知財高判平成24年7月17日・平成23年(行ケ)第10098号審決取消請求事件
          (「ストロボスコープを使った入力システムを備える情報処理装置」事件)

 

4 本願発明に進歩性が肯定される理由
  (1) 「動機づけの有無による進歩性の有無の判断」と本願発明が主引用発明と相違する類型
    ア 3(2)において述べたとおり、「動機づけの有無による進歩性の有無の判断」においては、
          ① 本願発明の構成と主引用発明の構成とを対比して本願発明と主引用発明との一致点と相違点とを認定したうえで(ステップ3)、
          ② 主引用例又は副引用例に「相違点に係る主引用発明の構成」に「相違点に係る副引用発明の構成」を適用すると、本願発明と主引用発明との相違点が解消されて本願発明に到達できる旨の示唆がない場合には、「相違点に係る本願発明の構成」が容易想到であるかどうかは「相違点に係る主引用発明の構成」と「相違点に係る副引用発明の構成」とに課題の共通性や作用・機能の共通性があるかどうかによって判断される(ステップ7)。
       そして、本願発明の構成と主引用発明の構成とを対比すると、この場合に本願発明の構成が主引用発明の構成と相違する態様には、次の3つの類型がある。
          ① 本願発明の構成が主引用発明の構成にある特定の構成(下記の例示では、構成B)を付加したものであることによって、本願発明が主引用発明と相違する類型(要件付加型)
                本願発明 =A+B+C+D
                主引用発明=A  +C+D
          ② 本願発明の構成のうちのある特定の構成(下記の例示では、構成B)がこれに対応する主引用発明の構成のうちのある特定の構成(下記の例示では、構成Q)と相違することによって、本願発明が主引用発明と相違する類型(要件置換型)
                本願発明 =A+B+C+D
                主引用発明=A+Q+C+D
          ③ 本願発明の構成のうちのある特定の構成(下記の例示では、構成B)がこれに対応する主引用発明の構成のうちの特定の構成(下記の例示では、構成B’)を限定したものであることによって、本願発明が主引用発明と相違する類型(要件限定型)
                本願発明 =A+B+C+D
                主引用発明=A+B’+C+D
    イ 「動機づけの有無による進歩性の有無の判断」においては、本願発明の進歩性の有無が判断されるのは、「相違点に係る副引用発明の構成」が「相違点に係る本願発明の構成」と同一である場合に限られる(「相違点に係る副引用発明の構成」が「相違点に係る本願発明の構成」と同一でなければ、「相違点に係る本願発明の構成」と同一の構成を有する副引用発明が存在しないから、「動機づけの有無による進歩性の有無の判断」のステップ7における判断をするまでもなく、本願発明の進歩性は肯定される。)。
       そして、本願発明が主引用発明と相違する態様が「要件置換型」である場合には、「相違点に係る主引用発明の構成」と「相違点に係る本願発明の構成」とは対応関係にあるから、「相違点に係る副引用発明の構成」が「相違点に係る本願発明の構成」と同一であることによって、「相違点に係る主引用発明の構成」と「相違点に係る副引用発明の構成」とも対応関係にある。したがって、本願発明が主引用発明と相違する態様が「要件置換型」である場合には、「相違点に係る主引用発明の構成」の課題や作用・機能と「相違点に係る副引用発明の構成」の課題や作用・機能とを対比して両者が同一であるかどうかを判断することができる。したがって、両者が同一である場合には、主引用発明において「相違点に係る主引用発明の構成」を「相違点に係る副引用発明の構成」に置換することを着想する契機があるから、「相違点に係る本願発明の構成」は容易に想到することができるということができ、そうでなければ、そのように置換することを着想する契機がないから、「相違点に係る本願発明の構成」は容易に想到することができないと判断される。。
    ウ ところが、本願発明が主引用発明と相違する態様が「要件付加型」である場合にあっては、主引用発明には「相違点に係る本願発明の構成」に対応する構成は存在しない。したがって、主引用発明には「相違点に係る本願発明の構成」の同一の構成である「相違点に係る副引用発明の構成」に対応する構成は存在しない。したがって、本願発明が主引用発明と相違する態様が「要件付加型」である場合には、それが「要件置換型」である場合とは異なり、対応関係にある2つの構成の課題や作用・機能を対比することはできないし、主引用発明にない構成の課題や作用・機能が「相違点に係る副引用発明の構成」の課題や作用・機能と同一であることはありえない。したがって、主引用発明の構成に「相違点に係る副引用発明の構成」を付加することを着想する契機がないから、「相違点に係る本願発明の構成」は容易に想到することはできないと判断される。
       ただし、本願発明が主引用発明と相違する態様が「要件付加型」である場合にあっても、判例法は、例外的に、以下の各場合には、主引用発明の構成に「相違点に係る副引用発明の構成」を付加することを着想する契機があるとして「相違点に係る本願発明の構成」は容易想到であることを認めている。
          ① 「相違点に係る本願発明の構成」の課題が自明の技術的課題である場合
          ② 「相違点に係る本願発明の構成」の課題が常に求められる技術的課題である場合
          ③ 「相違点に係る本願発明の構成」の課題が主引用発明に当然に内在する技術的課題である場合
          ④ 「相違点に係る本願発明の構成」の課題が周知の技術的課題である場合
    エ 本件本願発明と本件主引用発明とは、2(2)イにおいて述べたとおり、
           撮影される対象物が、
           本件本願発明では、「再帰反射体を含む」のに対して(相違点に係る本件本願発明の構成)、
           刊行物1記載の発明では、再帰反射体を含まない点(相違点に係る本件主引用発明の構成)。
      で相違する。すなわち、本件本願発明は「再帰反射体を含む」との構成を有しているのに対して、本件主引用発明は「再帰反射体を含む」との構成を有していない。したがって、本件本願発明が本件主引用発明と相違する態様は、「要件付加型」である。
       そうすると、「相違点に係る本願発明の構成」が容易想到であるということができるのは、ウで述べた主引用発明の構成に「相違点に係る副引用発明の構成」を付加することを着想する契機があると認められる場合である①ないし④のいずれかの場合に限られる。
       そして、「相違点に係る本件本願発明の構成」である「対象物に再帰反射体を設ける」という構成の課題や作用・機能は、「光源から入射した光を、この光源に完全に一致する方向、及び光源の近傍周囲の方向に反射させる」(判示①)ことであるから、「相違点に係る本件本願発明の構成」のかかる課題が自明の技術的課題であるとか、常に求められる技術的課題であるとか、あるいは本件主引用発明に内在する課題であるとはいえない。また、本件訴訟においては、それが周知の技術的課題であるとの主張や立証は行われていない。
       したがって、「相違点に係る本件本願発明の構成」は、「動機づけの有無による進歩性の有無の判断」において容易想到ではないと結論することができる。
       換言すれば、「動機づけの有無による進歩性の有無の判断」をすることなく、直ちに「阻害要因の有無による進歩性の有無の判断」を行って「阻害要因」を理由として本件本願発明に進歩性があると判断しなければならない必然性を見出すことはできない。