相違点1に係る本件訂正発明1の構成は当業者が容易に想到することができるものではないとして、それが容易想到であるした審決の判断は誤りであるとして審決を取り消している。相違点1に係る本件訂正発明1の構成が容易想到ではないと本判決が判断する理由は、以下のとおりである。
① 引用例である刊行物1には、射出成形を前提とするものであること、その射出成形は金属製のセパレータを使用するものであること、その金属薄板の厚さは0.1~2.0mmの範囲のものが好適とされるが、実施例ではセパレータの厚さとして0.3mmのものが開示されていること、射出成形の条件は射出圧300kgf/cm2、金型温度160度であることからなる発明が開示されている。
② 特開平1-25570号公報には、「カーボン材は機械的強度が低いため、ハンドリングあるいは組立圧縮時には往々として破損する自体が発生する。近時抵抗およびスタック厚みの低下を図るため電極基材は2mm程度、セパレータ板は0.8~1.0mmmまで薄肉化が進んでいる関係で、破損の度合は一層増加する傾向にある。」と記載されている。
特開平8-162145号公報には、「従来の固体高分子電解質型電池にあってはカーボンからなるセパレータ板は機械的に脆弱であるためスタックを形成して締めつけ板10と締めつけボルト11を用いて単電池とセパレータ板を締めつけときにセパレータ板に亀裂が発生し易く反応ガスがリークし易いという問題があった、そこでセパレータ板を金属材料で構成しようとすると軽量かつコンパクトな構造を達成するためには曲げ剛性の小さい金属を使用しなければならず、高い寸法精度の加工が困難となり、加工工数が増大して製造コストが増大するという問題があった。」と記載されている。
特開平11-126620号公報には、「緻密カーボングラファイトにて構成されるセパレータは、集電性能が高く、かつ長時間の使用によっても高い集電性能が維持されることから集電性能の観点からは優れたセパレータということができる。しかしながら、セパレータの電極に対向する面には、ガス通路を形成するための通路形成性能を付与すべく多数の突起部、溝部等が形成される。しかし、緻密カーボングラファイトは脆い材料であることから、セパレータの表面に多数の突起部や溝部を形成すべく切削加工等を施すことは容易ではなく、加工コストが高くなるとともに量産が困難であるという問題がある。」と記載されている。
③ 「以上の各記載を総合すると、カーボン材は脆く機械的強度が低いため、カーボンからなる燃料電池用セパレータは、破損し易いものであるために、加工コストが高くなるとともに量産が困難であると認識されていたといえる。
そして、引用発明のセパレータは、厚さ0.3mm程度の金属材料を使用し、それに対して射出成形を施すことを前提とし、その条件も「300kgf/cm2」といった高圧で射出材料が金型内に射出されるものであること、他方、カーボンからなる燃料電池セパレータ用は、破損し易いものであると認識されていたことからすれば、当業者にとって、カーボン材からなるカーボングラファイトを射出成形装置に適用した場合には、カーボンが有する機械的な脆弱性によって破損するおそれが大きいと予測されていたものと解される。
したがって、引用発明の射出成形による成形一体化工程において、金属製セパレータに代えてカーボングラファイト製セパレータを射出成形装置に用いることには、技術的な阻害要因があったというべきである。」