前回から続く。

 

 

1月5日の仕事初めの朝、原付バイクに轢かれるという事故にあった。事故現場を離れる際、救急車の中で警察官からメモ書きを貰っていた。内容は、とりあえず診察などが落ち着いたら一度連絡をするようにというものである。そして現場に来た警察官の名前と事故の担当者、警察署の連絡先や事故に遭った際の対応手順なども書かれていた。

 

事故の当日、折れた歯の治療のために行った歯医者から帰宅したタイミングで、そのメモの事を思い出した。なのですぐに警察署に連絡することにした。担当者につながると、まずは怪我の状況を聞かれた。診察の結果を淡々と伝えると、動けるようになったら警察署まで調書を取りき来てほしいという内容だった。そして、気になる情報も貰った。事故の相手の連絡先である。現場では誠意を持って対応しますと言っていたそうだ。今日か明日には連絡があるだろうとのことだったので、その番号から着信があったら出るようにと言われた。

 

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翌日、救急搬送された病院の予約を取っていたので向かうことにする。妻が仕事を休んで送迎してくれることになった。10時30分の予約にちょうどの時間で到着すると、妻はいったん帰宅することにする。診察の時間が読めないので、おそらく結構な時間がかかるだろうと予想したからである。そしてその予想はしっかり当たった。

 

待合室で松葉杖を椅子に立てかけ、曲がらない膝を投げ出していると結構場所をとってしまう。午前中の診察時間は男女の大先輩方が大勢いる。車いすを使う人や脚の怪我をしている人も多いので、できるだけ邪魔にならない場所を選んで診察を待った。1時間ほど待つと私の番号が呼ばれたので診察室に入る。

 

若い男の先生がニッコリ笑いながら状況について質問してきた。事故に遭ったことと、膝が非常に痛い事、息子が3か月前にした怪我の状況と非常に似ていることを丁寧に説明した。ベッドに横になるよう言われたのでその通りにすると、触診が始まった。曲げてみたり捻ってみたりと丁寧な診察なのだが何をやっても痛い。

 

「痛くてこれ以上曲がりません。イテッ、そこも痛いです。」

 

そんな返事くらいしかできないのだが、先生は、うんうんと頷きながら何かを決めたようだった。

 

『MRIを撮りましょう。今日は撮影だけで診察は来週、専門の先生に診てもらいます。もしかしたら前十字靭帯をやってるかもしれないですね。もしそうだったら手術になります。』

 

マジか。サッカーをやっている息子ならまだしも、私が前十字靭帯をやるなんて。そんなことを頭の中で考えながら先生と看護師さんに礼を言って診察室を出た。MRIは午後からしか予約が取れないとのことなので一旦帰宅することにする。慣れない松葉杖歩行や脚の痛みに耐えながら待合室で少しずつ姿勢を変えたりするのに疲れてしまったのである。妻が迎えに来る時間がないというので、タクシーで帰宅すると、ソファに横になり少しの間仮眠をとった。

 

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MRIは毎年の健康診断で撮っているので勝手知ったるものである。時計や指輪など身に着けている金属類を外すと準備万端なのだが撮影用のベッドまでは結構な距離がある。看護師さんが車いすを使うよう勧めてくれたので遠慮なく甘えることにした。ベッドに横になると看護師さんが私の膝の角度を少しずつ変えて、撮影にちょうど良いポジションにしてくれた。そして最後にひと言、にわかに信じがたいことを言った。

 

『撮影は30分です。動かないようにじっとしていてくださいね。』

 

な、なんだって?今まで私が経験したMRIは長くて20分ほどだった。痛みに耐えながら30分間も動かずにじっとしていろなんて拷問そのものではないか。笑顔をかなり引きつらせながら返事をすると、一人ぼっちの撮影室にヒュンヒュンというMRIの機械音だけがこだました。


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何とか我慢して撮影が終わった。書類をもって会計に向かう。名前はすぐに呼ばれて窓口の女性職員が私に質問した。

 

『交通事故だと思うのですが、相手の保険屋さんとは連絡が取れていますか?』

 

「いえ、まだなんです。」

 

『そうでしたか。次回の診察までに保険屋さんと連絡が取れなかったら、いったんcornさんの方で全額立て替えていただく形になります。現時点で10万円ちょっとになります。』

 

ムムッ。なるほど、そういうことか。

 

「わかりました。ありがとうございました。」

 

病院を出ると薬局に行って処方された痛み止めをもらった。妻が迎えに来てくれたので、すぐに車に乗り込む。昨日、事故の相手からは連絡がなかった。もし、明日まで待って連絡がなかったら、こちらからショートメッセージを送ろう。頭の隅でそう考えながら帰宅中の車内で妻と会話した。

 

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そう言えば警察署へ調書を取りに行かなければならなかった。週末の午後は仕事も落ち着くのでその時間にしよう。警察には日程が決まったら事前に連絡を入れるよう言われていたので電話をかけた。警察に電話するのはあまり良い気はしないものであるが、私は今回被害者なので仕方ない。電話がつながると名を名乗り用件を伝えて担当者に代わってもらった。

 

「金曜日の午後に伺うのでよろしくお願いします。そういえば、まだ相手から連絡がないのですが、こんなものなのでしょうか?」

 

せっかくなので相手の状況を確認してみた。

 

『ああ、そうでしたか、こちらの方からも連絡してみますね』

 

有難い返事が返って来た。直接私から連絡するよりクッションが入ったほうがお互い良いだろう。

 

警察との電話を切ると1時間ど経った頃に事故の相手から連絡があった。謝罪の言葉、私の状況についての気遣い、警察が私の連絡先を間違えて伝えていたので連絡が遅れたこと、保険会社にも間違った連絡先が伝わっていることが一方的に話された。最後に今一度、謝罪の言葉で締めくくられ、何かの営業ではないか?と思うような電話が切られた。

 

そして、その後すぐに保険会社からも連絡があった。事故の状況を説明すると相手が話している内容と齟齬があるような感じだったが、私の説明をきちんと聞いてくれた。松葉杖をついて歩けないことや、最悪手術になる可能性がいあることなども伝えると、申し訳ないが進捗があるたびに都度連絡を入れるようにということを聞いてこちらの電話も切った。今後の病院への支払いは保険会社で対応するとのことだったので、とりあえずひと安心である。

 

膝の状況は本当に少しずつ良くなっているといった感じである。事故に遭ってから今日でちょうど1週間が経つのだが、まだまだ膝は腫れているし、きちんと曲がらない。明日、休日明けの火曜日が専門医による診察の日なので、そこである程度今後の予定が立つだろう。なんだか複雑な気持ちが続く2026年の年明けなのであった。

 

 

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というわけで明日、判決が言い渡される。

 

最悪、手術という運びになるのだが、手術が避けられたとしたらどうなるのかが不明である。

 

さて、どうなることやら。

 

私の未来


まぁ、ゆっくり酒でも飲みながら考えるとしよう。

 

ビールをこよなく愛する皆さま

 

であるからして

 

やっぱり今宵も

 

キンキンに冷えたビールで

 

乾杯ッ!

 

なのである。

ムフフフフ。

 

 

 

前回から続く。

 

 

救急車で搬送された先の病院で、ひと通りの診察が終わった。あとは会計をして帰るだけである。妻と息子が車で迎えに来てくれるので安心だ。

 

ちょうど病院の職員が出勤するタイミングと重なっているため、夜間通用口は結構人の出入りが多い。通用口のすぐ横に会計窓口があり、その横に置かれた長椅子に腰掛けながら自分の名前が呼ばれるのを待っていた。もちろん会計を待っているのは私一人である。

 

会計窓口の職員も入れ替わりの時間なのだろう。引継ぎなどをしているのか、少し時間がかかっている。何をするでもなくボーっとこれからの事などを考えていると、聞き覚えのある声が廊下の奥から聞こえてきた。妻と息子が到着したのである。二人は私の顔を見つけるなり小走りで近寄って来た。私は笑顔で手を振った。

 

『お父さん、大丈夫?あ、歯がない』

 

息子がそう言って、心配そうに痛めている足と折れてしまった前歯を交互にを見た。

 

「とりあえず今日は終わりで、明日また来てくださいって言われた。痛くて歩けないから松葉づえをもらったよ。」

 

そう言うと、妻が眉間にしわを寄せてさらに心配した。まぁ、怪我以外は元気だからまずは帰ろう。そう言ってカバンを息子に預け立ち上がった。松葉づえをつくのは初めてなのでうまく進むことができない。実は息子はちょうど3か月前に脚の手術をして松葉づえをついていたので、この界隈では先輩である。歩き方のコツを教えてもらいながらゆっくりと進んだ。

 

妻が駐車場から車を取って来る間に事故の状況などを息子に話す。もらい事故であることを説明すると相手に対して怒りをあらわにした。しかし、意外なもので私自身は相手のことを特に何も思っていない。ただ、ちゃんとした保険に入っているのか?ということだけが気がかりだった。

 

妻が乗った車が目の前に停まると、息子の介助を受けながら後部座席に乗り込む。つい数か月前までは息子と私との立場が逆転だったことを話しながら苦笑いするしかなかった。ちょっとした衝撃を受けるだけで激痛が走るので、気を付けながら座席に着いた。初めてやって来た病院の帰り道を案内しながら、妻にも事故の状況を説明する。息子と同様に相手に対する憤りを口にした。当たり前だろう。私だって家族がこのような目に遭ったら同じ気持ちになるに決まっている。


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無事に家へ到着すると玄関に入るまでにいろいろな障害があることに気いた。普段は全く気にならない低い階段や段差が私の松葉づえ歩行を阻むのである。何とかリビングまで辿り着き、着替えを済ませるとソファーにドスンと座った。またズキンと激痛が走る。ああ、どうにかならないものか。痛めたのは右足の膝である。服の上からでもわかるくらいに腫れが酷く、曲げることができないのだ。ちょっと捻るだけで痛くてたまらないのである。

 

まだ冬休み中の娘が部屋からゴソゴソと起きだしてくると、私の姿を見て驚いた。事の成り行きをひと通り説明すると娘も妻と同様に眉間にしわを寄せ痛々しい姿の父をを心配した。

 

私はスマホを取り出し、今後の事故の対応などを調べていると気分が落ち込んでくるのがわかった。これからいろいろと面倒なやり取りをしなくてはならならいことが書かれていたからである。事故相手の保険屋というと、なんとなく嫌なイメージで治療費やその他の事に対して1円でも安く対応させるような、そんなケチな姿しか想像できないのだ。

 

とりあえず、私が入っている保険の補償内容も調べてみることにした。すると見事なほどにかすりもしない内容だった。入院に対しては保証されるのだが通院は一切対応していないのである。やれやれなのだ。落ち込む気分がさらに落ちていくのだが、自動車保険の方はどうだったか?何かしら保証されないものか。あまり期待もせずにWEBで調べてみると、ラッキーなことに弁護士特約に入っていることが分かった。相手の保険屋が変なことを言ってきたら弁護士をたてよう。少しだけ気分も上がったので、その勢いで窓口に電話を入れた。

 

担当者は事故に遭ったことに対する見舞いの言葉を述べたあとに私の補償内容を確認する。そして確かに特約が使えるということを教えてくれた。弁護士が出てくるのはおそらく示談をする際だと思うので、その際は遠慮なく連絡をよこすようにと言われて電話を切った。


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そういえば事故直後に、ショートメッセージで会社の上司にも事故の報告をしていたのだが、そのままだった。詳細を連絡するために電話すると、見舞いの言葉と共に怪我の回復に専念して仕事はその後で良いという言葉を貰った。ありがたい。あとで聞いた話なのだが、事故の報告を受けた社長が、新年の全社朝礼で年明け早々私が交通事故に遭ったことを全社員向けに話したそうである。それを聞いた人から私の上司宛てに心配の連絡がいくつか届いて大変だったとのことであった。新年早々何とも言えない笑い話である。

 

気分はだいぶ回復したが、何かが足りない。何だろう?


おお!そうだ!歯だ!歯がない!上の前歯の一番目立つ歯が折れていて、その隣の犬歯が欠けているのだ。ネットで調べると、どのサイトを見ても折れた歯を再利用するのであれば急いて医者に診せることが重要だと書かれていた。お巡りさんが苦労して見つけてくれた歯である。面倒くさいが行くか。

 

近所の美容整形も取り扱う病院をいくつか探して予約の電話を入れてみる。1軒目は明日の午後からしか予約できないと言われた。2軒目は当日の午後一番で診てくれるということだったのでそこに決めた。妻に送迎を依頼してから、疲れも出てきたので少し休むことにした。

 

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妻に歯医者の近くまで送ってもらうと、そこから松葉づえで受付まで向かうのだが、これがなかなかキツイ。両手に慣れない杖を突いて歩くのは見た目以上に体力が必要である。ゼェゼェハァハァ言いながら途中で休み休み、やっとのことで窓口まで到着した。初診であるため問診やアンケートなどを書いて診察を待つ。事故に遭ってやって来たことを事前に伝えていたのと、松葉づえをついている姿を見て病院のスタッフはとても気を遣ってくれる。

 

名前を呼ばれたので、難儀しながらやっとのことで診察台に座ると、かなりふくよかな女医さんがやってきた。挨拶と共に事故の見舞いを述べてくれた。口をゆすいで診てもらうととりあえずレントゲンで骨の状況を確認することになった。


また松葉づえを取り出し歩いて移動するのが本当に面倒くさいのだが仕方がない。優しいスタッフに案内されてレントゲンを撮り終えた。

 

『骨に異常はなさそうですね。欠けた歯は今日治します。折れた歯なのですが、元の歯は使えないので破棄しますね。差し歯になりますが保険適用の安価なものとセラミック製のものと2種類あります。しかし前歯なので絶対にセラミックをお勧めします』

 

ふくよかな女医さんに、そう言われるがまま、セラミックでお願いすることにした。お巡りさんが一生懸命探してくれた元の歯は、あっさり別れを告げることになった。保険が適用されないので自費になることを確認されたが事故の被害者なので何とかなるだろう。ダメだったら自腹で治すか。そんなことを考えていたら「12万円です」という言葉が聞こえて一瞬たじろいだ。いや、前歯の一番目立つところだから綺麗に治そう。自分にそう念じながら出費を正当化するのであった。

 

『治療は2回に分けて行います。次回はセラミックが入れられるように歯を削ります。その次に歯をかぶせて完了です』

 

女医さんはキッパリそう言って、少し欠けた歯を治すとともに周りの歯も、あの嫌な金属音がするドリルのようなモノでキンキンと削っていった。初日の治療はここまで。待合室に戻り、少し待つと私の名前が呼ばれたので窓口に行く。

 

『次回の予約は来週の水曜日が最短になります』

 

エッ?水曜?今日は月曜日なので1週間以上先ではないか。このみっともない顔でそれまで過ごすのか?そんなことが頭の中を駆け巡ったが、どうもがいても選択肢はそれしかない。そのまま予約を入れて会計を済ませると意気消沈して病院を出た。トホホ、マジか。

 

妻には連絡を入れていたのですぐに迎えに来てくれた。車の中で治療の方針と次回の予約の話をすると、まずはセラミックの方が絶対良いと太鼓判を押してくれた。しかし前歯のない私の笑顔を見るたびに、憐みの表情を浮かべながら眉間にしわを寄せ、その後に必ず大爆笑になる妻とひとしきり盛り上がりながら帰路に着いたのであった。

 

 

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世間は三連休というのにどこにも行けない。

 

松葉杖を突いてロードバイクには乗れないし、ランニングもできない。

 

ウォーキングもできないとなると、何をすればよいのだ?

 

天気の良い週末、気分が浮いたり沈んだりしながら時間をつぶすのは、なかなか大変である

 

ああ、早く夜になってビールが飲めないかな?

 

そんな事ばかり考える大酒飲み被害者の会代表なのであった

 

ビールをこよなく愛する皆さま

 

であるからして

 

やっぱり今宵も

 

キンキンに冷えたビールで

 

乾杯ッ!

 

なのである。

ムフフフフ。

 



 

 

 

 

2026年1月5日。新年の仕事始めの日である。今回の年末年始休暇は曜日がうまくはまり、9連休という長く楽しいモノだったので社会復帰できるか不安だったが仕方がない。年始恒例の全社朝礼もあるので、いつもの時間に起きた。

 

年末年始で溜まったゴミの収集日でもあったので家中のゴミをかき集めて袋にまとめた。いつもより多い二袋を抱えて家を出た。辺りはまだ暗い時間である。マンションのゴミ収集室にはこんな時間なのにいつもの倍くらいのゴミが積まれていた。毎年、どこの家も状況は同じなのだな、と思いつつ歩き始めた。

 

駅までは15分弱の道のりである。途中で大きな道路を横切るのでいくつかの信号に引っかかる。しかしこの日はタイミングが良く、私が横断歩道の前に立つと同時に信号が青に変わった。この道を渡って少し行くともう一つの信号がある交差点を渡らなくてはいけない。しかしその信号が青になるタイミングは、今渡り始めた横断歩道からかなり早歩きで行かないと渡り終えるのがギリギリになる。いつものように急いでその交差点に向かい、うまく渡ることができた。

ここから先は特に急ぐような信号もないのでゆっくり歩く。最初の角を左に曲がったら真ん中に広い遊歩道があり、その両側にはお互い反対方向に進む一方通行の道がそれぞれ通っている。そして30メートルほど歩いたところに信号のない小さな交差点がある。見通しも良く、車の通りもかなり少ない場所なので、私はいつも通りに一方通行の道を歩いていた。

 

その小さな交差点の手前10メートルほどのところで、私は右側の道からオートバイが走って来るのになんとなく気づいた。ライトが一つしかないのでそれがわかったのである。そのバイクが進んでいる道と私が歩いている道が先の信号がない小さな交差点でつながる。

 

バイクがいる地点から私が歩いている道と交差する地点までには一時停止が2つ存在する。バイク側の道にである。私が歩いている道は有線道路なのだ。自動車は遊歩道を挟んだ一方通行の道それぞれと交差する前にいったん止まらなければいけないルールである。私はその様な事など一切考えることもなく駅に向かって歩いていた。すると突然、右側からもの凄い衝撃があったかと思うと右足に激痛が走った。

 

「痛えーっ!」

 

かなりの大声を出した。何が起きたか全く分からないまま私は道路に強く押し倒される形で寝ころんだ。口の中に大きな石が入ったので吐き出すと、真っ赤な血にまみれて白いものがアスファルトの上に転がった。歯だろうな。なんとなくそう思った。激痛で起き上がれないが、何が起きたかを確認するために首を少しだけ上げて周りを見回した。すると1台の原付バイクが転がっていた。さっきなんとなく気づいたバイクである。

 

なぜあんなに遠くにいたバイクが私にぶつかったのかが非常に不思議だったが、そんなことを考える余裕はなく、ただ痛みに耐えるのが精いっぱいな状態である。

 

『大丈夫ですか?』

 

女性の声が聞こえた。そのバイクの持ち主の声だろう。

 

「足が痛いです」

 

私はそう答えた。

 

『起き上がれますか?』

 

「痛くてダメです。助けてください」

 

『私も起き上がれない』

 

相手の足もバイクの下敷きになっているようだ。しかし何とか抜け出してきたようで、私の横に来た。それと同じタイミングで通りすがりの男性が車から降りてきてくれた。

 

『大丈夫ですか?』

 

「いや、痛くて起き上がれないです」

 

『とりあえずバイクを動かしましょうか?』

 

そういえば我々は歩道の延長線上にある交差点の真ん中でそれぞれ倒れている状態だったのである。

 

『起こして!早くおこして!』

 

とても乱暴な言い方で私の事故の相手女性が、助けに来てくれた男性に対し命令するように言った。

 

男性は私に道の真ん中なので端に寄ったほうが良いと言った。痛いので本当はそのまま寝転がってていたかったが、意を決して体を持ち上げた。しかし起き上がれない。痛みが強すぎるのである。仕方ないので痛めていない左足に全神経を集中させ右足を引きずりながら両手を道路について何とか端に寄った。情けない格好で道の端によると、そのまままた仰向けに寝転がった。

 

相変わらず相手の女性が助けに来てくれた男性に対し、命令するような口調で救急車を呼ぶように言っているのが聞こえる。本人は警察に電話しているようだ。そうだ、私も連絡しなくては。携帯を取り出し妻に電話をした。

 

「交通事故に遭って轢かれた。相手はバイク。大丈夫だけど足を怪我をしている。あと歯も折れた。」

 

電話の向こうであからさまに狼狽している妻の状況が聞き取れた。歩いて帰ることができない事は自分でも理解していたので、救急搬送されるのは間違いないだろう。病院が決まったらまた連絡するということを伝えて電話を切る。道路に仰向けに横たわると、明るくなり始めた空が見えた。


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『大丈夫ですか?』

 

私の頭上にかがむ形で警察官が現れた。

 

「足が痛くて立てないです。あと前歯が折れました。」

『わかりました。今、救急車が来るのでもう少し我慢してくださいね』

 

優しい対応が少しだけ安心感につながった。

 

それからどれくらい経ったか覚えていないが、感覚的には少し長く感じた頃にサイレンが近づいてきた。なんとなくホッとした。救急隊員は警察官と同じように私の状況を質問すると、私の横にストレッチャーをに置いた。どうやってその上に乗ったかは覚えていない。

 

ストレッチャーは高さが二段階になっており、私が横たわる際には地面すれすれ、救急車に乗る際は車内のちょうど良い高さになるよう調整された。衝撃はほとんどなく、足を痛めた私にとって非常にありがたかった。住所や名前、身長体重などを聞かれたような気がする。痛めた部位を確認していると、他にもいろいろと擦りむいている場所が見つかった。

警察官も車内に乗り込んできて私の情報や状況を簡単に質問してきた。瞬時にいろいろ考えることができず、とりあえず名刺を渡し、できるだけ喋る機会を減らした。

『cornさん、折れた歯が見つからないんですがどうします?』

警察官が残念そうにしながら戻って来た。

 

「折れた歯って、また使えるんですか?」

 

『使えるケースもありますよ』

 

「私が血を吐き出した場所の半径1メートル以内にあるはずです」

 

そう言うと、しばらくしてから湿ったティッシュに包んだ歯を青いビニール袋に入れて持ってきてくれた。ありがたい話である。

 

早朝に整形外科医がいる救急病院が近所にない、と救急隊員に言われた。確かにそうだろう。救急病院自体は今いる場所からすぐ近くにあるので、私はそこに運ばれるのだろうとばかり思っていた。しかし実際には違ったのでとても残念に感じた。

 

『入院はできませんが、救急で診察してくれる病院がありました。そこで良いですか?ここから少し離れていますが。』

 

申し訳なさそうに隊員の方が言う。

 

「はい、大丈夫です。お願いします。」

 

私の同意を得てから、また少し待ち時間があった。受け入れ先と調整しているのだろう。

 

『病院が決まりました。迎えに来てくれるご家族はいらっしゃいますか?』

 

迎えは問題ないことを伝えると、事故発生からおおよそ50分後、救急車がサイレンを鳴らして走り出した。

 

もの凄く昔の話だが「救急車は乗り心地が悪い」ということを友人に聞いたことがあった。友人はバイクに乗っていて車に衝突され大けがを負ったのだが、その時隊員の人に乗り心地が悪いということを冗談めいて言ったそうだ。

 

『意外とそうなんですよ。でも、そう思えるということは命が確かにあるということなんですよ。』

 

友人からその話を聞いて、なるほどなと思った。そのことを思い出しながら、今私が乗っている救急車は結構乗り心地が良いなと思った。隊員の人には言わなかったが、ストレッチャーのクッションが絶妙な緩衝材となっていて、痛みを感じさせないようにしているのである。友人が隊員の人から言われた言葉の意味からすると、私は死ぬのか?などと考え、気持ちも少しほぐれていることが分かった。

 

20分ほど走った先の病院でサイレンが止まった。救急車のリヤゲートが開くとストレッチャーのままで夜間外来の方に運ばれる。建物側のドアが開き、けだるそうな若い男の看護師が見えた。

 

名前や住所などを聞かれ痛い部分を教えると、すぐに脳のMRIを撮ることになった。頭を打っていないことは分かっているが、念のための撮影である。その後は足のレントゲンだ。


しばらく待っていると私より10歳ほど先輩に見える医師がやってきて、脳、足の骨、共に異状がないということを優しく私に告げた。必要だろうということで診断書も書いてくれた。手慣れたものである。

 

『痛み止めの薬を出しますので、とりあえず明日、もう一度来てください。状況を確認しましょう』

 

そう言って予約まで取ってくれた。ありがたい。妻に病院の場所をLINEで送っていると、最後に看護婦さんがやって来た。

 

『歩けますか?』

 

そう聞かれたが、とても歩けそうにないことを伝えると松葉杖を持ってきてくれた。サイズの合わない特大のモノだが、今はこれしかないので後で変えましょうということである。仕方ない、人生初の松葉づえ体験だ。

 

全ての診察が終わり、夜間外来の会計待ちをしているとスマホがブルっと鳴った。LINEが入ったのだ。妻だろう。

 

「これから息子と一緒に行くよ。学校休んだ。めっちゃ心配しているよ。」

 

嬉しいのと共に、心強く感じた。


続く、、、


かな?


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足の怪我は意外と悪く、事故翌日にMRIを撮ったので来週、専門医による診断がなされる。最悪手術の可能性があるとのことだ。昨年、息子がやった怪我と非常に似た状況になって来た。やれやれなのである。

それよりなにより一番困るのは、自由に外出できなくなったことである。


私にとって命よりも大切なビールが買いに行けないではないか!


刺身はどうする?


芋焼酎だって飲んだらなくなるぞ!

 

ビールをこよなく愛する皆さま

 

安心くだされ

 

その様に

 

酒だけは毎日欠かさず飲んでいるのである

 

であるからして

 

やっぱり今宵も

 

キンキンに冷えたビールで

 

乾杯ッ!

 

なのである。

ムフフフフ。