濡れた傘がタコの吸盤の様に張り付いて来る満員電車

箱舟は休日の記憶に霞をかけて流れる

窓に映る人達だけで今日を過ごせと云うのなら

皆でいっそのこと、無人島にでも行ってみたいなと思わせてくれる

そんな現実逃避か願望かを精査している内に

誰かの吐いた溜息が連鎖する空気に呑まれてしまう

他人の足を踏まないように細心の注意を払いながら

歯車を少しずつ嚙み合わせていくのであった

 

目的地に辿り着いた電車は名前を変えて立ち去る

その点、人間は恵まれているなと実感しつつ

喧騒の中に静かに消えて行く

私は急に「いただきます」という大きな声を聴いた

都会が馬鹿でかい怪獣の様な口を開けている

来月流行する音楽を奏でながら、私は食べられてしまった

 

転げ落ちた世界は意外にも明るく、温度は少し低め

至る所に太陽の絵画が飾られている

絵画を外すと、奪い取られた、「寂しさ」と云う名の奴だ

落書きをしてみると、頭を叩かれた、「怒り」と云う名の奴だ

一緒に絵を描いてみると、誉められた、「喜び」と云う名の奴だ

回転寿司のレールに並べられた、希望と絶望を食しながら

流れるはずの涙が蒸発していくのを観察した

 

昨日行った水族館のタコにはしゃぐ子供の感情を

あぐねるタコの足が都会の形相だ

私のひ弱な内臓で潜った深海に住むタコは

この世界の光を未だに知らない

(知らないから美しいのかもしれない)