今日は、コロナとはまるで関係のない「クマ」さんのお話。

 

でも、この報道と、それにぶら下がるコメントが、「珍コロ騒動」とまったく同じ図式なので、警告の意味も込めて記事を書きます。

 

で、問題の記事がこれ。

 

 

秋田の山中に、ヒグマとツキノワグマの危険な「ハイブリッド種(交雑種)」が潜んでいるのではないか? という内容。

 

ご記憶のある方もいらっしゃるかもしれませんが、2012年の春先に、秋田県鹿角市にあった「八幡平クマ牧場」で凄惨な事件が発生しました。

ずさんな経営のせいで、飼育場から逃げ出したヒグマが女性飼育員2人を襲い、死亡させてしまったのです。

このとき、ヒグマの1頭が山中に逃亡し、生息しているツキノワグマとの間に子供をもうけたのでは、という記者の憶測が書かれています。

 

 

先に「正解」を言っちゃうと、

 

絶対にあり得ません!

 

ヒグマとツキノワグマは、生物分類上、どちらも「クマ科・クマ属」ですが、異なる「種」(ヒグマはヒグマ種、ツキノワグマはツキノワグマ種)に属するため、交配ができないからです。

 

詳しく解説する前に、クマに関する基礎知識から述べたいと思います。

 

現在、地球上には8種類のクマが存在します。

 

・ホッキョクグマ

・ヒグマ

・ツキノワグマ

・アメリカクロクマ

・マレーグマ

・ナマケグマ

・メガネグマ

 

そして、皆さん大好きなジャイアントパンダの全8種類。

ちなみに、レッサーパンダのほうは、風貌から同じ「パンダ」とつきますが、クマではなくイタチの仲間です。

 

DNA解析で、それぞれの種がどういう道筋をたどって進化してきたかはわかっています。

ヒグマとツキノワグマが割と早い時期に分化したことも。

 

ツキノワグマはマレーグマの系統で、日本列島には南から上がってきました。

ヒグマはロシア経由で、列島には北から下ってきました。

 

いったん分化した種が再び交雑することはありません。

これは、種の絶滅を避けるためにDNAの多様性を保持し、均質化を防ぐ自然の摂理だと考えられます。

 

現在、北米で、ホッキョクグマとグリズリー(ヒグマの亜種)の「ハイブリッド(交雑種)」が誕生していることが知られています。

ホッキョクグマとヒグマも「種」は異なるのですが、分化したのが近い時期のため、いまだ「近縁種」であり、交雑可能なようです。

 

ハイブリッド種の特徴として、2つの特徴が挙げられます。

 

・両親より体が大きくなる

・著しく生殖能力に欠ける

 

ほとんどの場合、ハイブリッド種が誕生しても1代限りでおしまい。子孫を残せずに途絶えてしまいます。

 

以上は、生物学を勉強した人なら誰でも知っていることなのですが、この記事が「珍コロ騒動」とそっくり同じパターンを踏襲しているのです。

 

「地元の山をよく知る男性」や「猟友会の人間」と聞くと、一般人は勝手に「クマの専門家」と誤解してしています。

「実際にクマを狩っているハンターなら、クマのプロフェッショナルに違いない」と思っても仕方ありません。

そんな地元民が、「ツキノワグマにしてはでかくて狂暴な赤毛がいる。ヒグマとのハイブリッドではないか?」と述べようものなら、たちまち「事実」として広まってしまうおそれがあります。

 

でも、待って。

彼らは、学術的にクマについて学んだ「本物の専門家」ではありません。

語弊を恐れずに言うなら、「経験的にクマの生態を知っている」というだけの話です。

 

生物種としてのクマをきちんと学んだ人間なら、ハイブリッドなどあり得ないことを承知しているので、そもそも「ヒグマとの交雑」など頭に浮かびもしません。そうしたSF的発想をしてしまうこと自体、クマのことを何も知らない証明なのです。

 

……この図式、何かに似ていませんか?

そう、ウィルスに関しては何も知らない臨床医が、専門家面して珍コロについて語っていたのとまったく同じ。

それを「本物の専門家」に取材することもなく、ただ恐怖をあおるために(売上げ稼ぎに)ショッキングなニュースに仕立て上げるメディアというのも、既視感のある光景です。

 

また、八幡平クマ牧場で飼育(あるいは飼育放棄)されていたヒグマが6頭で、全頭殺処分されたこともちゃんと記録が残っているのですが、架空のハイブリッドグマを生み出すのに「本州に野生のヒグマはいない」という事実とそごが生じてしまうので、「実は逃げ出して捕まっていないヒグマがいる」というウソまで捏造する悪質さ。

危険なクマを1頭取り逃がしておきながら、行政や警察が放っておくはずないでしょうが。

 

YouTubeに動画まで上げている不逞の輩がいるようですが、収益狙いのデマ情報を取り締まるというなら、真っ先にこういうのに手をつけなきゃいかんでしょう。

日本フェイクセンターは何をしているのでしょう。スポンサーから小遣いもらわなきゃ、いっさい仕事をしないつもりなのでしょうか。大したご身分だこと。

 

さて、上記の記事には、こんなコメントがついていました。

 

『やっぱり…。 「スーパーK」のときに、クマ牧場から脱走したヒグマでは?と思い、ヤフコメにその旨アップしたが、フルボッコに遭いました。 でも、クマ牧場事件のときに、映し出されました映像には、飼育されていたところに棄てられた雪がかなり高くなっていて、柵を乗り越えられるくらいの状態だった。 だから、その柵を乗り越えたヒグマが飼育員を襲ったのだし、餌代にも窮していた施設で共食いさせて絶命させようとしていたくらいだから、頭数を正確に把握していたわけではない。 その襲われた飼育員ほか従業員が毎日牧場に来ていたわけでもないようだから、いないときに脱走したってわからない。 これ、ヤバいんじゃないの?』

 

やはり生物学の知識のない人が、思いつき(妄想?)だけでコメントし、それに6000件もの「共感した/なるほど」がついているのです。あな恐ろしや。

 

自分だけで「思いつく」のは、いっこうに構いません。でも、コメントする前に、ちょっとぐらいググってみたらどうですか? おのれの無知をさらけ出すだけですよ。

ちょっとウィキを見るだけで、ハイブリッドなんてSFかファンタジーだとわかるはずなのですがね。

まあ、この手の人間は、一度思い込んだが最後、猪突猛進の直情径行で、人の忠告にはいっさい耳を貸さないタイプなので、どうしようもありません。

 

 

決して本物ではない、マスコミがでっち上げた「専門家」の何ら科学的根拠のない「妄想」に、知識のかけらもない一般人が大勢ぶら下がって大騒ぎ。

「珍コロ騒動」から何も学んでいない人間の愚かさときたら。

 

クマの学習能力のほうが高いかもしれませんね。