雨の降る夜でした。
バスの窓を、雨粒が流れていました。
オルの隣には、スーツを着た男の人が座っていました。少しお酒が入っているようでした。
男の人は、足元に置いたビニール傘をじっと見ていました。
しばらくして、ぽつりと言いました。
「変だよなあ。」
オルは黙っていました。
男の人は続けました。
「昔はさ。ビニール傘なんて嫌だったんだ。」
窓の外では、街の灯りが流れていきました。
「安っぽいし。すぐ壊れるし。誰かに持っていかれるし。」
男の人は笑いました。
「ちゃんとした傘が欲しかったんだよ。」
バスが揺れました。雨は降り続いていました。
「若いころはさ。ちゃんとした人生も欲しかった。」
男の人は窓の外を見ました。
「立派な仕事とか。立派な肩書とか。立派な何か。そんなものばかり追いかけてた。」
男の人は少し黙りました。
「でもなあ。」
そう言って、足元の傘を持ち上げました。
骨は少し曲がっていました。透明だったビニールは、少し黄ばんでいました。持ち手にも傷がありました。
☔ オル #21「雨の日の傘のおはなし」、いよいよ最終話になりました。
よろしければ続きを読んでみてくださいね。

