この話はノンフィクションである

 

私が形成外科時代、かれこれ10年近く前の話だ。

トップの写真は本題とは全く関係がありません。ちょうど、この時代の話だということです笑

登場人物は本人だが、仮名にしているのと多少の装飾をつけています。個人情報ですので

 

糖尿病のHさんは60歳くらいの女性である

体重が100kg近くある大きな体であった

インスリンの治療を行っていたが、食事制限などあまり守れていなく、血糖値の状態はあまり良くなかった(医学的にコントロールが悪いと言います)

 

Hさんは足が腐ったいうことで形成外科に受診した

担当となったのは私である

明らかに足が感染・壊死していた(これを糖尿病性足壊疽と言います)

 

糖尿病は、細い血管が詰まりやすい

足の血管が詰まる→血流が悪い→ちょっとした傷で足が感染する→腐る

といった状況になりやすい


さらに糖尿病は足など体の末梢部位の感覚が鈍くなり、感染しても異常を感じにくいので、かなりひどい状況になってから病院を受診する

 

Hさんは足先が壊死していたのと、血糖値が500ぐらい(記憶によると)でそのまま入院となった

確か糖尿病内科で入院し、私は足の状況のみ診ていたと思う

 

足の治療としては、壊死している部分を切除(これをデブリと言います)する

ひどい場合は膝下・上で足を切断することもあるが、幸いそこまでひどくなかったので、デブリを日々行う方針とした

 

しかしデブリは痛い

軽い麻酔か無麻酔で腐った箇所を切り取るのである

腐っている部分は切っても出血しない

出血する部位まで切り取るのだ


一回に全ての腐った部位をデブリすることはできないので、毎日のようにデブリ(と洗浄)を行いに、糖尿病内科の病棟に出向いた

 

毎日のように痛いデブリを行うので、

Hさんから私は『鬼医者』と言われていた

 

Hさんは明るい性格で声も大きく、鬼医者と言いながらもよく笑っていた

「今日も鬼医者が来たぞー」っと


バーのママ的なキャラで病棟のナースからも少しクセがあるけど(時々毒を吐くので笑)、慕われていたと思う

 

Hさんに旦那さんがいて、

旦那さんはよくお見舞いに来ていた


旦那さんは口数が少なく、旦那さんも時折発する言葉に毒がありちょっと変わった人だと思っていた


旦那さんはイケメンで、無口なイケオジという印象だった

頻回にHさんの言うことを聞き(Hさんがかなり旦那さんに無茶振りをするのだが、旦那さんは「はいはい」って言いながら無茶振りに答えていた)

すごく良い旦那さんと病棟のナースより有名だった

 

ものすごく失礼な話だが、

モテそうなイケオジと体重が100kg弱の大きな女性。しかも口が悪い(Hさん、ごめんなさい)

なんだが不釣り合いに感じた

 

 

主治医は糖尿病内科の医師で私は足の担当医であり、足の改善により私のHさんの回診は減ってきた


良いことなのだが、私にHさんに

「最近あなた、あまり来ないじゃない。もっと顔見せに来なさいよ!」と言われた

そんなお茶目なHさんであった

 

足は完全に治り、私の回診は無くなった

時折、言われた通り顔を見せに行ったが、少なくとも頻回にHさんの病棟に足を運ぶことは無くなった

 

Hさんは血糖値のコントロールの悪さからくる、心臓だか何かが悪く合併症に悩まされいた

次第に状態が悪くなってきて、しまいにはあまり話さなくなほど衰弱してしまった

 

ある日、Hさんの病状はかなり悪くなり昏睡状態になったと噂に聞いた


なんとなく、Hさんの入院する病棟に顔を出すと主治医から

「Hさんは持ってあと数日だ」

と聞いた

意識があるうちにHさんに顔出せなかったとやや後悔した

 

病棟を去ろうとした時に旦那さんに引き止められた「先生ちょっと時間もらえませんか」と

 

旦那さん 「実は私は若い時、芸能関係の仕事をしていたんだ」

「そうだったんですね」だからイケメンなのかと感じた

旦那さん 「あまり成功していなくて生活に困っていた。その時に助けてくれたのが妻であるHさんなんだ」

「なるほど」

旦那さん 「妻はあんなだけど…口は悪いけど・・・根はいいやつなんだ。私は感謝しているし愛している」

「・・・」

旦那さん 「先生ありがとう」

 

Hさんのその夜、息を引き取った

 

 

 

形成外科は命を助ける治療は少ない

はっきり言って生死を左右する場面はほとんどない

そんな私にとって、とても印象深いHさんと旦那さんだった

 

保険診療では美容とは全く異なった経験が得られる

保険診療時代はかなり大変な場面やストレスも多かったが、良い経験も沢山積んだ


研修医生活が終わり、いきなり美容外科に進んだ医師はこういった保険診療ならではの経験がないだろう

 

この経験が何に活かさせるのかわからないが、人間性が広くなるのではないか?!

特に医療業界は閉鎖的であり、一般社会とはかけ離れた生活で常識というものが異なっている

技術云々だけでなく、心意気として保険診療を行った方が良いのではないかと思う今日この頃である

 

Hさんご冥福をお祈りいたします