両親は心配して何度もドアを叩いたけど無視した。
布団の隙間から外を覗く度に、
細長いスーツ姿が見え、布団をかぶり直した。
尿意にも空腹感にも我慢して布団をかぶっているうちに、
私は眠ってしまったらしい。
汗で湿った布団の中で目覚めると、
背中に重みを感じた。
おそるおそる布団を覗くと、
ベッドに腰掛けているスーツのズボンが見えた。
部屋は薄暗かったが、それでも見上げた先の
彼の白い顔は分かった。
すぐに目を反らすと、長い腕がどこに伸ばしているのかが見えた。
大きな手が私の背中を撫でていた。
布団越しにその手に触れられているのが気持ち悪くて、
身を強ばらせた。
すると彼は撫でる手を止め、私の手の甲に伸ばした。
もっとひどいことをする気じゃないかと思った。
しかし長い指先を、私の手の上で動かすだけだった。
何かを書いているようだと言うことに気付き、
指先の動きを見つめた。
それは「ごめんなさい」の書き順を、幾度も繰り返していた。
「何がごめんなさいなの?」
私は腹が立った。
勝手に追いかけて部屋の中にまで入ってくるなんて、
なんて失礼な奴なんだ。
「触らないでよ!」
私は彼の手を払いのけた。
彼は払われた手ともう一方の手で、
自分の顔を覆った。
嗚咽は聞こえないが、肩は震えていた。
泣いているようだった。
「えっと、ごめん。」
私も思わず謝ってしまった。
すると彼は右手を振って、
私の頭をぽんぽんとなでて布団をかぶせた。
「わっ何!?」
驚いて布団をのけると、
彼は部屋から消えていた。
私と彼が再会するのは、
それから10年後のことだった。








