水曜日の夜に大統領選最終討論会が開かれました(今は金曜日)。

トランプが巻き返しを図れるかに注目が集まっていました。

 

過去の2回の討論会よりは、かなり討論会らしく、様々な問題(Issue)について議論が交わされた印象です。特に真新しい政策や見方が披露されたわけではありませんが、これまでの討論会では脱線しすぎて政策についての話がなかなか聞けなかったことに比べると、今回は有権者もそれなりにそれぞれの候補者の立場を再確認することはできたのではないでしょうか。

 

最初の議題は最高裁判事にどのような人を任命するか。

日本人にはなじみがありませんが、アメリカは大統領が最高裁判事を任命する権限があるため、選ばれる判事の資質によって、国民の関心が高い妊娠中絶や銃規制の方向性が大きく変わることになるからです。

基本的方向性は

共和党=中絶禁止、銃規制禁止

民主党=中絶容認、銃規制賛成

です。

今回の討論でも主にこの2点が議論となりました。

ヒラリーは従来通り、中絶容認。中絶という最も女性やその家族にとって苦しい決断をする際に政府が介入してはならない、という考えを繰り返しました。

トランプは中絶のように残酷な(特に後期中絶については赤ちゃんを子宮から取り出して引き裂く残酷なもの)ことは受け入れられない、と。過去に最高裁で結審した中絶する権利を認める判決を取り消し、中絶の可否については各州が決められるように差し戻す、とまで踏み込みました。

実はこの言い分、過去の共和党大統領候補者でもなかなかここまでは踏み込まなかったもの。

個人的意見ですが、トランプにとってはこの問題はどうでもよく、保守派キリスト教徒(福音派、Evangelicals)と呼ばれている人たちの票を得るためと思っています。コアなキリスト教徒にとっては、中絶禁止は絶対に譲れない問題なので、トランプは大嫌いだけど、この中絶問題一点でトランプを支持する、という人がたくさんいます。CNNでは福音主義派のリーダーが「今回の選挙は最高裁判事についての選挙だから、鼻をつまんで投票しよう(Hold your nose and vote」とインタビューに答えていました。

とにかく、トランプはこの問題については一番強硬な、そしてヒラリーは一番リベラルな見方を示したので、この問題を重視している人たちの票は固まったでしょう。

 

次に移民の問題。

アメリカにはなんと1千百万人もの不法移民(Undocumented Immigrants)がいます。

東京都の人口が約1千3百万ですから、規模を考えると相当です。

トランプの基本方針は全員強制送還。彼らはドラッグを持ち込む悪い奴らだから。

ヒラリーはそれは現実的に無理だと。家族を引き裂く強制送還よりも、不法移民に合法移民になる道を作り、彼らがきちんと最低賃金をもらい、税金を払えるようにする、そのほうが不法に安く移民を働かせて、現地人の職が奪われてしまう、という事態も解消する、という主張です。

トランプはそれはきちんとビザを申請している人たちに対して不公平だと。

ま、それもまた一理。

でもね、個人的には1千百万人の経済効果ってすごい(いくら彼らが貧乏でも)と思うし、アメリカ人は不動産価格が上がり続けると信じてある意味贅沢な暮らしをしているけど、それはひとえにこれらの移民による人口増加のおかげ。そこを理解せずに移民をDemonize、悪者扱いするのはいかがかといつも思います。

 

その後外交問題や経済の問題が話し合われました。

 

経済については、トランプはアメリカが1%しか成長しないなんてありえない。俺は大減税をして、45%くらい成長させる、と。ヒラリーになったら大増税だぞ!と。

司会者から、「経済専門家は提案されている政策には根拠がない、と言っていますが」と振られても意に介さず。

ヒラリーは富裕層には増税、中間層には増税しないと約束。

トランプはヒラリーになったら大増税!と繰り返す。

移民政策についてもヒラリーは「Open Border!」、経済では「Double tax!」とにかく一言でのレッテル貼の上手なトランプです。

 

その他の議題は割愛しますが、その後大問題となったのがこの発言。

「他の候補者が大統領になった場合に、その結果を受け入れますか?」

ヒラリーはもちろん。

トランプは「結果をみてから考える。それまでハラハラさせてやる」と。

いろんなメディアに書かれていますが、この発言は大問題。

民主主義において、選挙によって示された民意による平和的な権力の移行(政権交代)は絶対条件。選挙結果に従うことが民意に従うことなのであり、選挙結果を尊重するという大前提がなければ選挙をする意味がなく、それがなされなければクーデターと同じになってしまう、武力によって政権をとる時代に逆戻りしてしまう。討論会の翌日にトランプは「自分が勝てば、結果を受け入れる。選挙結果に異議申し立てをする権利は留保する」と言っています。異議申し立ての権利は結構だと思いますが、これまでの経緯で暴力を示唆するトーンがあり受け入れられがたい。

トランプはこれまでも支持者に対してヒラリー暗殺の奨励?をほのめかすような発言をしたり、前回の討論会でもヒラリーを刑務所に送ると言ったり。そもそも、選挙期間中、ずっと「自分が大統領になればすべてを変えられる」というトーンです。

憲法、法の支配、民主主義、三権分立、これらはすべて、よくも悪くも、一人の権力者が急激な変革、暴走をできないようにする仕組み。近代社会が数々の流血、戦争を繰り返しながら作りあげてきたこの仕組みに対するRespectが彼にはないように思えてなりません。

 

ただ、このような放言、暴言、数々のスキャンダルを経ても、まだ34割の国民がトランプを支持していることを思うと、やはり民主主義は決して完全なシステムではないと考えさせられます。

 

大変長くなってしまいました。

まだまだ書きたいことはたくさんありますが、また後日。